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水流士-因子を解く-  作者: 小野里
- 新人研修編 -

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第102話:自然との調和

 

「じゃあ、移動しますか?私の後についてきて」


 獅子子は歩き出すと行きと同じくまた滑りやすい階段を登る。段差が激しく足を上げるにも璻は息が上がっていた。


 ……うっ…運動不足かもしれない……


 そう思いながら璻は必死に獅子子の後をついていく。

 階段を上がり、行きのバスから降りた場所まで戻るとさらに坂道に向かって登っていく。車が通る道なのか?歩道は一切見当たらない。道の脇に白いガードレールがひどく凹んでいるのが目に入る。


 ……車が落ちたのか?はたまたガードレールに車が当たったのか?……


 璻はガードレールの近くまで近寄るとガードレールの脇から顔を出して下を見た。

 森が広がっていた。ここから落ちたら見つけられないだろうそう思える。


 ……落ちたらひとたまりもない……


 璻はすぐに顔を引っ込めると怖さを感じながら今見た景色を忘れようと決意した。


 藤宮は唐突に獅子子に質問をした。


「あと何分くらいで着きますか?」


 獅子子は藤宮の質問に応える


「もう10分くらいかな?まだ歩けるでしょ?」


 藤宮は獅子子の問いかけにツッコミを入れる


「獅子子さんは登山が趣味だから体力あるんですよ……」


 獅子子は藤宮に応える

「あんたね?体力くらい普段から鍛えておきなさいよ。八剱を見なさいよ」


 藤宮はなぜ八剱の名前が出るのがわからなかった。思わず獅子子に問いかける。


「や?八剱くん?そういえば見ていないですが…」


 藤宮は左右をキョロキョロしながら八剱を探し始める。璻も獅子子に言われた通りに八剱を探したがあたりに見当たらなかった。


 ……いっ、いない……


 藤宮は急ぎながら獅子子に応える


「獅子子さん!八剱くんいないですよ!迷子なんじゃ……」


 そう藤宮が話すと獅子子はおもむろに前を指差した。すると全力でスキップしながら歩いている八剱が見えた


 獅子子は大きく声をかける


「八剱、そこでストップね」


 八剱は振り向き声をかける


「え?なんすか?ここ入っていんすか?」


 獅子子は声を大きくしながら怒鳴るように八剱に応える


「聞こえねぇのか八剱ぃぃ!てめぇぇはそこから一歩も動くなっ!!」


 八剱は獅子子に「へーい」と軽く返事をする


 獅子子の野太い声と荒々しい言葉使いに藤宮は歩くのをやめ、立ち止まると顔が青ざめていた。獅子子はスタスタと八剱に向かって歩く。


 璻は心配そうに藤宮に声をかける


「藤宮さん?だっ…大丈夫ですか?」


 藤宮は頷くと小声で璻に応えた


「業務中の獅子子さんは男性に対して容赦ないんです。少しびっくりして」


 ……なんだ〜藤宮さんでも苦手な事あるんだ……


 藤宮が怖がっているのが面白く見えたのか璻は笑いながら藤宮に問いかけた。


「女性には優しいんですよね?」


 藤宮は璻の問いかけに拍子抜けし返事を返す


「そうですね」


 璻は笑いながら藤宮に対して応えた


「じゃあ〜私には関係ないですね〜」


 璻の言葉を聞き藤宮は一瞬黙ると璻に問いかけた


「少しは寄り添ってくれてもいいと思うんですが…」


 璻は笑顔で頷くと早く歩き始め、藤宮より前に出ると振り返り声をかけた。


「はいはい〜もう早く行きますよ?」


 藤宮は璻に「厳しい……」ボソッと声をかける。璻はその言葉が耳に入ったのかウザそうな表情をしながら藤宮を睨みつけ獅子子に声をかけた


「獅子子さーん、藤宮さんが"寄り添えおじ"になってて心底ウザダルで老害です。どうしたらいいですか?」


 獅子子は璻に声をかける。


「そのまま見捨てろぉ!こっちで回収するから」


 璻は獅子子に返事をした。


「はぁ〜い」


 その会話を聞き藤宮はゾッとすると思わず小声でツッコミを入れる


「おじって呼ぶのだけは侵害です」


 璻はツッコミを入れる藤宮に呆れる


 ……何言ってんだコイツ?ツッコミを入れる暇あるんなら歩けるだろうが……


 璻は呆れながら藤宮に声をかける。


「歩くの疲れたからって駄々捏ねてないで早く歩いてくださいよ。獅子子さんに怒鳴られますよ?」


 藤宮は璻の言葉にゾッとするとスタスタと歩き始めた。


 ……獅子子さんに怒られるのがそんなに嫌なんだ……


 藤宮と璻は獅子子に追いつくように必死に歩くとようやく獅子子と八剱が待っている場所まで辿りついた。


 右側を見ると細い砂利道の先に鳥居が見える。獅子子が先に右側の細い砂利道を歩き始めると藤宮、八剱、璻はその後をついていく。璻が砂利道に一歩入った瞬間、森の中なのになぜかジメジメしている。また一歩足を進めるとなぜか足が重たく感じる。璻は鳥居の目の前まで歩き少し立ち止まった。


 覗き込むように鳥居を見上げると鳥居自体左側に傾いている、笠木(かさぎ)と島木(しまぎ)の左上が欠けているように見えた。


 ……諏訪さんの説明だと鳥居が壊れているって言ってたけど?これのことかな?……


 獅子子は3人を見ると指示を出した。


「あの傾いている鳥居をくぐり、階段を降ると奥宮になる。とりあえず全員鳥居をくぐり中に入ることね。まず泉、龍後ちゃん、八剱の順番に降りて」


 獅子子の指示を受けて藤宮が鳥居をくぐり階段を下っていく。続けて璻、八剱が鳥居をくぐり階段を降りた。あたりは静まり異様な雰囲気を感じる。階段を降りた璻は周りをキョロキョロと確認し始めた。


 鳥居は手間に崩れており中央が割れている、小さな本殿も傾いている。本殿の右側には川が流れていたのか?岩にしめ縄が巻かれておりがなぜか真っ二つに割れているように見えた。その間から少しだけ水が流れているが、これでは飲み水にもならない量だ。


 獅子子が階段を降りると3人に説明を始めた。


「ではこれから本格的に業務を始める。3人はこれからこの辺の調査を開始、見た通り水は少量しか流れていない。水を堰き止めている原因を突き止めること。まず、この神社一帯の調査をする。泉と龍後ちゃんはその後にそこに流れている川の水を使い水分子の中にある記憶を見ること!八剱は2人が見る水分子を選別する。本殿の中の小さい社の扉が空いているけど、八剱以外触るなよ?」


 璻は獅子子に質問をする


「なぜ八剱さんは触れてもいいのでしょうか?」


 獅子子は真剣に応える


「八剱は皇さんの部隊に所属したから何があるか知っているし、対処もできるからよ?ご神体覗くって無礼でしょ?知らない奴が自分の家に土足で上がり込んだら腹立つのと一緒よ?それに何があるかまだ私たちでも把握出来てないのよ。中身に呪物があったら呪われるし嫌でしょ?」


 璻は思わず声をあげる。


「呪物⁈」


 八剱が獅子子に声をかける


「驚きもしない話ですね。本殿の中のご神体を勝手に開けて呪物を入れたり、人の遺骨を入れている奴らいましたからね…信じられないですよ。つか、獅子子さんそれって俺が呪われてもいいって言ってるように聞こえますけど…」


 八剱の話を聞き思わず呆れた表情をする。


 ……バチ当たりすぎる。信じられない……


 八剱の不安に獅子子は不思議な笑みを浮かべると八剱に対して説得を始める


「バカね?信頼してんのよ。泉はまだ呪いとか体制ないし、龍後ちゃんは新人でしょ?アンタは新人だけど、環境業務に関してはこの3人の中で群を抜いて経験しているからさ」


 八剱はニコッとしながら獅子子の問いに応える


「褒められているんですね。わかりました。喜んで汚れ役を引き受けましょう!」


 璻は八剱を見ながらホッとした


 ……単純でよかった……


 璻は獅子子に質問する


「そういえば、獅子子さんは確か2班でしたよね?ここにいて時間とか業務は大丈夫なんですか?」


 璻の質問に獅子子は応える


「きっちゃんがここまで迎えに来る予定だから、来たら私は2班の業務に戻るの。それまではここに待機する予定だね。それまでに3人で原因を突き止めて欲しいかな?」


 獅子子の高い期待に璻は少し困りながら応える


「がっ……頑張ります」


 獅子子は3人に声をかける


「では調査開始。まず各々で周りの環境を調査しつつ水が流れなくなった仮説を立てなさい。10分で周りを散策し本殿は触らずに原因を探りなさい」


 獅子子の無茶な指示に全員返事をする


「はい」


 獅子子は何か思い出したように八剱に声をかけた


「八剱、あれ出していいわ」


 璻は獅子子の発言を不思議に思った。


 ……あれ?とは?……


 八剱は「承知です」と言葉を返した


八剱は黒い白衣を脱ぐと背中から何やら白い布を巻いた大きい棒のような物を取り出した。


 璻は驚きながら八剱に話しかけた


「それはなんですか?」


 八剱は布を丁寧に捲るとその棒を璻の目の前に出して質問に応えた


「あーこれですか?巨大音叉ですね。俺が環境業務の際これを使うんです」


 両端がY字の音叉に見える。しかも通常の音叉よりはだいぶ大きく何よりゴツい印象が目を引く


「見たことない音叉ですね?巨大音叉ですか?こんなのあるんですね」


 八剱は璻の質問に嬉しそうにしながら応えた


「日本では小さい音叉が主流ですが海外だと巨大音叉は頻繁に見かけますよ?巨大音叉は両極設計で異なる周波数を発する事が出来る優れ物です。難点はアルミ合金製なので通常の音叉に比べるとだいぶ重いですが」

 

 璻は巨大音叉を見ると疑問が浮かぶ。


 ……なぜそんな物が必要なんだろうか?……


 璻と八剱の会話に藤宮も興味津々で話に割って入ってくる。


「八剱くん巨大音叉使うんですか?これ…人間に使う物ですよね?環境業務でどう使うんです?」


 藤宮の質問に八剱が応える


「おっ!藤宮さん興味持ちましたね?今からやるんでちょっとそこで見ててくださいよ」


 そういうと八剱がポッケから透明な細長い石を出し川の側までいくと湧水が出ている場所まで石を伝って歩いた。

 水が溜まる場所に到着するとしゃがみ巨大音叉を回し逆さにする。


 水の水面に軽くつけるとボソッと言葉を呟いた


「自然との調和432Hz」


 そう唱えると巨大音叉の先端を透明な石で叩いた。


 すると周りの水が振動し始め波打ち始めた。音叉の振動により水滴が踊るように浮き始めると八剱は水滴を手でぎゅっと握った。


 八剱は後ろに立っている璻と藤宮を振り向き藤宮と璻の方向に向かって歩き始めた。


 八剱は藤宮と璻に握っている手を見せる


「これですよ」


 そう言って手を開くと手の平から急に水滴が浮いており、光っているように見える。


 藤宮と璻は思わず驚いた表情をする。藤宮は八剱に声をかけた


「八剱くん水分子を浮かせられるところまで出来ているんですか?しかも俺がやるより水分子が型が均等な所だけ切り取っていますね。これはすごい」


 褒められたことが嬉しかったのか八剱は笑いながら藤宮の問いかけに応えた。


「そうですか?人間の記憶を読み取る水分子は俺まだできませんよ。人間の方は記憶が複雑で日によって感情も違うし体調も違うじゃないですか?人間の方がよっぽど繊細な作業ですよ。それよりは自然の水の方が純度は高く記憶は読みやすいです。人間のように思念などはありませんからね」


 そう言った八剱はどこか誇らしそうに見えた。



。:*:★。:*:★━━補足ポイント━━★:*:。★:*:。


・笠木(かさぎ)

鳥居の一番上に横たわる最上部の部材のことです。左右の柱の上をつなぐように渡されており、雨から本体を守る「傘」のような役割を持ちます。わかりやすく言うと赤い鳥居なら鳥居の黒い屋根の部分のことです。


・島木(しまぎ)

上部にある横木(笠木)のすぐ下に追加された、二番目の横木のこと。わかりやすく言うと赤い鳥居なら鳥居の黒い屋根の下にある赤い四角い木を島木(しまぎ)と言います。


※鳥居にはそれぞれ部位に名前があり役割があります。神社や寺院などの社寺建築を専門にする大工を「宮大工(みやだいく)」とも言います。

 

・432Hz

432Hzは自然界の振動数と共鳴し穏やかなリズムに心を同調させる周波数。432Hzの音楽は、心と体をより深くリラックスさせる効果があるといわれています。


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。:*:★。:*:★━━━━━━━━━★:*:。★:*:。

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