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水流士-因子を解く-  作者: 小野里
- 新人研修編 -環境業務-

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第112話:働きたくない大人が働く理由を見つける

 


「䦰橋さんは急に突っ走る事があるんですよ。さらに鼓がいる場合、自分が気に食わないとガンとして一切やらない。この場合、業務をやる上でチームとして動かないと仕事にならないんすよ。誰かがタイムマネージメントして引っ張らなくては…業務が破綻する。それで毎回俺が率先し進行する立場だったんです。九鬼さんは今さぞ大変でしょうね。ははは」



 最後の乾いた笑いが八剣の心情を物語っていた。


 八剣の話を聞いた藤宮はなぜか深く納得した様子で「ああ……䦰橋さんはそうですね」と言葉を溢した。



 2人の会話を聞きあまり深掘りをしてもいい事がないと感じた璻はとりあえずアスファルトの話を切り出した。



「とりあえずこれがアスファルトだとするともっと奥にある場所の現状を認識しないといけないです。この水を堰き止めていの石と木々をどかさないと原因は特定できないですね」



 璻は少し黙ってこの後何ができるか考えていると誰かがこちらに向かってくる足音が聞こえてくる。

 

 藤宮は警戒し恐る恐る足音がする方向に歩き出した。


 石の隙間から影が見えひょこっと顔を出すとそこには獅子子が現れた。驚いた表情の3人に声をかけた


「ここにいたよ〜探したんだから!」


 璻は少しホッとすると獅子子に声をかける


「なんだ〜誰かと思いましたよ」


 獅子子は近づいてきた藤宮の顔をじっと見る


「何よ泉、はいこれ。アンタに言われた防水加工の軍手を取りに行ったわよ、その奥の2人取りに来なさい」



 藤宮は獅子子の軍手を受け取るとそれを確認した八剱と璻は獅子子の近くに歩み寄り軍手を受け取る。


 獅子子に藤宮が説明を始める。



「獅子子さん、ここの湧水にアスファルトが引かれてまして、その奥に木や石があるのでどかさなきゃ現状を確認出来ない状態です」



 獅子子は藤宮の説明を聞き呆れた顔をすると言葉を返した。


「アスファルトだぁ?この辺のアスファルトは用水路か道路にしか使われてないはず……なんで川にあるんだ?」


 獅子子はそう言って少し悩むと3人を見て言葉を返した。



「最近この用水路自体、経年劣化で壊れているって報告は義景から聞いている。わかった。木々と石をできるだけ退けて現状確認だ。怪我だけは気をつけろよ?この奥に梯子があるからそこから上に上がると奥までいける」



 獅子子が指差した先に梯子が見えた。



 3人は「はい」と返事をし奥にある梯子へ歩き出した。


 一歩一歩歩き出すと足場が不安定な事に気づく。


 地面には大きい石と小さい石が溢れ身体の重心が取りにくく非常に歩きにくい。


 足ツボマットを踏みながら歩いているそんな所だろうか?


 梯子がかかっている場所につくと藤宮は八剱と璻に声をかけた。


「俺が最初に登るので梯子を押さえてもらっていいですか?俺が終わったら璻さんに次登ってもらって…最後は八剱くんにしましょうか?」


 八剱は藤宮の言葉を聞いて返事をする


「あの梯子がダメになったら最初に怪我するの藤宮さんですけど、それでもいいんすか?」


 藤宮は八剱の言葉にはぁっ…とため息をつくと言葉を返した。



「八剱くん…一様この班の責任者俺なので安全を確認するのも俺の仕事ですから頭から落ちたら、お姫様抱っこで受け止めるか?可哀想だったなと嘆いてくれたら嬉しいです」



 璻は藤宮の言葉に呆れると思わず言葉を返した。



「藤宮さん冗談言ってないで、足元見てゆっくり登ってください。登らないと業務進まないので」



 璻の冷静な言葉に八剱は笑いながら藤宮の言葉を返した。



「あはははっ!藤宮さんって面白いですね?お姫様抱っこって…何甘ったれた事言ってるんですか?そんなんで落ちたら登った藤宮さんに責任がありますよ。頭から落ちて怪我するのもよし、潔く亡くなっても我々は報告しますんで安心して登ってください」



 八剱の言葉を聞きあまりの共感力と感情のなさに心の中でツッコミを入れる。



 ……いや、落ちた後の話をしてんじゃねーよっっ!……



 璻は手で頭を抱え始める


 ……ううううん。間違ってはいないが話の方向性が違う。藤宮さんから見たらなんで心配してくれないんだろ?と感じるだろうな。八剱さんは八剱さんで現実的な対処法を応えているだけで、誰かと同じ感情を共有するという事が欠けているんだろうな、藤宮さんと八剱さんは対極な視点を持っている。あえてこのメンバーに編成したのはきっと……



 璻はそう考えていると藤宮はもうすでに梯子に登っており頂上まで登り切っていた。


 藤宮は考えている璻に声をかける


「璻さん登ってもらえますか?」


 璻は藤宮に呼ばれ驚きながら「はい」と返事をすると梯子に手をかけた。


 一歩一歩梯子に足をかけて進む。


 梯子に足をかけるたびに軋む音が聞こえる。璻は集中し登り終えるとやっと青空が見え景色が変わった。


 璻はアスファルトに足をかけると最後の梯子を登り切る。待っていた藤宮は璻に声をかけた。


「お疲れ様でした」


 璻は藤宮に言葉を返した。


「ついたぁ…階段が少し軋んでいましたね」


 璻の問いかけに藤宮は応える。


「梯子自体古いですからね」


 藤宮は周りを見渡すと璻に声をかける



「では、璻さんは八剱くんが来るまでここで待機してもらってよろしいですか?俺はこの奥が安全か見てきます。八剱くんが来たら奥まで来てください」



 そう言うと藤宮は石や大木が積み重なっている奥まで歩き始めた。


 1人になった璻はキョロキョロと周りを見渡す。


 大きい木々は倒れ、石は積み重なっている。


 奥には土砂崩れの跡が見えていた。草木は高く生えておりまるで長年放置されているように感じられる。

 

璻は周りを観察すると八剱はアスファルトからひょこっと顔を出し璻に声をかけた。



「なんか、この梯子めっちゃ軋んでましたね」



 まさか八剱がこんなに早く登るとは思っていなかった璻は驚きながら声をかける


「えっ、八剱さん?もう来たんですか?」


 璻の言葉に八剱はニヤッと笑う


「いや、だって早い方がいいと思ったんで」


 八剱の行動力の速さに驚きながらも璻は声をかける



「藤宮さんこの奥見て来るって言ってたんで一緒に行きましょうか?」


 八剱はズボンに着いた土を払うと返事を返した。


「承知です。行きましょう」


 璻と八剱は歩き始めると周りを観察する。

 周りには大木や石が地面に横たわっていた。


 璻は唐突に八剱に話しかける


「この辺整備する人いないんですかね?」


 八剱は淡々と璻に応える



「この辺は耕作放棄地も多く、農家もいなくなっていますし、人口が減った分食べ物も減り、湧水や川の量も減ってますからね…理想や目的もなくただお金を稼ぐその事に対して疑問を持つ人がたくさん出ていた。自由もない、ストレスは溜まる、長時間拘束される、楽しくない、やりがいない、そんな会社や社会で働きたくないという人が溢れたおかげで公共機関を担当していた民間会社も次々倒産しましたし、この景色はお金のみで管理していた場所の成れの果てみたいなもんですよ」



 八剱の話終えた表情を見ると悲しそうに見えていた。



 八剱の言葉を聞き璻は少しだけ考えていた。



 ……働きたくない人が増えると物価高で生活出来ない人が溢れ、コンシェルジュが出てから無理に働かなければと強要されていた時代に終止符を打つことが出来た。働きたくない人は常に"自分には何もない"という虚無感と絶望感が毎日のように襲いかかる。だから脳内器具を入れ虚無感や絶望感を感じないようにしようとしていた。それもそれで脳内器具を入れなきゃダメだという機械依存に繋がる。人間の根本的な解決には至っていないし自然環境を保全する問題には未だ放置、問題を先送りにしているのはこの景色を見れば心底納得ができる……



 歩きながら考える璻に八剱は早足で歩き出した。少し先を歩く八剱は振り返り声をかけた。



「俺ら水流士が働く理由はお金をめちゃくちゃ稼ぐことでもなければ、人に対して地位や名誉を得ることでもないっす。毎日この地球に住んでいる人や自然が好きで自分の能力を信じているからこそ”働こう”と勝手に意欲が出る。自分の生活や暮らしに満足しそれ以外に他者や地球に貢献したいなと思った時、人には真似できない能力が自分にあるからこれを使って、貢献したいという祈りを続け、常に学び継続する事で才能という形になり自分が働けるんです。成れの果てになったこの地域を再生させるために俺らが出来る事をやりましょうよ」



 そう八剱は笑いながら璻に言葉をかけた。



 八剱の言葉に反応するように風が優しく吹き始めていた。まるでこの土地の木々たちも風に吹かれながら「そうだよ」と肯定しているように感じた。




:*:★━━補足ポイント━━★:*:。


・働きたくない人は常に"自分には何もない"という虚無感と絶望感が毎日のように襲いかかる

無意識で社会や団体に所属しながら働くとなぜ自分はこの団体や社会に尽くさなきゃいけないんだろうと思うことが多くなります。それは、自分の親が過保護にしたりネグレクトだったりで本来ある自分の性格を歪ませ社会に馴染ませようとして育ってきた結果ということも”働きたくない”につながります。



・「俺ら水流士が働く理由はお金をめちゃくちゃ稼ぐことでもなければ、人に対して地位や名誉を得ることでもないっす。毎日この地球に住んでいる人や自然が好きで自分の能力を信じているから”働こう”と勝手に意欲が出るんです。自分の生活や暮らしに満足しそれ以外に他者や地球に貢献したいなと思った時こういう能力が自分にはあるからこれを使って、貢献したいという祈りと願いを続け学び日々継続する事が出来るから働けるんです」


八剱がいいことを言っていますが、働きたくない人が増えているのはご年配からしたら”甘えだ”という認識の人が多いです。これは世代間の価値観の違いでもあります。自分の生きる時間や健康を犠牲にしてまで長い時間拘束され働かなきゃいけないというのはもはやこの時代では皆無の思想です。それよりもどうやって楽しく生きるか?日々の在り方や考え方が重要になっていきます。それは長寿や健康につながる考え方だということがこの時代では研究対象になり証明されつつあるからです。ちなみに八剱は重くなく軽い考え方をします。


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:*:★━━━━━━━━━★:*:。

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