第82話:本音
与瀬村は急に顔をあげると口を開き話し始めた。
「パピィの言った事が正しいって思って今まで頑張ってこれたの。ずっとそれが正しいって思い込んできたから。それでお金を捧げて頑張っていれば……好きな人が出来れば……安心出来るって思ってたのに…私の事わかってくれるって思ってたのに!なんでっ!」
与瀬村は考えながら自分の感情と現実を頭の中ですり合わせていた。
……どうしてっ……みんな私から離れていくんだろうか……私がもっとお金を稼いで貢げば……みんなもっと仲良くしてくれるって思っていたのに。どうしてっ……
悩んでいる与瀬村に対し穂積は与瀬村に大切なことを問いかける。
「与瀬村さんがきっときっ……傷つくと思うんですけど。どっ……どんなに与瀬村さんがお金を稼いでも与瀬村さんのお金だけ見てて。与瀬村さん自身の事をいっ……1ミリも見てないと思うんですけど。その事は与瀬村さん気づいていますか?」
穂積に言われた言葉が何かの気づきになったのか与瀬村は穂積に言葉を返す
「本当だ金ズルじゃんっ!マミィと一緒!」
璻は与瀬村の発言の様子を観察しながら気づいたことがあった。
……同じことしていたって今頃気がついたんだ。気づけてよかったけれども……
与瀬村は少しううん〜悩むと笑いながら口答えをした。
「ん?でもぉ〜募金活動してると思えば!私いい事してるっ!ってなるよね!」
与瀬村の発言に璻は呆れる。さすがの璻も与瀬村の発言を聞き心底イラっとする
……いやそれ!言葉変えてるだけじゃん!やっている事同じなんですけど、なんでこんなに言い訳するんだろうか?……
穂積は与瀬村の発言を聞き諭すように話かける
「よっ……与瀬村さんは今悲しいのですね。現実が直視出来ない自分にも憤りを感じ、対人関係がお金によって成り立っていた事にも悲しさを感じていますね。そ……それにどこか気づいていたのに見ないふりをしていたから今の今まで"募金や貢ぎ物"で自分はいい事をしていると思わせているように見えます。もっ……もう気付けないフリをしているのは…やっ……ややめませんか?」
穂積が必死に与瀬村に対しアドバイスをしているが当の本人である与瀬村は穂積に対して眉間に皺を寄せ怒り始める
「はあっっ??つかさぁ?ずっ〜と質問してんじゃん。こんなに話し聞いていて楽しいわけ?なんかさぁ〜吃音気味の穂積さんだっけ?話聞いている私役に立ってるぅ〜素敵とか思ってない?そういうのマジでウザいんですけど?アンタも私と同じ承認欲求でもあるんじゃないの??」
穂積は与瀬村に言われ思い当たる節があることに気がついた。普段の穂積は気にしたことがなかったが与瀬村に言われ見ないようにしていた嫌な感情と記憶にぶち当たっていた。
与瀬村の発言は穂積の心に深く刺さり痛々しい感覚が残っている。
そのよくわからないこの不快な感覚の原因を穂積は思考を巡らせ考えていた。
………なんだろう。だっ……誰かに言われたことあるその言葉。幼い頃から人の話を聞くと褒められていた事が嬉しかった。それは私の事実。この後の与瀬村さんとの会話はどうやって対処すればいいの?そして与瀬村さんの言葉は昔、信頼していた人に似たような事を言われたことがあるような……
穂積は自分の記憶を遡っていた。するとある記憶が思い浮かんだ。これは小学生の頃だった。目の前には男性が立っている映像が思い浮かぶ。
……私には歳の離れた兄がいつも居た。両親とは仲が悪くいつも衝突をしていた。重要な家業は以外はサボるような兄だった。しかし両親や祖母は兄をいないもののように扱ってきた。それが私には許せなかった。いつも話を聞いてくれる人だった……
小学生の頃の穂積は部屋の隅によく体育座りで座っていた。
頭を下げ小さく声を殺して泣いているのが穂積の日課になっていた。そんな穂積にいつも兄が近づき優しく話しかけていた。
「お前またかよ。いつまで意見言わないつもりだ?舐められてる事気づかねぇのかよ?アイツら褒めて自分の話聞かせたいだけじゃねーかよ。」
その言葉になぜか顔を上げて兄を見つめガラガラな声で言葉を返す。
「だっ……だだって。誰もわっ……私の話聞いてくれなくて……いっ…いつも話をすり替えられて。言いたい事が全部、かき消されて……もうっ……」
近づく兄に縋るように右足のズボンを穂積は手で引っ張って離さなかった。
兄はしゃがみため息を吐くと穂積を見て頭を撫で優しく話しかけた。
「お前なぁ……泣くのやめろ。感情的になっても効率悪いぞ。時間の無駄なんだぞぉ〜ったく。しょうがねぇーな。話聞いてやっからよ」
そう言ってくれる優しい兄は穂積の話を聞いてくれていた。しかし…穂積が中学に上がったころに優しかった兄はたまにしか実家に返って来なくなった。兄は"水流士"という仕事をしていた。たまに帰省して帰ってきては穂積の話を聞いてくれる家族の中で唯一味方と言える存在だった。
……そう。私の救いだった……
いつものように兄が帰省すると愚痴に近い話をしていた。
その時からだろうか?兄の様子がおかしくなったのは…穂積の話をしている途中に強い口調で兄は話し出す。
「お前!話聞いて自分は役に立っているって思ってんだろう?いい加減にしろよぉ!そんな事で自分の承認欲求を求めるなよ!親なんてな?18才まで育てる義務があるだけの職業だ。自分の感情が親を通して学べなければ18才で家を飛び出せばいいんだ!親に全てを求めようとするな!親は人間的に不完全だ。だから自分で答えを常に探しにいけ!お前にはそれが出来るんだから」
兄の強めな口調に穂積はびっくりすると泣きそうになりながら言い返す
「鏡兄の言っている事、学生の私にはわからないよ!」
兄は体育座りをしている穂積に近づき、いつものように頭を撫でると優しく話しかける
「学生の内に社会に出ても生きていける能力を身につけろ。お前には超視覚があるだろ?それを活かした職業に着くんだ。家業は継がなくていい。ただお前の御霊を磨け。」
兄の言葉が何を指しているのかこの頃の穂積はわからなかった。穂積は兄に言葉を返した。
「言っている意味わかんないよ…成人になるまでのこの6年間耐えればいいってこと?」
兄はその場で立ち上がり穂積を見ると話をし始めた。
「自分で考えろ。俺はもう…この村に戻らない。親とも会わない。お前とも会わない。一生な。もうこれでお前の話を聞くのが最後だ。じゃあな」
突然の告白に穂積は戸惑う。
…なんで??鏡兄がいなくなったら誰に話を聞いてもらえればいいの?…
穂積は兄に辿々しく声をかける
「まっ…待ってよ!そんなこと聞いてないよ!」
兄はその場を静かに去っていく。
…それ以降、鏡兄とは会っていない…
穂積の記憶が一瞬頭を掠め再生されていた。記憶が終わると同時に穂積は自分の記憶と感情に気づきを得ていた。
……そうだ鏡兄に言われたんだ……あの頃の鏡兄の言葉、前の私だったら気づかなかった。また同じ事を与瀬村さんを通して言われているんだ。今どう自分の感情は動いているんだろう?なんで傷ついているんだろう?あの頃の自分と比べて自分がどう答えるのがベストなの?もし自分が自分を試しているんだとすれば……私に足りないのはハッキリ自分の意見を自分で言う責任と強い意思…自立力と父性力なのかもしれない…
穂積は深呼吸をしながらゆっくりと与瀬村に言い返す
「よっ……与瀬村さんが仰っている事は確かにそうです。わっ……私も人の話を聞きそれが求められる私自身に優越感と価値を感じていました」
与瀬村は鼻で笑いながら穂積にバカにするように話し始めた。
「ふっ…ほーらやっぱり〜ウチらぁ〜同類じゃん?仲良くできそ〜」
……ここで自分の意見を言わないとまた流されてしまいそう……
そう思った穂積は少し震えながら勇気を持って話し始める。
「よっ……与瀬村さんは今同調しようとしましたね?わっ……私はあなたの方がよっぽど承認欲求や価値観を求めているように見えます。私は醜い私がいる事を理解しています。ちゃっ……ちゃんとその場その場で自分の意見を言えるように練習している最中なんです。今だって。今だって、私の知らない所で誰かに何かを言われているかもしれないし、相手の無駄な愚痴に付き合い自分の時間を犠牲にされたり、相手に心底依存されるのが嫌です。私はそうなったら、きちっと相手に嫌だと言えるようになりたいんです!でもこの仕事は話を聞く仕事です。だから目の前の人と真剣に向き合い話を聞いた上で私が嫌なことはきちっと言います!今の与瀬村さんの発言はとても不快です。私は与瀬村さんの人生と考え方がよくなればいいなと思って真剣に聞いていますしアドバイスだってします。それが私の仕事です!」
穂積の表情はやっと自分の意見を相手に言えて清々しそうに璻には見えていた。璻は穂積が何か自分の中のモヤモヤを受け入れ行動し解決したような感覚がした。そんな一生懸命な穂積に対し与瀬村は興味無さそうに応える。
「あっそ。ごめんね〜!ふーん。つか、アンタの決意表明なんて興味ないの〜!どうでもいい話しなくていいから私のカウンセリングでしょ?じゃあ実際どうすればいいのさ?好きな事に貢がないで何に貢げばいいのさ?一緒にコミュニケーション取れる相手がお金を払わないと作れなきゃ、何をすればいいの!教えてよ」
与瀬村の態度がだんだん悪くなっているように見える。璻は与瀬村をじっと見つめると話を返した。
「与瀬村さんは"お金を払えば仲良くしてくれる"という前提で考えていますね?なぜそう考えるのでしょうか?そこにしがみつかなければいけないメリットがあなたの中であるはずです。わからないという言い訳はいいので思った事を応えてください」
与瀬村は璻の問いかけに震えながら応える
「めっ?メリット?そんなんお金を払えば……なんでも仲良くしてくれてかまってくれる。私の話を聞いてくれるから。金ズルマミィも……お金を渡したら話を聞いてくれたし、態度も変わった。男も女も同情してお金を渡せば信じてくれる。そういうもんだと思って生きてきたんだもんっ!」
なぜか涙目になりながら与瀬村は必死に璻に訴えていた。
璻は与瀬村の会話を聞きある考えが浮かび確信に変わった。
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・お金があればなんでも言うことを聞いてくれる
与瀬村はお金があればなんでも言うことを聞いてくれると思っていました。しかし現実はお金があれば詐欺にも遭うし高い税金も払わなければいけない、そういうことが積み重なって与瀬村は自分の過去と感情に気づくことになりました。これは海外の高額富裕層の方々がそういう思想をお持ちな人が多い考え方です。
・鏡兄
穂積右鏡の兄です。昔は水流士をしていました。2050年では行方不明となっています。穂積右鏡の理解者でもあり、藤宮同様に人の気持ちが手に取るようにわかるカウンセリングで有名でした。
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