第100話:事実
空を見上げ唐突に強い光が目に入る。
「ここは朝日が思った以上に眩しいわ」
そう璻は呟くと近くにいた穂積は笑いながら璻の独り言に応える
「まっ……眩しいってそりゃっ……あっ、朝だっ…だからね」
璻は穂積の言葉を返した
「それもそうだね」
璻と穂積がどうでもいい会話をしていると唐突に九鬼が話に入ってきた。
「お前ら何寝ぼけた事言ってんだ?朝の9時過ぎだぞ?この辺は野生の動物も多い……道は整備されているがボサッとしていると襲われる。常に気を張り続けろ」
九鬼に言われるまで璻は気が抜けていた。
……そういや、ここ森の中だったわ……
璻はここまでの来た道のりを朝から振り変える。
朝8時半に集合、1時間前に起き支度を済ましてロビーまで行くと喜三郎さんに「バスに乗れ」と言われ玄関の前に止まっていたバスに乗り込んで揺られながら山を登る事40分
━━━━着いた場所が山頂近くのこの森━━━━
土地勘が全くない璻はどこかイマイチわからなかった。木々を鳥が優雅に鳴いているのが聞こえる。自然が豊かな土地なのは間違いない。
璻はバスの中での喜三郎の言葉を思い出していた。
……そういや喜三郎さんが着いたら各班の場所を確認するって言ってたけど……
喜三郎は全員バスから降りた事を確認し声をかけた。
「集合〜これから業務を始める。まずこのあたりにある神社に向かい挨拶をする。参拝を終わった後に業務を開始、とりあえず俺の後ろを全員ついてくるように」
喜三郎が歩き出すと全員、喜三郎の背後をついて歩き出した。道路を渡り階段を下ると川の音が聞こえる。璻は恐る恐る階段を下り始める。思った以上に急な階段、足場はツルツルと滑りやすい。気を抜けば滑って落下し血まみれ演出、病院行きなのはほぼSSRガチャを引くより確率が高いだろう。
璻は足を一歩出すたびにすくみそうになっていた。
……私が落ちたら全員怪我する慎重に降りなければ……
階段を降りると整備された綺麗な神社が見えてきた。川があり、授与所も人も働いている。なにより神社が整備されていて、とても綺麗だ。
八剱は周りをキョロキョロ見渡し喜三郎に質問をした。
「あれ……場所ここですか?川流れてるし、神社も壊れてない、環境業務を行うの本当にここの神社で合ってます?」
喜三郎は八剱の問いかけに応えた
「合ってるよ。ここの場所ではないが…同じ神社だ」
喜三郎の言葉から真意は理解出来なかった。
璻は思わず考え込んでしまった。
……どういう事なんだろ……
階段を降りた獅子子が振り向き喜三郎の発言にフォローを入れた
「きっちゃん、その言葉だけだと混乱するってとりあえず、全員が階段を降りてから私が説明するわ」
そういうと全員が階段を降りるのを確認した獅子子は話を始めた。
「全員いるな?まず説明をする。環境業務を行う場所はここを上がった奥宮だ。全体説明の際、この土地には元々神社があり、土地勘のない外国の投資家が土地を買い今現在放置してる状態だと義景は言ったが、この土地の元々の所有者は神社の神主でね?父から遺産相続したのがここの兄弟だったんだ。兄が奥宮、弟が本宮をそれぞれ管理していた。が……その兄が問題でね?莫大な助成金と自分に利益を考えその企業と契約してしまったんだ。兄と一緒に事業を経営した連中が奥宮の近くの水源に工場を建ててしまいその後、経営が悪化し工場を閉めたがその工場が今回崩壊したのが元々の原因。上にある奥宮を借金の担保にしたってのも心底信じられないが、それを知らずに外国人投資家がこの土地を購入しちゃったってのも、なんとまあ不憫な話で。昨日の全体会議で真実を話したら怒り出す人いるだろう?だから水流士だけは背景にある事実を全員に共有しようって話になったわけ。その工場の片付けを今回皇さんの部隊が、私ら水流士は奥宮を片付けを…っという感じでね」
獅子子の言葉を聞いた璻は思わず呆れてしまった。
……信じられない。自分の利益のために一族が大事に守ってきた神社を担保にするか普通……
矢崎はニコニコしながら獅子子に声をかける
「はぁ〜い!獅子子さんそのお兄様はご健在なんですか?」
獅子子は矢崎の質問に応えた
「矢崎ちゃん、それ聞いてどうするのかな?」
矢崎は笑いながら獅子子の質問に応える
「そりゃ、一回ぶん殴ってやらないと気が収まらないでしょ?どこにいるの?地域住民の水を止めて、ここの人たちを十分困らせのうのうと生きてやがる!クソみたいな拝金主義ヤローわ?教えてくださいよ」
䦰橋は笑いながら「やれ〜やれ!やっちまえぇ」とやじを飛ばすと八剱と北島がなぜか矢崎を掴み止めに入る。
北島は矢崎の頭に軽くチョップをすると少し怒っているように声をかけた。
「鼓?お前、暴力はいかん!話し合いをだな……」
北島の発言を被せながら八剱は矢崎の黒い白衣の襟を左手で摘み言葉をかけた。
「もう少し冷静に考えろよ?鼓?ここは個人の感情を出していい場面じゃねぇーんだよ?仕事だ?わかるか?情報を共有し業務内容を理解する場面だ。そのくらい判断はつくよな?」
矢崎は頬を大きく膨らませムッとすると襟を掴んでいた八剱の腕を思いっきりパンチをする。八剱は矢崎の襟を離すと北島は八剱を見て顔を左右に振った。八剱がイライラしているのが手に取るようにわかる。
璻はなんとなくだが矢崎の気持ちがわかる気がした。
……怒りはごもっともだし、環境業務を主に専門とし自然を大事にしてきた。自分の利益だけ考え地域住民を困らせている事実が、さぞ許せないんだろう。殴りたい気持ちも痛いほどわかる……
獅子子は深いため息を出すと矢崎の質問に応えた
「矢崎ちゃんの気持ちは痛いほどわかるけど殴る事は出来ない。残念ながら、だいぶ昔にこの世から去っていったよ。たしか脳梗塞だったっけ?」
矢崎は獅子子の言葉を聞きシュンとすると顔を背け「ちぇっ〜つまんないの!」と声を上げた。矢崎の発言に何故か八剱と北島はホッと胸をなでおろした。
喜三郎は笑いながら獅子子と矢崎を宥めた。
「元気があってよろしい。これから話を始めるぞ?全員よく聞くように。まず1班、2班、3班と別れて参拝する。藤宮泉、龍後璻、八剱凪音、前に出てくれ。残りの連中はここで待機だ」
名前を呼ばれ3人とも前に出ると喜三郎は3人に対して指示を出した。
「さて……まず手水舎から手を洗い口をゆすいでくれ」
喜三郎に言われるがままに3人は手水舎に向かう。八剱はなんの疑いもないまま柄杓で水を掬い手にかけた
「つめったいっ?!というか…この辺って水は確か止められてるはずですけど、なんでこれには水流れてんだ?」
八剱はそのまま手と口を洗い、黒い白衣のポケットに入れていたハンカチで手と口をゆすいだ。璻も八剱の隣で柄杓で水を掬い手と口をゆすぎ黒い白衣のポケットから花柄のハンカチを出し拭いた。
璻は水に触っても何も感じなかった。
八剱の言葉を聞き、藤宮も恐る恐る水に触れる。
少し立ち止まり藤宮は手で水を掬うとじっと手の中の水を見た。
璻は藤宮に問いかける
「藤宮さんどうかしました?」
藤宮は掬った水で口と手を洗い、ズボンからハンカチを出すと手と口を拭いた。藤宮は璻の質問に応えた。
「少し…引っかかると言いますか…確か山の上にある神社の手水舎は山から水を引っ張ってきていることが多いですが、八剱くんが言うように水道水にしてはやけに冷たいのですね」
喜三郎は疑問に感じている藤宮に声をかけた。
「確かに言われてみればこの辺一帯の水は止められているな。あの川は御祭神に当たるので使ってはいけないはず…あとで詳しく聞いてみる」
藤宮は喜三郎の言葉に軽く頭を下げ応えた
「お願いします」
喜三郎はそのまま3人に指示を出した。
「1班は目の前にある鳥居をくぐり参拝してまた集合した入り口まで戻ってくるように」
璻は喜三郎に声をかけ質問をした。
「ここの神社、御祭神はどの方でしょうか?」
喜三郎は顔に手を当てると璻の質問に応える。
「あっ……あちゃーそうだった。忘れるところだったわ。黒龗神と言われる水を司る龍神さ。ちなみに環境業務を行う所は喬龗神だ。ここと奥宮では祀っている神が違う」
璻は喜三郎に軽く頭を下げお礼を言った
「ありがとうございます。どの方かわからないと祈っても意味がないので」
喜三郎は笑いながら璻の言葉に応える
「いいねぇ〜その姿勢!神社に行く時は神社の神の名前まで覚えて祈るのが基本だ。ただ御利益があるから神社の祀っている御祭神を事前に調べず、ただ行って自分の利益のみ、願いを祈っても基本的には念になり地面に落ちるからね。その点、璻さんは御祭神を理解しようとしている。いい考えだ〜参拝方法は拝殿に向かって姿勢を正し手を合わせて祈る。その後、腰を傾けて深いお辞儀を2回繰り返してくれ。俺は2班3班の説明に向かうから、あとは3人で参拝よろしく。あっ……終わったら神社出た場所に獅子子がいるから、そこで集合って事で」
そういうと足早に喜三郎は3人の元を去っていった。
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・神社の本宮
その神社の中心となる社殿や、神様を他の場所へ分ける元となった元の神社。誰でも参拝しやすく神社が大きいのが特徴
・神社の奥宮
本宮から見てさらに奥まった場所や山の3合目・山頂などに建てられたお社。基本的に簡単には行きづらい場所にあることが多いが奥宮の方が自然霊と一体になっており清浄さをより感じやすい。
・手水舎
神社や寺院の参道にある、参拝前に手と口を清めるための建物や施設
・柄杓
参拝前に手水舎で心身を清めるために使用する
・御祭神
神社に祀られている神さまのことです。日本神話の神々や、実在の人物、自然の霊などが祀られます
ちなみに人ではない龍神は精霊などの自然霊という分野の神に分類されます
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※初めて100話まで続けて書き投稿することができました。続けることが苦手だった私がこれまで続けられたのはコメントを実際いただいたり、いいねを頂いた皆さんのおかげです。本当にありがとうございます!
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