第114話:言葉にした時点で受け取る意図は人によって変わる
璻の背丈くらいある茂みは思った以上に見通しが悪い
そんなことを思いながら璻は歩いていると前から声が聞こえた
「えっ!くっ…いってぇっ〜〜!」
八剱が急にその場で止まると心配した璻は八剱に駆け寄った
なんと八剱の長いポニーテールが茂みに引っかかっているのがわかった。
璻は八剱に声をかける。
「八剱さん今引っかかっている髪の毛を取るので少し動かないでください」
八剱は気にしない様子で璻に言葉を返した
「大丈夫ですよ。このくらい自分で……」
そういうと八剱は無理矢理前に進もうとした。が……全く取れる様子ではなかった。璻は呆れながら茂みに絡まっている髪の毛を解いた。
璻は八剱に言葉をかけた。
「出来ましたよ。ポニーテールで来るから引っかかるんです。綺麗な髪が台無し…この長さなら縛ったらいいのに」
そう璻が言葉をかけると八剱はハッとした様子で言葉を返した
「あっ…そういや縛るものあったな?」
そういうと八剱はポケットの中をゴソゴソと探し始め黒いヘアゴムを見つけると髪をお団子に縛り始める。
手慣れた様子で髪を縛り上げると八剱は璻に声をかけた
「はい!マンバンヘアの出来上がり〜スッキリしたでしょ?」
嬉しそうな様子で話す八剱に対し璻は八剱の髪型をじっと見つめ言葉を返した。
「マンバンヘアって初めて聞きましたよ。なんか縄文時代の人みたいですね……」
八剱は少し考えなんともいえない表情をした。教科書に載っている縄文人は野生的な感じがするがそれが褒め言葉に値するのかわからなかった。
八剱は璻に問いかける。
「縄文人って…それは褒めているって認識してもいいんですかね?」
璻はただありのままの髪型を言っただけで全く褒めているわけではなかった。社会的に考えたらここは『髪型とっ〜ても素敵ですねっ!』と言った方が印象はいいだろうが、自分が素敵だと思っていない物を褒めるほど無駄な労力はない。拝金主義時代の女性だったら社交辞令で褒め言葉を吐くなんて呼吸をするぐらい当たり前の行動だが、そんな社会的地位のために自分の考え方を1ミリも曲げたくないのが璻の本音である。
璻は悩みながら八剱に言葉を返した。
「いや……この髪型に対して感想を言っただけで別に褒めてないですよ。知的でいいんじゃないですか?」
八剱は少し難しい表情をしながら璻に声をかける
「龍後さんって変な所真面目っすね。今の知的は褒め言葉という事で受け取っておきます」
璻は八剱の言葉を聞き少しだけモヤッとした。
……別に褒めているわけじゃないけどな……
璻は小さくため息を吐いて言葉を返す
「はぁっ…言葉は好きに受け取ってください。言葉にした時点で受け取る意図は人によって変わるもんですよ……ってか、八剱さん早く前に進んでください。また藤宮さん見失いますから」
八剱は璻に指摘されるとだるそうに言葉をこぼした。
「あぁーはいはい〜わかりました〜」
八剱はスタスタ前を歩くと璻も八剱の後ろを続けて歩いた。ようやく茂みの風景から抜け視界が広くなっていた。
次の瞬間、目を疑うような光景が広がっていた。
一番最初に目に飛び込んできたのは大きな土砂崩れだった。
周りは石や土が散乱し水の経路を潰すように木々が覆い被さっている。水は出ているが木々や石を片付ける人がいないため無法地帯になっていた。
璻は思わず声を溢した
「ひどい…」
状態を見てただ唖然とする。
……こんな状態を今だに放置している。これを片付けようなんて人はこの地域にはいないんだろうか?……
璻が唖然とする中、八剱は急に声をかけた。
「龍後さん、服に雑草ついてますよ」
璻は八剱の言葉にハッとすると服についた雑草を手で払い八剱にお礼を言った。
「ありがとうございます」
八剱は璻に「いえいえ〜」そう声をかけると土砂崩れの後をじっと見つめている藤宮の元へ駆け寄り声をかけた
「藤宮さんこの土砂崩れはさっきのより酷いですね」
藤宮は言葉を返した
「はい。これをなぜ今まで放置していたかの方が俺は気になりますね」
璻も藤宮の元に駆け寄ると声をかけた。
「この規模の土砂崩れは見たことがないです。この場合は片付けるのに相当な労力がいる気がするのですが」
藤宮は頷きながら璻の言葉を返した
「そうですね…今この現状を打開するには地域の自治体にこの状況を共有し一緒に片付けるくらいしかできないですね。なんとか水が出ているので石や木々を片付ければワンチャン水がまた流れてくるかもしれないです」
八剱はゆっくり歩き土砂崩れに近づくとその場でしゃがみこんだ。つけていた軍手を外すと土砂崩れの土に触れた。八剱は不自然な事に気づき眉間にシワを寄せると藤宮と璻に声をかけた
「藤宮さん、龍後さん、この土…なんだか異様に乾燥していますよ」
璻と藤宮は八剱の近くまで歩き八剱が触っている土を確認する。八剱が報告したように土は湿っておらずサラサラしているのが見えた。八剱は手についた土を払い軍手を着けた。藤宮も土を確かめるように軍手を脱ぎ素手で土に触れると土を持ち上げ数分じっと観察し土を元の場所に戻した。手についた土を払うと軍手をはめ藤宮は八剱と璻に言葉をかけた。
「下にあった土砂崩れのように土が乾ききっていますね。この土、少し持ち帰って皇か吟さんに調べてもらいますか……それと小さい石を拾ってこちらも見てもらった方がいいかもしれないですね」
藤宮の発言に疑問に思った璻は藤宮に問いかけた
「土を持ち帰るのはわかりますが、石も持ち帰る必要あります?」
藤宮は璻の疑問に応える。
「土砂崩れの原因が高濃度のフッ素化合物だった場合、正式に分析を依頼し申請すれば今日の午後には原因がわかります。石も分析に出せばちゃんとした墓石かどうかわかりますし、土砂崩れを起こした原因が人間にあるとわかれば世界政府から援助をもらえるかもしれないです。まぁ…もっとも希望は薄いですが……」
藤宮の言葉に納得をした璻は頭の中で考え始めた
……確かに分析機関に依頼して分析してもらえればちゃんとした証拠を出せる。人為的に起こした物なのか自然環境で起こったものなのかその判断がつかない限り原因は追求できないのだろう……
璻は藤宮に言葉をかけた
「土や石を持って帰るとして誰が持ち帰るんです?それに来た道を戻るのにも一苦労ですよ?」
璻は振り返ると背後にあった茂みを指差した。藤宮は茂みの事を忘れていたのか少しガッカリしながら言葉を返した
「そうですね。忘れていました。これじゃ他の人も通れないですね。先に3人で通り道を整備し片付ける所から始めましょうか……」
八剱は手を上げて藤宮に提案をした
「はいはい!この感じだと大体30分くらいでいけると思いますよ?周りの草を抜いて石をどける作業が必要になると思います。基本的に重いものは藤宮さんと俺が担当した方がいいですよね」
八剱の提案に藤宮は軽く頷き言葉をかけた。
「はい。そうしましょうか。璻さんは来た道を戻るように雑草を抜いて下さい。それで通り道は作れると思います」
藤宮の指示に頭の中で疑問が浮かんだ。
……確かに雑草を抜けば道は通れるけど抜いた草はどうするんだろうか……
璻は藤宮に質問をした
「抜いた雑草はどうするんでしょうか?」
藤宮は少し悩むと璻に指示を出した
「端に一箇所に固めてください……後で米ぬか、もみ殻、竹炭を巻いて雑草を堆肥に分解しましょう」
藤宮の指示に璻は「はい」と言葉を返すと八剱は嬉しそうにしながら藤宮と璻に話しかけた。
「こうやって見ると学生時代を思い出しますわ〜学生時代よく課外授業でふざけてたんですけど、女子に『男子!ふざけないでちゃんとやって!』って言われるのが夢で〜ずっとふざけていたんですよ。けど学校でふざけていると無視される事が多々あって、その夢も叶わなかったんですよね。懐かしいなぁ」
何気ない八剱の発言に璻は何も考えず言葉を返した
「なんで八剣さんは女子に『男子!ふざけないでちゃんとやって!』って言って欲しかったんですか?」
八剱はなぜか嬉しそうにしながら璻の質問に応える
「いや、なんかそこにドラマを感じるんですよ〜トレンディー的な?平成レトロな感じしませんか?それに……」
言いづらそうにする八剱に対し璻は言葉を聞き返した
「それに…?なんです?」
八剱はモジモジしながら璻に言葉を返した
「なんというか……『男子ふざけないでやって!』その言葉って、"自分はちゃんとしている"という女子の傲慢さを言葉から感じられるんですよ。それを相手に伝える事によって自分がいかに優等生かという社会的な承認欲求と自分に対しての優越感が透けて見えるじゃないですか!その無意味かつ無駄な感情を見ると人間だなって思うんですよね。あと単純に女子に構ってもらえて嬉しい気持ちもありますね」
八剱の発言になぜか鳥肌が立つ
……そのよくわからない分析力は学生時代から健在だったのか?……
璻はゾッとしながら八剱に言葉をかけた
「それあんまり女性の前で言わない方がいいですよ」
八剣は不自然そうな表情をしながら璻に言葉をかけた。
「こないだ鼓にそれを言ったら、”お前のそういう所がキショイんだよっ!”って言われましたね」
璻は鼓の発言に大いに共感をする
……まぁそうでしょうね。私も同じこと思ったもん。癖強なのは昔からか……
そう思った璻は深く頷いた。
何を思ったのか八剱は璻に言葉をかけた
「あー大丈夫ですよ。龍後さんも鼓も職場にいる女性は差別なくみんな”人間”だと思っているので職場恋愛とかないですからね」
八剱の言い草に呆れた璻は思わず言い返した
「どっからツッコんだ方がいいかわからないですが、職場にいる人は全て”人間”ですよ?その言い方はなんか違う気がします…もしかして無駄に話はぐらかそうとしてます?」
璻の問いかけに八剱は笑顔で「そう見えますか?」と応えた
璻は八剱の顔をじっと見つめた
……そっか、この人こういう会話、情報そのやり取りが好きなのか、そこに自分の感情や他者の感情は必要ないってそういう意味だったのか……
璻が少し困っていると藤宮が八剱に対し声をかけた
「はいはい八剱くん、気持ち悪い話をしてないでこっち来て手伝ってください」
璻は声のする方へ視線を向けると土砂崩れの手前で石を拾い上げている藤宮を見つけた
…あれ?いつの間にいなくなったのだろうか…
八剱は藤宮に呼ばれると「はい〜やりあす」と声をかけ藤宮の元へ歩き出した
少しホッとした璻はため息をついた。
……やっといなくなったか。早く仕事しよう……
そう思いながら黙々と草むしりを始めた
:*:★━━補足ポイント━━★:*:。
・社交辞令で褒め言葉を吐くなんて呼吸をするぐらい当たり前の行動
社交辞令で褒めることは2050年では衰退していきます。この背景には会社に属している人や企業からお金をもらっているインフルエンサーなどがよくやりますが、これをやり続けることにより自分の本当の意見と違うことへの乖離が発生しホルモンバランスが崩れ、精神的な病気になることが一般的に広く知れ渡るようになりました。
・『男子ふざけないでやって!』その言葉って、"自分はちゃんとしている"という女子の傲慢さを言葉から感じられる。それを相手に伝える事によって自分がいかに優等生かという社会的な承認欲求と自分に対しての優越感が透けて見える
八剱のいい意味での気持ち悪さが顕著に出ている発言ですが、この発言をする当の本人が認識できていない傲慢さを見るとなんとも言えない感情と人間だと感じることができるため少し嬉しい気持ちになるそうです。
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