第103話:柔よく剛を制す
八剱の話から璻は唐突にある事を思い出していた。
……そういえば、自然の中で水分子の記憶を見るのは初めてかも……
今まで室内で水分子を見ていた璻は水分子の記憶が見れるのか不安になり唐突に藤宮に質問をする
「藤宮さんこの場合水分子どうやって見るんです?」
藤宮は不安そうにしている璻に対して応えた
「え?最初のレクの際に諏訪さんから水分子を見たって聞いてますけど…竜胆のマークや麻模様のマークを通すと水分子は見えますよ」
璻は少し頭の中で考えていた。
……明らかに組子細工を通していないし竜胆のマークも見えなかったけど……
藤宮の発言に璻は必死に応える
「それは諏訪さんの手の甲に竜胆の刺青があったから見れたんです!今回竜胆マークがないじゃないですか!竜胆がないと水分子の記憶見れないですよね?」
話を聞いていた八剱は笑いながら璻に応える
「何言ってるんですか?ありますよ!ここに!ほら」
璻は八剱を疑いながら「へぇ?」と声をあげた。
八剱は璻が見えやすいように璻の目線に合わせ巨大音叉の先端を指を指す。
璻は八剱が指を指した方向に視線を合わせると巨大音叉に麻の模様が彫ってあるのが目に入る
「麻の模様!音叉にある!これで見えるんですか?」
八剱は笑いながら璻に応えた。
「はい、巨大音叉で音を通すので共鳴した水分子は記憶が見れます。人の記憶を見る時は竜胆、自然にある水を直接見る時は麻模様で見ます。麻模様は自然の摂理を表しているので、見る側の視点が広くないと記憶は捉えられないんです。ちなみにこの水滴が光っているのはソノルミネッセンスという物理現象ですね」
藤宮はふーんと頷きながら八剱に質問する
「物理現象ですか?これは興味深い。人を見る水流士は感情を見るので麻模様を使う時は水分子の修正の時ぐらいですかね。麻は記憶を見る印象がないですが…」
八剱は頷きながら応える。
「業務の違いですね。藤宮さんも麻模様使うって聞きましたけど、これはすぐに慣れると思いますよ?」
璻は八剱の手に浮いている水が気になり出し質問をする
「その浮いている水、どうやって戻すんですか?」
八剱は璻の質問に応える
「ああ〜この水は戻す際には巨大音叉の上部に乗っけて〜」
そういうと巨大音叉の先端の上部に八剱の手から浮いている水滴を乗せた。
「それでこの石で叩く!」
そういうと八剱は持っている巨大音叉を上にあげ音叉を叩いた。音が思った以上にその場に反響し、身体の奥まで音が響きわたる。
不思議と不快には感じない。
反響音が終わると八剱は巨大音叉を下ろし璻と藤宮と一緒に上部を確認した。
水滴はなくなっていた。
璻は驚いた表情で八剱に言葉をかけた。
「なくなってる!音波で水滴を蒸発させたんですね?」
八剱は嬉しそうに頷きながら応えた。
「仰る通り!水は振動させると蒸発する。この巨大音叉は特殊加工をしているので水蒸気にすることが出来ます」
藤宮は不思議そうに巨大音叉をじっと見つめる。
「水蒸気にさせるってわざわざ元ある場所に戻さなくてもいいから便利ですね」
藤宮の質問に八剱は笑いながら応える
「藤宮さんは主に"人間"を見てますからね。人間の場合は水分子を施術し終えたら戻さないと人体に支障が出ますけど、自然の場合は循環しているので人間が不自然に手を加えていない水なら蒸発して元に戻っていきます。これも自然の原理ですよ」
璻は深く頷くと八剱に質問をした。
「ちなみに人間が不自然に手を加えた水って汚染水の事を言ってます?」
八剱は頷きながら悲しそうな表情で璻の質問に応えた。
「はい。汚染水を出している工場は未だに存在していますからね。以前の政府は工場や工事で出た汚染水に関して基準がありましたが……その基準が諸外国に比べて緩く、新しい有害物質に関しては被害が出てから検討し死者が何十人も出てから判断するじゃないですか?亡くなった被害者に関して『ドンマイ!その事に気づける運がなかったね〜笑』って対応してたからこんなに水が汚れている場所が増えてしまったんだと俺は思いますけどね」
八剱はその他にも言いたいことがありそうな表情をしている。
何かをグッと堪えているような感覚が璻に伝わってくる。
璻は八剱の言葉を考えていた。
……以前の他責思考の政府ならいいそうな話。無駄に加えたり、無駄に引いたりすると自然の原理から外れる。自然に戻す作業も大事って考えた事もなかった……
自分の中で納得をすると璻は続けて八剱に質問をした。
「その八剱さんが手に持っている透明な石ってなんの石ですか?」
八剱は璻の質問に淡々と応える。
「これ?これはクリスタル…水晶です。石の中には水分子が存在していて石ごとに記憶を持っているんですよ」
璻は今まで考えたこともなかった八剱の発言を聞き耳を疑う。
思わず八剱に問いかけた。
「石の中に水分子がいるんですか⁉︎⁉︎⁉︎初耳なんですけど」
八剱はなぜか笑いながら璻の質問に応える
「あれ?隠者に入る前に習いませんでしたっけ?」
八剱がそういうと璻はなぜかじっと藤宮を見つめた。
藤宮は目を泳がせ申し訳なさそうにしながら応えた
「そんなに見つめないでください!」
璻はじっと藤宮を見つめ続けた。璻は思わず呆れた表情で『コイツまたかよ』っというのを目線で訴えている
目線で訴えることが飽きると璻は思わず藤宮に質問をした。
「いや、なんでかなって…」
藤宮は濡れ衣を着させられた無実の男性のように必死に忘れていた言い訳を璻に伝え始める
「違います!事情があるんですよ!忘れてたわけじゃないんです!石の話はもっと後にしようかなと…璻さんには急に水流士に入って仕事してもらってたんでいきなり言ったら混乱するかなって!」
璻は藤宮なりの配慮だったのがわかると妙に納得した璻は藤宮に応える
「それに私たちの業務で天然石を普段から使いませんもんね……」
八剱は璻と藤宮の話を聴きながらある提案をする
「そうだったんすね?じゃあ俺が軽く説明するんで龍後さん聞いてくださいな。それでいいですか?藤宮さん」
八剱の提案に藤宮は快く応えた
「はい、お願いします」
璻は頷きながら八剱の説明に耳を傾ける
「クリスタルは二酸化ケイ素が結晶化してできた天然石です。水晶の中には水溶性ケイ素と言われる物質がありますがこれが水分子と似た構造があり石の中には自然の環境に必要な物質や水の分子構造などが記憶されていると今科学者の中で研究が進められています。水溶性ケイ素が集まった水晶を音叉で叩く事によって石の中にいる水分子が音で振動し始めると自然の中にある水分子と共鳴する事が出来るんです!これってすごくないですか!」
璻の頭では混乱しそうな話だったので頭の中で簡単に要約しつつ八剱に内容を確認した。
「あの……つまり要約すると音叉を叩く事で石の中にある水分子と川にいる水分子が共鳴し、麻の模様が彫ってある音叉を使って振動する事により記憶が見える?って事で八剱さんの言いたい意図はあってますかね?」
八剱は頷きながら応える
「はい。簡単に言えばその通りです!藤宮さんや璻さんは竜胆を使いますけど、それは人の記憶を専門に見るから使えるんですよ。麻模様は自然の摂理そのものを表しているんで麻模様の音叉を使う時は祈り自体は必要ない!むしろ今問題が起きているのは最善だと思いながら音叉を鳴らすことがとても大事なんです」
璻は八剱の話を聞き、思わず耳を疑う。
……なぜ最善だと思う事が大事なんだろうか?……
璻は八剱に問いかけた。
「最善?なぜ問題が最善だと思うんですか?」
八剱は真剣な表情で璻の質問に応える
「問題が起こる時は何か不自然な時に人間側から問題と感じるだけな事ですよ。問題が起きたらラッキー!変化出来るチャンスだ!と喜んで感じる事が出来れば執着なんて生まれませんからね。現状から打開し現状に変化を与えるためには何かを手放さなければならない。それは自然の摂理も人間も一緒です。人間側から見たら問題だと思っても自然環境からの視点で見ると何にも問題はないように見える事があるんです。その大きな視点を常に前提条件だと頭の片隅に考えつつ今起きている問題は過去の最善の結果ならば……もっとより最善にするためにはどうしたらいいか?を考える事が環境業務に携わる水流士の役目だと考えていますね〜あははっ!この話、面白くもないクソ真面目な話ですがねw」
八剱は笑いながら応えた。
璻からしたら八剱はよく喋る”お喋り野郎”だと思っていたが、案外そうでもなく…真面目な印象が垣間見える。
璻が考えている視点よりはるか上を考えているのが言葉から感じ取れた
八剱を少しだけ鬱陶しく思っていたが最初の印象から想像もつかないくらい深い洞察力に璻は人として尊敬を感じた瞬間であった。
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・ソノルミネッセンス
液体中の微小な気泡に強力な超音波を照射した際、気泡が急激に潰れる(圧壊)瞬間に強い光を放つ物理現象のことを指します。人間は光と音(振動)を同時に感じて初めて生命(人の暖かさ)だと認識することができます。
・石の中には水分子が存在している
石の中には水分子が存在していますがこの時代ではこれを専門に研究する科学者が増えていきます。ケイ素は世の中を発展する鍵にもなります。
・問題が起こる時は何が不自然な時に人間側から問題と感じるだけな事
問題が起こる時に不自然だと感じるのは常に自分の頭の中で正解が出来上がっている状態だからです。これができて当たり前の結果だと思っているとそれ以外の問題が起こった時に不自然だと認識しやすくなります。この考え方は成果重視で生きてきた人やそもそも変化に対して強い恐怖を感じる人に多い考え方です。
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