第113話:あらゆる現象には理由がある
八剱は璻の前を向き一歩一歩歩き始めた。
その後ろ姿を璻はじっと見つめる。
……八剱さんの言っている事は理にかなっている……
璻は八剱の跡をトコトコと歩きついて行く。
大木や大きい石がそこらじゅうに広がり、歩くのも一苦労する。
周りの草が璻の背の高さ、まである事に驚きつつ相当この土地の手入れをしていない事が手に取るようにわかる。
周りの茂みが少ない場所に出ると八剱はその場で立ち止まり、いきなり大きな声を出し始めた
「藤宮さん〜いらっしゃいますか?」
璻は八剱の声にびっくりし思わず八剱が止まった先を見た。
誰かが通ったあとだろうか?草が踏みつけられている。
璻は八剱に言葉をかけた
「この茂み足跡がありますね?…藤宮さんですかね?」
璻に対し八剱は言葉をかけた。
「そうだと思いますけど」
璻に話した直後に奥にある茂みが動きはじめた。
璻はビクッと身体を硬直させ様子を伺っていた。
すると草を退けながら、藤宮が向かってくるのがわかった。
璻はホッとすると藤宮に声をかける
「藤宮さん、びっくりするのでやめてくださいよ」
藤宮は茂みから出ると黒い白衣についた草を手で払い言葉を返した。
「普通呼ばれたら出てきますよ。そりゃ」
八剱は藤宮に声をかける。
「この奥、何かありました?」
藤宮は八剱の質問に頷きながら応えた
藤宮は黒い白衣についた草や埃を払いながら八剱の質問に応える
「えぇ…奥にはアスファルトが崩れた後がありましたし、そこから水が少しづつ流れている状態なのは確認できました。こちらも先程の場所と同じように土砂崩れの跡がありましたね。あとは気になったのは虫ですかね…」
藤宮は極端に嫌そうな表情をした。
八剱は藤宮の言葉を聞き納得した様子で言葉をかけた。
「やっぱり土砂崩れっすか……」
璻はなんでもない藤宮の発言に言葉を返した。
「藤宮さん、虫なんかその辺にいますけど、それは普通の事なんじゃないですか?」
璻の発言に八剱は反応する
「えっ…虫?虫がいたんですか?」
藤宮は頷きながら八剱の問いかけに応える。
「はい。所々に虫が大量に集まっていた場所がありましたね。この場合、今現在の湧水の中にいる細菌や微生物がうまく働かずその場に止まり続けていると原因を仮定しましょうか?こちらに流れている湧水は数年で水質が悪化し周辺の自然環境に影響が出ます。影響が出るのは時間の問題ですかね……」
藤宮の言葉が深刻に聞こえた璻は頭の中で考えていた。
……水は流れながらその土地に必要な情報を送っている。水が流れなければ留まり一気に土砂崩れや水害や干ばつを起こす。どんな事も自然環境がシグナルを出してくれている……
そう考えた璻は何気ない言葉を藤宮にかけた
「自然の水は特にS字に沿って流れますからね。流れている間に微生物や細菌、プランクトンを取り込み海に返しています。藤宮さんが仰っているように水質が悪化すると最悪この辺の自然も枯れ、飲み水も飲めなくなりますね……」
悲観的な藤宮と璻に対し八剱は言葉をかけた。
「俺は藤宮さんが言っていた"虫が大量にいる"という言葉が気になりますね。"虫が大量にいる"と言う事は分解しなきゃいけない栄養がここにあるって言っているようなもんです。腐った木や草があるのか?人間が捨てたゴミが埋まっているか?いずれにしろ分解する微生物は土地にいなく、虫が変わりに分解しているという事になりますけど。その辺り詳しく現状を確認したいです」
八剱の考え方を聞き関心した璻は頭の中で考えた
……普通の生活をしていたら不自然と思わない事でも疑う。これは環境業務ならではの視点かな?微生物がその土地にいないと虫がわき生態系のバランスが崩れるにはなんとなく想像できるけど、それもこの土地の懸念点になるのかな?……
そう考えた璻は八剱に質問をした。
「この環境業務って虫がいる事にも懸念点になるんですか?」
八剱は頷きながら応えた
「そりゃ〜なりますよ。一定期間なら自然なことですが、この辺の土地の現状を考えると懸念点だと考えます。耕作放棄地が多く人もあまりいない、その点水も止まり不自然に大量な虫がいるという事はどこかに不都合があります。どの虫かにもよりますが…基本的に狭く湿気が多く独特な異臭のする場所を虫は好みますね」
璻は思わず「へぇ…」と言葉を溢した。関心すると続けて璻は質問をした
「確かに湿ってる場所は虫の巣窟。最近都会の飲食店でも虫見ませんね。そもそも衛生面を考慮して綺麗にしているから虫が寄ってこないのもありますが」
八剱は璻の質問に呆れながら応える。
「都会でも羽虫が湧いている飲食店なんてそもそも売れませんよ。俺だったらぜってぇー入りたくねぇーもん。そもそも都会は飲食店にコンポストを義務付けしているじゃないですか?ゴミなんか出したら、めっちゃお金かかるし、それに都会の土は微生物が土や畑にいるように管理されているから、虫なんて見ないのが当たり前です」
八剱の言葉を聞き璻は思う所があった。
…当たり前かぁ…
捨てる事にお金がかかる昨今、飲食店から出た食品を廃棄する事を禁止する法律ができていた。余った食品は米ぬかを撒き、微生物の粉を撒き、分解して土の肥料として活用している。それが出来ない企業は寄付という形でフードバンクで食品を届けている。
……確かに都会では虫は最早珍しい、最近羽虫とか見たのは確か、街中で香水をつけていた女性に羽虫が群がっていたけど、あっ!……
璻は唐突に八剱に質問をした
「そういえば、虫見ましたよ!香水をかけている人に羽虫とかよってきてましたけど、めっちゃ嫌がってましたね」
八剱はニヤッと笑うと璻の質問に応える
「そりゃ、虫がコイツは分解できると勘違いしてきてるんですよ。人も引き寄せますが虫も引き寄せてモテモテだからいんじゃないですかね?」
八剱の呑気な発言に璻は呆れて言葉を返した。
「あの…それは……もはやモテてるとかそういう次元じゃない気がしますよ」
呆れる璻に対し八剱は続けて話す
「ともかく、虫がいる要因はその地域に無駄な栄養や腐敗臭があると突然来る事が多いです!その場合はその土地にいるはずの微生物が少ない、もしくは微生物がいない場合はさっき言ったように虫が分解しにきます。虫が集まるのにも理由があるんですよ。それを考えず、すぐ人間は虫を殺生したがる。虫が来る理由を作ってるのは人間だという事に気づいていないんですよ。人間は自分の傲慢さをもっと認識した方がいいと思います」
藤宮は八剱の話に頷くと「そうですね」とボソッと呟いた。
璻は2人を見ると問いかける。
「というか、この場合どうやって元の環境に戻すんですか?」
八剱は璻の言葉に応えた。
「まず腐敗臭の元になっている物を処理するのが早いです。木が腐敗しているなら細かくして燃やすか?人間が出したゴミなら片付けをします。あとは土の状態を見て防虫剤となる竹炭を撒く、あとは状態によって米ぬかや、貝の粉を巻いて環境を整えますかね?でもこの作業は隠者と合同でやらないとですが」
璻はその内容を聞き軽い気持ちで八剱の話に応えた
「コンポストと一緒な感じですね」
それを聞いていた藤宮は璻の言葉に応える
「いや……コンポストはもっと簡単です。家庭の生ゴミは分解しやすい物ばかりですからね。ですが森の環境は簡単ではありません。規模感が違いますよ」
璻は藤宮に問いかける。
「規模感ですか?」
藤宮は頷くと璻に言葉を返した
「環境業務の場合、土壌の状態を数値化し必要な微生物が住み続けられるような環境を作る所から始める事スタートです。ちなみに日本は人口が少ない中、放置竹林が各地に溢れています。なのでさっき八剱くんが言ったように竹を切り、炭にし虫が多い場所や土壌汚染になっている場所に撒きます。竹は放置すると厄介ですが、竹炭は防虫剤になったり、竹の皮はラップがわりにすると保存性が高くなります。土に返しても竹は微生物は分解もしやすく非常に優秀な植物です」
璻は藤宮の言葉にふと疑問が出てくる。
……そういえば、ウチのオフィスは羽虫とかいなかったっけ?もしかしたら……
璻は唐突に藤宮に質問をした
「あの、もしかして、ウチのオフィスの庭園も竹炭撒いてます?」
藤宮は頷きながら璻の質問に応える
「はい、あの庭園の土には北海道の地層に埋まってある貝の化石の粉と隠者からもらった竹炭を撒いてますので羽虫とかゴキブリは寄ってきませんよ」
璻は納得した様子で藤宮に問いかける。
「だから庭園にコバエみたいなの見ないんですね」
藤宮は嫌そうな表情をしながら璻の質問に応えた
「コバエが沸くオフィスとか働きたくなくなりますし、何より俺が嫌ですよ。思った以上にオフィスは環境に配慮しているんです」
藤宮の自慢げな表情を見ると納得をした
……あれは藤宮さんの趣味の範疇だと思っていたが、案外業務だったんだ……
八剱はその話を聞き興味津々で藤宮に問いかけた
「藤宮さんのオフィスそんなのあるんですか?」
藤宮は頷くと淡々と八剱の質問に応える
「ありますよ。手入れ大変ですけどね」
八剱は興味津々で藤宮の言葉に応えた
「いいですね!伺ってもいいですか?」
フットワークが軽い八剱の発言に藤宮は呆れながら言葉を返した
「新人研修が終わったらいくらでもどうぞ」
八剱は嬉しそうに頷くと藤宮に言葉を返す。
「じゃあ本気で行きますからね!」
藤宮は頭を抱えながら茂みの方向を指を差し八剱と璻に問いかける
「それでどうしますか?この先2人とも見て見ますか?」
藤宮の問いかけに八剱と璻は深く頷いた。
璻は藤宮に言葉を返した
「見ないと確認できませんしね」
八剱も同じく言葉を返す
「行かないと仕事にならないっす」
藤宮はため息を吐くと振り返り草木が高い場所まで歩き始めた。藤宮は振り返り2人に声をかけた
「とりあえず、俺の後についてきてください。この草超えたらアスファルトが崩れた所まで出るんで」
そう言うと八剱は藤宮の後を追いかけるように草むらに入って行った
璻も勇気を出し草むらへ一歩一歩前に歩き出した。
:*:★━━補足ポイント━━★:*:。
・虫がいる要因はその地域に無駄な栄養や腐敗臭があると突然来る事が多い。その場合はその土地にいるはずの微生物が少ない、もしくは微生物がいない場合は虫が分解しにきます。虫が集まるのにも理由がある
八剱の発言ですが、虫がいるのは意味があります。基本に分解しに来ているか?卵を産みに来ているかどっちかですが、虫は基本的に風通しがいい場所や腐敗臭がしない場所には出没しません、環境業務ではそういうところも踏まえ問題の原因を探ります。
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