第101話:参拝
去り際の喜三郎の言葉が気になったのか八剱は鼻でハッと笑うと璻をじっと見つめ言葉をかけた。
「今だけ金だけ自分だけの拝金主義寄りの人の願いなんて土地神は聞きやしない…当たり前ですよ」
八剱の発言は少し棘があるように聞こえた。
璻は八剱に問いかけた。
「神様って参拝してくれた人の願い叶えるって教わったんですけど、八剱さんの発言って贔屓しているように聞こえます。神様って平等じゃないですか?」
璻の呑気な質問に対して八剱は皮肉にも笑いながら璻に応えた
「ははは〜非常に面白い考察です。そんな頭の中お花畑みたいな考え方、龍後さんが初めてですよ。どうしてそんな考え方をするんでしょうか?平等って何を持って平等と定義するんですかね?地球上の全員が親も同じで身体の作りも同じで同じ思想を共有して遺伝子配列も全て同じ、願いも同じだったら別に神社に願う必要も祈る必要もないでしょ?生まれてくる親が違って比較し、初めて生きている事は平等ではないとわかるからこそ人はそれぞれ敬意や感謝が生まれ願いや祈りに繋がるんですよ。少なくとも今の日本の土地神は、努力もしない人間が自分の利益のために願っても循環しない願いなんて叶わないのが当然だ」
八剱の言い方はまるで平等と言う言葉が気に食わなかったのか?まるでマウントを取っているように煽ってくる言い方に璻は聞こえていた。
それを聞いていた藤宮が八剱と璻の会話に急に話に入ってくる。
「八剱くん、さっきの矢崎さんのイライラを璻さんにぶつけないでください。マウント取る言い方はよくないですよ?」
八剱はハッとすると顔に手を覆いながら藤宮に応えた
「ありゃ〜藤宮さんにはバレちゃったか〜」
璻はあまり気にしていない様子で八剱に話しかけた
「いや、マウント相撲とか興味ないんでもっと念とか土地神の事に関して教えてください」
唐突の璻の言葉に八剱は急に笑い出した。
「ちょっと……待って〜マウント相撲って何っw」
璻は八剱の言葉を無視し八剱に言葉を返した
「八剱さん私がわかるように説明してください」
藤宮はいつもの璻の顔を見るとにやれやれと呆れ説明を始める
「俺が説明しますよ。日本の土地は元々、土地神が集まって出来た。龍体型の大陸です。例えば……この土地の土地神なら喬龗神や黒龗神と言った神が土地神にあたります。喬龗神や黒龗神は元々山に流れている水の神ですから、人間が山から水を分け与えてもらっている分、敬意と感謝を込めて参拝するのは当たり前です。ですが、拝金主義社会の時代では自分の利益だけを求めて参拝する輩が後を絶たなかった。そうですね……璻さんがわかりやすいように自分を神様だと思ってください」
璻は藤宮に対して頷きながら「はい」と返事をし藤宮は話を続けた。
「この地域ではない参拝者が2人来ました。1人は水を汲み上げ汚染水を流し、他人を奴隷のように扱う世の中で有名な経営者ともう1人は会社勤務で週末、水を綺麗にするボランティアもしながら自分を研鑽し努力する無名の人、さて璻さんはどっちの人間の願いを叶えますか?」
璻は藤宮の質問に対し即決で応えた
「圧倒的に後者です」
藤宮は続けて璻に質問をした。
「なぜですか?」
璻は藤宮の質問に応える。
「前者は下手すると嫌な気持ちになる人が増えるじゃないですか?私が神様なら敷地内に入ることすら許さないです。前者のような経営者は追い返します。後者は助けてあげたいと思いますね」
藤宮の質問に璻は真剣な表情で応えると八剱は笑いながら2人の話に入ってきた。
「藤宮さんこうやって龍後さんに教えてるんだ〜おもしれぇ〜」
藤宮は呆れながら八剱に言葉を返した
「そうですけど八剱くん茶化してます?」
藤宮が真剣に八剱に応えると八剱は顔を横に振り藤宮の質問に応えた。
「違いますよ〜藤宮さんの説明わかりやすいなって思いまして」
八剱が璻を見ると続けて質問をする
「じゃ……龍後さんに質問ですが、なぜ自分の利益しか考えない奴らの願いは念になり地面に落ちるのか?考えた事あります?」
璻は少し頭の中で考えた。
……なんでって?願いの周波数が重いからとか?他はその土地神の管轄外の願いとか……
璻は頭を抱えながら八剱の質問を応えた。
「うううーん。神様がその願いに興味ないからですか?」
八剱はああーと声を上げると璻の質問に応えた。
「そのパターンもありますが、基本的にはそれはみんなの願いが循環しないからですよ」
璻は八剱の言葉を繰り返した
「循環しない?」
八剱は引き続き璻の質問に丁寧に応える。
「そう!例えば、困っている人を助けたいって願っている人がいるとして。その人が助けた人に対して助けた自分にありがたいと思ってほしいだと願いの根本は承認欲求になります。願いは地面に落ちると生き霊になる。この場合はある意味……呪詛と同じ効果になるので注意が必要なんです。同じように困っている人を助けたいと思っている人がいて、問題が解消され元気でいてくれたらいいなと思うと願いは軽く土地神に届くんですよ」
八剱の会話を聞き、璻はまさか呪詛というワードが出るなんて思いもしなかった
思わず言葉が漏れ出てしまう。
「じゅっ…呪詛っ……ですか?」
璻の八剱は笑いながら応えた。
「そんなに驚かなくていいですよ。呪詛なんて見えない人からすれば信じない対象ですからね。呪詛には法律は関係ないのである意味合法!でも呪詛かけた人は必ず自分に返ってくるんでね」
藤宮は八剱に問いかける
「そう言えば……八剱くんは皇の部隊だったから呪詛には詳しいはずですね」
八剱は藤宮の問いかけに手を上下に振りながら応えた。
「いや〜もう俺、呪詛とか呆れるほど学んだんでお腹いっぱいです。人を呪って執着してもいい事一つもありませんし、それに……隠者では黒い布で顔を覆いながら仕事してましたからね。次はちゃんと自分が顔を出して人を助ける仕事、自然を守る仕事をしたくなったんですよ。ほら、俺の話はもういいですよ〜参拝するって言われたじゃないですか?行きましょうか?」
そういうと八剱は1人だけ足早に神社の拝殿へ歩き出した。藤宮と璻は顔を見合わせると話を始めた。
「隠者の仕事は機密事項も多く、汚れ仕事もありますからね。あまり呪詛に関しては八剱くん自身思い出したくないんですよきっと」
璻は藤宮の話を聞き深く頷いた。
「呪詛って色々あるんですね。私よく知りませんでしたよ」
璻の問いかけに藤宮は応えた。
「明らかにおかしい説明出来ない現象は呪詛になります。あとは何をやっても不幸だと思う人からすれば願いも呪詛になりますよ?呪詛ももっと取り締まる法律ができればいいのですが」
正直、璻は呪詛と聞いてもあまりピンとこない。もしかして気づかないうちに呪詛を受けているかもしれないが、受けていることすら忘れてしまう性格なのでそこまで深く認識した事はなかった。
……見えない人から見たら信じられない出来事だろう。呪詛が共通認識されたら法律くらいできると思うけど確実に呪詛をかけた人を取り締まる法律はもっと未来な気がする……
璻はそう思うと藤宮に言葉を返した。
「地球上の人間に呪詛が認知され被害が頻繁に出たら法律くらいできると思いますよ。もっと先の話じゃないですかね?」
璻は藤宮を見ながら応えると唐突に八剱は藤宮と璻を呼びかけた。
「早く2人とも参拝しましょうよ!2班と3班こっちに向かってますよ!」
藤宮と璻が後を振り返ると確かに2班が手水舎に向かっているのが見える。2人は急いで拝殿へ向かった。八剱、藤宮、璻の順番で拝殿に並び、喜三郎の指示通り、姿勢を正すと手を合わせて祈る。
璻はゆっくりと目を閉じ心の中で呟いた
……ここの土地神よ。今日初めてこの土地に入りますのでご挨拶に参りました。この神社にある奥宮を治し、この土地の水が循環しこの土地に住んでいる人々に届きますように……
そう璻は願い終わると深いお辞儀を2回繰りかえした。
ゆっくり目を開けて拝殿から退くと藤宮と八剱が端で待っていた。藤宮が璻に声をかける
「璻さん、獅子子さんの所に戻りますよ」
璻は藤宮に返事をしようとした瞬間、突風のような風が吹き荒れた。周りの木々が激しく揺れる。
……いきなり風?……
璻がそう思った瞬間、瞬時になぜか風が止んだ。
藤宮と八剱が周りをキョロキョロすると璻は2人に声をかけた。
「今行きます!」
藤宮と八剱の背後を璻がついて歩いた。
……あの突風なんだったんだろ?……
そんな疑問を頭の中で考えながら鳥居をくぐると獅子子が入り口で待っていた。
「よし!終わったな。1班はこれから本格的に環境業務を行うよ。まずは場所を案内する返事は?」
そう獅子子がいうと3人は「はい」と返事をした。
これから環境業務が始まると思うと璻は兜の緒を締めるような気持ちで獅子子の顔をじっと見つめた
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・マウント相撲
拝金主義時代に会社に勤めている社員が給湯室で自分の方が上だと他人に対して言葉のマウントを取ること。やれブランドバック買ってもらっただの、海外旅行連れて行ってもらっただのを言葉で煽り合うことを指します。主に男性に対して依存度が高い女性がよくやる手口ですが、基本的にこういう女性は承認欲求が高く、自己肯定感も低いため他人から評価されないと気が済まない考え方です。この場合は幼少期から両親に”自分は認められない”という考え方が根底にあります。そういう側面を理解し接してあげると人間関係が変わってきます。八剱は…どうなんでしょうか?
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