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水流士-因子を解く-  作者: 小野里
- 新人研修編 -環境業務-

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第109話:軍事産業

 


「さっき水分子が見えなかったのになんで今見えたんですかね?」



 八剱は璻の質問を聴き自慢げな態度で説明を始めた。



「龍後さんの場合は母性の考え方が普段から先に思考するように見えました。そのままだと感情が優位になってしまい水分子の解像度が低く見えてしまうんすよ。なので…父性が先に認知できるよう、俺が昔環境業務で水分子が見えなくなった時に祝詞を上げていた言葉を使いました。それで見れるようになったってわけです」



 八剱の説明に璻はなぜか納得してしまったと同時に自分の課題のようなものを突きつけられた気がした。


 ……母性が先に思考するってことは基本的に私は感情的に物事を判断しやすいってことだよね?これだと自分の中の父性の認識が出来ていないのかもしれない……



 眉間に皺を寄せ難しい表情をする璻に八剱は優しく話しかけた



「そんな深刻そうな顔しないでくださいな。環境業務の経験を積み、なれると自然と水分子は見れるようになります。まずは経験が足りないから練習するという意図で業務をやるのではなく、問題も解決策も”全てここにある”という意識を持って取り組むといんじゃないすかね?」



 璻は八剱の言葉を聞き頭の中で考えていた。


 現実に今無いものをあった状態だったとしたら、自分はどう行動し何が変わるかという具体的なことをイメージしろそういう事を言いたいんだろと璻は解釈したが、一つだけ疑問が残る



 ……問題も解決策も”全てここにある”っという言葉どういう意味だろうか?……



 疑問に思った璻は八剱に質問をした


「全てここにある…ってどういう意味ですか?」


 八剱は璻の質問に答える


「そりゃ…問題だと思考している自分も解決だと思っている自分も全て自分で問題だと決めつけて自分で悩んでるじゃないですか?結局振り返ってみると”全てここにある”んですよ。その意識で物事を見るとそれを体験している自分に存在価値が出てくるんです。最初から解決したらなんの体験も成果もない、人間てそれぞれの体験経験を通じて葛藤しているからこそ生きてる価値があるんで?あっ、これあくまで俺の持論なんで」



 璻は八剱の言葉が新鮮に感じた。



 ……”全てここにある”…そうか、人間はすぐ足りないから頑張ろうとするが、本当はそうじゃない。自分の中で無いのが不自然に感じるくらいイメージし行動して始めて、”全てここにあったんだ”という意識にたどり着く。そこまで具体的にイメージし深く考えたことがなかった。八剱さんは私より若いのにこんなに言葉に重みがある。それも相当経験し体験した証拠なのかもしれない……



 璻は八剱に言葉を返した


「全てここにあるって案外深い言葉だったんですね。そこまで考えたことなかったですよ」


 八剱は少し悩むと璻の言葉に応えた。


「龍後さんこれはですね?難しく考えると沼にハマるんで軽くイメージするだけでOKっす。足らないって意識すると無駄に時間かかったりするんですよね〜これは予祝(よしゅく)に近い考え方で、すでに”あることにする”という意識になったと仮定し今の行動を変えていくだけで思ったより早く会得できちゃったりします」



 八剱のアドバイスを聞き璻は軽く頭を下げてお礼を言った。


「確かに感情が入ると足取りは重くなりますね。ちょっと実践してみます。ありがとうございます」


 八剱は顔を左右に振ると璻と藤宮に言葉を返す


「いえ、じゃあ……このままで少し聞いてもらえますか?龍後さんと藤宮さんには有機フッ素化合物について軽く概要をお話ししなきゃなんて思ってたんで。あっ、その前に……浮いている水を石に戻さないとですね」


 そういうと八剱はポケットからクリスタルを取り出すと璻に問いかけた


「龍後さんが持っている石に水を元に戻すので」


 八剱の指示に璻は八剱の近くまで石を近づけた。八剱は右手で音叉を持ち替え左手でクリスタルを握ると音叉にクリスタルを近づけ音を鳴らした。



 音があたりに響きわたる。



  宙に浮いている水は石の中に吸い込まれるように戻っていった。この摩訶不思議で珍しい光景を璻はじっと見つめていると八剱は少しホッとした表情をしつつポケットにクリスタルをしまった。


 手に持っていた巨大音叉を自分の足元に置いた八剱は腕や肩を回しながら言葉を溢した。



「あー重かった……」



 璻は八剱に聞き返した


「八剱さん、それで高濃度のフッ素化合物の概要って話ですけど」


 八剱は璻の質問に頷き応える。


「ああーそうそうそうです。有機フッ素化合物は元々何が目的で生まれたかって基礎知識がないとこれから対応する時……いちいち説明しなきゃいけないのが非常にだるいので。休憩がてら俺の話聞いてほしいですね」


 藤宮は八剱に言葉を返す


「承知しました…とりあえず説明してください」


 八剱は軽く頷くと話し始める



「有機フッ素化合物の歴史は古いです。発見は元々民間の研究機関でした。撥水加工するために生まれその後、1960年代に軍事産業でさらに研究され民間企業に広まったのが有機フッ素化合物です。日本が経済崩壊する前からある化学物質ですね」



 璻は驚きながら八剱に聞き返した。


「軍事産業ですって?!有機フッ素化合物が広まったのは軍事産業だったんですか!」


 驚く璻に八剱は淡々と説明をする



「はい、軍事産業が目をつけてから世の中に広まりましたね。それ以外の化学物質系は大半軍事産業に当てはまります。あとこれは余談ですが、表向きは飲食店、裏で軍事産業で儲けている有名で大きい企業もありますよ。確か…まだ日本に残ってありますね?大概石屋が関連している企業になりますが」



 八剱の発言に璻は思わず考え込んでしまう。


 ……それは表向きは飲食店、裏では軍事産業やっているってこと?つまり知らないうちに一般人は人殺しをしている企業に加担しお金を払っているってことよね?……


 璻は神妙な面持ちで八剱に問いかけた


「その話、詳しく教えてもらっていいですか?」


 八剱は軽く頷くと璻の問いかけに応えた。



「あれっ……知ってる話だと思ったんですけどね?誰もが知っている企業が軍事産業を営んでいるなんて有名な話。なんにも知らない一般人はそこでお金を払うとその内の数パーセントをその企業が運営している軍事産業に回すんですよ。"遠くの戦場で人を殺す"事を一般人がその飲食店を利用し商品を買って戦争を支援しているなぁ〜んて皮肉なハ・ナ・シ。元々有機フッ素化合物みたいな自然環境を壊す化学的な研究も軍事産業ですから。それを何も知らないで買う方も売る方も俺にとっちゃ信じられない話ですよ」



 藤宮はその話を知っていたのかフッと鼻で笑うと八剱に言葉を返した



「たしか?反戦運動しながらその飲食店の商品を買って宣伝している連中もいましたね?ただ知らないだけなのか?それともネット工作員かって話もありましたっけ。全部の飲食店が軍事産業と関わりがあるわけではありませんが……無知って酷な話でしたね」



 八剱と藤宮の会話を聞いていた璻は持っていた石ぎゅっと強く握り言葉を応える


「その飲食店って軍事産業に回してますって公表しないんですか?」


 馬鹿正直な璻の質問に八剱は笑いながら応えた



「はははっ!龍後さんは真面目なんですね?不都合な事って基本的に言わないですよ!お客様からお買い上げ頂いた数パーセントは軍事産業に回し、その売上で武器を買い戦争で人が亡くなることに貢献頂いています。なんて〜言ったら商品売れませんから?」



 八剱の真っ当な答えに璻は自分の中にある怒りと拝金主義に対していたたまれない気持ちがじわじわと心に滲み出てくるのがわかる。


 璻は少し声のトーンを落としながら八剱に言葉を返した。


「絶対に買いたいとは思いませんね……」


 八剱は説明を続けた。


「普通そうでしょうね?この話って日本が争いに巻き込まれてからようやく話題になった話ですから」


 藤宮はため息混じりに話し始める。



「八剱くんよく知ってますね…あの時は確か……日本の離島が一時期、ある国によって占拠された時でしたっけ?離島にいる日本人を放置し旧政府は『遺憾の意』のみで特に何もしなかった…あれも裏では旧石屋の宗教法人と海外の軍事産業が支援していましたし、それ以降は旧石屋内の組織が壊滅、今の石屋にバトンタッチしたとか」



 八剱は軽く頷くと藤宮の問いかけに応える



「そう。この話は皇さんから詳しく教えてもらったんですよ。なんにも知りませんでした〜なんて……他の人に利用されていいです!って言っているのと同じですからね。もう自己責任の世の中ですし、こういう知識はあってなんぼですよ」



 璻は八剱と藤宮の会話にショックを受けていた。思った以上に複雑な拝金主義の社会だったという事は二人の会話を聞いていて切ない気持ちが込み上げてくる。”そんなつもりじゃなかった”などという甘い言葉はもはや許されないそんな自己責任の世の中に今生きている。話を聞いていてしみじみと璻は実感していた。



 璻は八剱と藤宮を見るとボソッと言葉を返した


「なんかショックです……」


 深刻そうに応える璻に対して八剱は軽く応える


「なぁ〜に言ってるんですか!俺より年上なのにしっかりしないでどうするんですか?むしろ知ってよかったくらいに思わないと。軍事産業で発展したものは生活に山ほどありますからね?有機フッ素化合物だけじゃないですよ。思った以上に地層や水にダメージ入ってますし、それより水流士はその出来事を知ってどう改善し行動するかの方がよっぽど大事だと俺は思います」



 八剱の前向きな言葉はむしろこれからどうする事がベストなのかを考えているようにも思えた。



。:*:★。:*:★━━補足ポイント━━★:*:。★:*:。


・問題も解決策も”全てここにある”

最初から解決してたらなんの体験も成果もないそう八剱は言っていますが、そういう人たちの共通点は「”全てここにある”」という視点の広さと行動力にあります。感情に左右されずやり続けるこれを続けるとどんな勉強や技術でも会得できやすくなります。



・軍事産業

軍事産業は主に2つあります。国を守るためのその国に特化した軍事産業と民間企業が起業した軍事産業、石屋は特に”民間企業が起業した軍事産業”を運営しています。旧I石屋自体は世界中にある企業のトップを束ね牛耳っていました。経済崩壊前の旧石屋は特に武器産業、機械産業、化学研究、精神干渉研究、ゲノム編集研究など主に運営していました。常にどうやったら人間と自然が少しずつ弱るのかなどの研究もしていました。軍事産業のみではなく手広く子会社で飲食店などもやっていたこともありました。飲食店であろうともその親会社が軍事産業ということは自分がそのお店でお金を払って売り上げに貢献したという事実はその会社が武器を買い人を亡くならせることに同意したとも同然。遠いところで戦争を支援したという事実を聞き璻にとってはかなり衝撃的な内容でした。

 

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