第115話:てこの原理
璻は無心で雑草を抜いていると草がなくなっていることに気がついた
遠くまで視線を向けると道が出来ていた。
璻はその場で立ち進捗状況を確認する。
「あれから何分経ったんだろう?」
雑草を抜いたおかげで数人でも通れる広さになっていた。
藤宮の姿や八剱の姿がはっきり見え視界が広く感じた璻は少しだけ嬉しくなっていた。
……道って常に誰かが作って整備してくれていたんだ。雑草抜くのもこんなに大変だってはじめてわかったよ……
璻は少し離れたところにいる藤宮と八剱に声をかけた。
「こっちは人が通れるくらいには整備しましたし抜いた雑草は端に寄せときました」
声に気づいた藤宮は璻の作業を確認し道ができていることも認識した。
藤宮は璻に声をかけた。
「ありがとうございます。では、こちらもお手伝いをお願いします。璻さんは大木を運ぶのは無理なので大きい石だけ運んでください」
璻は頷き「はい」と返事をすると藤宮が立っている場所を見た。端から中央にかけて大きな大木が組み合わさり二本ほど倒れている。大木を退けない限りその奥まで詳しく調査をするのは無理な話だ。
……大木を藤宮さんたちは1人で片付ける気だろうか?……
璻が心配そうに見守っていると藤宮は倒れている大木を観察し、持ち上げられる!と確信したのか急に大木の先端まで歩いた。藤宮は木の端を持つと1人で持ち上げようとした。
それを見ていた璻は思わず声が出る
「えっ…」
藤宮は力を入れて持ち上げたが少しだけ大木が浮いた。だが左右に動かせるだけの力は藤宮にはなかった。藤宮は大木をゆっくり降ろした。
自分には無理な重さだと悟ったのか少し悩んでいると木の根本を覗き込んでいる八剱に声をかけた。
「八剱くんそこ持ち上げてもらってもいいですか?この通り道から外したいので」
八剱は少し考え藤宮に言葉を返した。
「いいですけど。この木を一緒に持つなんて非効率ですよ?それより俺が木の端を持って動かした方が早い気がします」
何気ない八剱の発言に藤宮は困惑しながら言葉を返した
「それってどうするんです……」
八剱は何を思ったのかいきなり藤宮の元に駆け寄ると脇にある林に向かいキョロキョロと周りを見渡す。八剣は地面に落ちていた長く太い木を拾い藤宮に声をかけた
「藤宮さん少しだけ大木の端を持ち上げてもらっていいですか?」
八剱の行動に理解できず藤宮は戸惑いながら返事を返した
「あっ…はい」
藤宮が大木を持つと少しだけ大木が浮き地面と大木の隙間に八剱が持っていた長く太い木を大木の下に入れた。八剱は藤宮に声をかけた。
「降ろしていいですよ」
そういうと藤宮はゆっくりと大木を降ろした。八剱は小走りで大木の端に向かうと藤宮に声をかけた。
「藤宮さん大木の端を押さえてもらえますか?」
藤宮は八剱の指示通りに大木を押さえた
「こうです?」
八剱は笑いながら応える
「そう、じゃあ…」
そういうと八剱は藤宮とは逆の大木に向かい大木の端を軽く持ち上げると右側から半円を描くように動かした。璻はその光景を見ているとある事に気がついた。
……これって確か"てこの原理"だ。下に入れた木が支点になっている。まさか小学生で習う理科の授業がここで役立つなんて……
璻は興味深々で八剱と藤宮の行動をじっと観察していた
大木を通り道の邪魔にならないように端まで動かし八剣は大木をゆっくり置いた。八剱は自信満々にしながら藤宮に言葉をかけた。
「こっちの方が効率いいですよね?」
意外な八剱の考え方に藤宮は深く驚いていた。
藤宮は少し考えると八剱に言葉を返した。
「てこの原理ですか?思いつきませんでした」
藤宮の表情が嬉しかったのか八剱は笑いながら応えた。
「はい。環境業務はこういう地味な作業が多いです。身体に負担が少ないやり方を考えた方が作業はスムーズに終わります」
八剱の言葉に藤宮は納得した表情を見せた。
藤宮は頷くと八剱に言葉をかけた
「確かに普通に運んだら身体壊しますね」
八剱は軽く笑うと藤宮に声をかけた
「そうですよ?大木まだ一本残っているのでやりますか?」
八剱の言葉に藤宮は「そうですね。早く終わらせたいですし」と言葉を溢した。璻は八剱と藤宮が仲良く業務を出来ているのを確認するとなぜかホッとした。
…と同時に璻は自分がまだ仕事をしていない事に気がついた。
……見てないで早く手動かそう……
そう思った璻は通り道にある大きい石を拾い通り道の端に集める。
八剱と藤宮がもう一本の大木を動かし終わるとある程度、数人が通れる道が出来ていた。璻は片付いたと思ったのか大木にいた藤宮と八剱に駆け寄り言葉をかけた。
「ある程度通り道出来ましたし片付けましたけど、これからどうしますか?」
璻の質問に八剱が応える
「今、藤宮さんと一旦下に降りようかって話をしてたんすよ」
璻は不思議そうな表情をしながら応えた
「降りるんです?」
藤宮は璻の質問に応えた
「石や土を分析機関に出すには獅子子さんに報告して掛け合ってもらわなければなりません」
璻は藤宮の言葉に納得すると璻は言葉を返した
「まさか……3人で降りるんですか?」
藤宮は悩みながら璻の質問に応える
「それなんですよね。俺だけ降りてもいいんですが……」
藤宮は少し悩んでいると梯子から誰かが登ってくる音が聞こえる。
大きな声で言葉が聞こえてきた
「降りる必要ないぞぉ〜」
聞き覚えがある声に藤宮はいかにも嫌な表情をする。
璻は思わず名前を呼んだ
「喜三郎さんですか?」
アスファルトに手をかけひょこっと顔を出した。
璻が思った通り上田喜三郎だった。
喜三郎はゆっくりこちらに向かってきていた。
アスファルトを登る際に喜三郎の着用していた黒い白衣に土がついたのか?黒い白衣を手で払うとなぜか髪をかきあげ藤宮をじっと見た。真剣な表情で藤宮に言葉をかける。
「大体の報告は獅子子から聞いているが…藤宮くん報告よろしく」
藤宮は「はぁっ……」とため息をつき喜三郎に報告を始めた
「下の調査が終わりここに来て土砂崩れを確認後、人が通れる道ではなかったのである程度整備し人が通れる道を作りました」
藤宮の報告は不十分だったのか喜三郎は顎に手を当て言葉を返した
「他には?もっと大事な事あるでしょ?」
喜三郎の言葉はまるで何かを見透かしたような言い草に聞こえる。藤宮は喜三郎に言葉を返した。
「急かさないでください。ここにある土と石を分析機関に出そうかと話し合っていました」
喜三郎は少し動揺すると言葉を聞き返した
「分析機関だと?土と石に化学物質が含まれている可能性があるのか?」
藤宮は軽く頷きながら喜三郎の問いに応える。
「はい。高濃度のフッ素化合物が含まれている可能性があります。土に埋もれている不自然な形の石がいくつもありました。この石が墓石の場合は高濃度のフッ素化合物が塗られている可能性があります。土も不自然に乾いていますのでこちらも調べる必要があるかと」
喜三郎は頷きながら応える
「そうか……」
璻はなぜここに喜三郎がいるのか疑問に思っていた。
……獅子子さん帰ったのかな?……
そう思っていると唐突に下から声が聞こえる
「きっちゃーん、もう返事なかったら私持ち場に戻りますからね!」
喜三郎は振り返り梯子がかかっていた場所まで早足で戻った。
喜三郎は下を覗き込み獅子子に声をかける
「持ち場に戻……」
そう言葉を言いかけた瞬間、藤宮が何かに気がついたのか喜三郎の元に駆け寄り獅子子に声をかけた
「獅子子さん!土と石を分析機関まで持ってってくれませんか?」
藤宮の言葉を聞いた喜三郎は笑いながら獅子子に言葉をかける。
「ちょうどいいな!獅子子どう?いけそうか」
獅子子は「はっ?」と言葉をこぼすと嫌な顔をし藤宮に声をかけた
「泉、貸し1な?」
藤宮は困った表情をすると言葉を返した
「貸し1って……あのこれ業務なんですけど」
獅子子は藤宮に雑な言葉をかけた
「石と土早く渡しな。上から投げて見ろ?速攻で絞めるから」
睨みつける獅子子に対して藤宮は内心おっかないと思ってしまった。
藤宮は振り返り土砂崩れに向かうと端に落ちていた割れた竹を拾った。
竹を持ちながら土砂崩れにあった土と石を割れた竹に載せ急いで梯子へ向かった。
片手で梯子を降り、割った竹を落とさないように獅子子に割れた竹を渡した。藤宮から竹を受け取った獅子子は上にいる喜三郎に声をかけた。
「じゃ〜きっちゃん、これ分析機関に渡したら業務に入るから」
喜三郎は獅子子に言葉をかけた。
「よろしく頼む」
そういうと喜三郎は獅子子に手を振った
獅子子は藤宮の肩をバシッと叩き声をかける
「おい!しっかりやれよ」
藤宮は「はい」と返事をすると獅子子は割った竹を持ちながらその場から去ろうとしていたが…
:*:★━━補足ポイント━━★:*:。
八剱の知識
八剱は環境業務をいくつもこなしているので道を整備することやどうやったら流れが良くなるのかも頭の中で計算し助言をすることが多いです。環境業務は基本的に水の流れや空気の流れなどを瞬時に感じ取る能力が必要になります。
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