第99話:2日目終了
璻も椅子を畳むと部屋の奥にある押し入れまで椅子を持ちながら歩く。
この時代に椅子を持って移動するなんて中々ない経験だ。普段は全部コンシェルジュが片付けてくれるが、便利な時代になると自分にとって不便な事に対して不満をぶつける人はいつの時代も一定数いる。
ここの人たちは椅子を運ぶ事さえも、楽しんでいるようにも璻には見えていた。
唐突に璻のお腹がぐぅ〜と鳴ると今日はあまり食べていない事に気がついた。
……そう言えばおにぎりでお昼終わってたっけ?お腹すいたな……
そんな事を考えていると何故か璻の隣にいた藤宮に獅子子が声をかける
「い〜ずみ?このあと話あるんだけど?顔貸せるよね?」
藤宮は気まずそうにすると頷き返事を返した。
「はっ……はい」
獅子子が椅子を畳む瞬間に雨貝が獅子子に声をかける。
「獅子子さんっ……獅子子さぁぁぁん!やっとお会いできましたね」
そういうと雨貝は持ってた椅子を無言で北島に押し付け獅子子にハグをする。力が強く腕が赤く腫れる
「ウッ……」
獅子子は苦しそうにしながら話をした。
「いっ……斎、あっアンタいい加減にしなさいよっ……」
そういうと雨貝は獅子子を離す
「ごめんなさい。あまりの愛しさについ腕を圧迫しちゃいました。大変なご無礼を……」
獅子子は思わず自分の腕を確認し、内出血しているのがわかった。獅子子は深くため息をつくと雨貝に声をかけた。
「はぁ……やめてくれる?絞められる私の身にもなりなさいよ……」
雨貝は軽く頭を下げ謝った。
「申し訳ありません」
雨貝は獅子子の隣にいた藤宮に気がつく
「あらっ……藤宮くんお久しぶりです」
藤宮はなぜか少しだけ緊張しすると雨貝にさとられないよう笑顔で言葉を返した。
「雨貝さんもお元気そうですね。お変わりなくお美しいです」
雨貝は苦笑いをしながら藤宮の挨拶に応える。
「美しいのは存じております。相変わらず定型分のようなご挨拶、ありがとうございます」
藤宮はこの挨拶を聞きハッと思い出した。
雨貝は藤宮に対して言葉をかけた
「藤宮くん昔の悪い癖直っていますか?顔がいいからと自負しているのは20代までですよ?出来もしないのに意地を張って出来ると言い切り、無駄な自己顕示欲ばかり高く自分のトラウマばかり増やした状態で業務を行うと依頼主や新人との信頼はすぐ崩れ落ちますからねぇ?あと……親しい人に対して言わなくてもわかってもらえるという無駄な妄想は捨てられましたか?優柔不断な藤宮くんその考え方、やりがちですので」
藤宮は雨貝の言葉がグサグサと刺さり言葉が心が抉られる。
雨貝の顔をじっと見る藤宮は久々に嫌な感覚がした。
……この人、ほんっと綺麗だけど、そういえば俺に対して言葉が異様に厳しいの忘れていた……
ぐぅの根も出ない藤宮は思わず声をあげる。
「うっ………」
……俺のプライド、ズダボロなんですけど人の心とか共感する能力とか雨貝さんは皆無なんですかね……
藤宮は苦笑いをしながら頭を下げた。
「ごっ……ご指摘頂きありがとうございます」
䦰橋はその会話を聞き藤宮をフォローするように雨貝に声をかけた。
「雨貝、そのへんでやめてやれよ……藤宮のHPはゼロだぞ。お前、男のプライドをグサグサ折るの得意だよな」
雨貝は䦰橋の言葉を笑顔で言い返した
「あら、正論を言ったまでですが……少々やりすぎましたかね?こんな事で傷つくなんてトラウマの癒しが足りない証拠です」
䦰橋ははぁっとため息を出すと雨貝に言葉を返した
「雨貝、世の中お前みたいな正論モンスターばかりが正しいわけじゃねーぞ?」
雨貝は䦰橋を睨みつけながら笑顔で応える。
「あら、䦰橋さんやけに肩を持ちますね?お言葉ですが…破滅的な人生を唯一の娯楽とし、人の不幸を見てメシウマ根性でコンテンツを流行らせた……軟弱な中年層の連中に藤宮くんにはなって頂きたくありませんね?ねぇ?そう思いますでしょ?八剱くん」
璻は雨貝の顔を見ると顔は笑っているが目の奥は怒っているように見えた。
……この人、拝金主義社会時代に自分の中にトラウマがあるのかも。雨貝さんの言葉になぜだか怒りを感じる……
急に話を振られた八剱は雨貝を見ると即座にツッコミを入れる
「唐突に俺を巻き込まんでください。同調圧力ですよ!あと雨貝さん俺まだ若いからね?軟弱で薄っぺらい人間にはなるつもりはありませんから!」
雨貝は申し訳なさそうにすると八剱に言葉を返した。
「あら、そうでしたか…八剣くんは口が達者なのでつい…大変失礼致しました。八剱くんを会話に挟めば明るくなるはずと成政から教えてもらったので」
八剱は北島を睨みつける。
「成政、お前っ!」
北島はニヤリと笑うと八剱はさっさと自分の椅子を押し入れまで運び片付け終えると北島の背中を思いっきりバシッと叩いた。「いってぇっ!」北島の声が部屋に響く。璻はじっとそのやり取りを見ていたが小学生の男子の戯れている様子を思い出していた。
……ここは小学校か何かなんなのか……
そんな言葉がふと頭の中に浮かぶ。
䦰橋ははぁっとため息を出しだるそうに雨貝に声をかけた。
「雨貝さぁ〜普段温厚なのに藤宮に対して厳しいのはなんなんだ?」
雨貝は笑顔で䦰橋の言葉に対して応える
「藤宮くんは周りの人と自分との境界線が曖昧で無駄に他人に感情移入しがちで共依存的な所があります。まずは自分の苦手な部分を他人から指摘してもらって気づき、境界線をはっきりさせる。これを実践をするべきかと思いましてね?後輩の指導も仕事の内ですよ?䦰橋さん」
藤宮は泣きそうな顔をしながら雨貝に声をかける
「雨貝さんもう少し寛大なお心で言葉をかけてもらえると」
雨貝は藤宮に対して真剣に言葉をかける
「だいぶ寛大ですけど、これ以上優しくしろと仰るんでしょうか?」
話を聞いていた獅子子が呆れながら雨貝に声をかけた。
「はいはい〜斎、言い過ぎよ。ったく…早く椅子片付けて部屋から出てって!あんたらと雑談してる場合じゃないからね」
雨貝は自分が持っていた椅子がなくなっている事に気がつくと北島に声をかけた。
「成政、私の椅子はどうしたのでしょうか?」
北島は雨貝に呆れながら言葉を返した。
「な〜にぃ言ってんですか。あなたが雑談してる間に椅子片付けましたよ。さっき押し付けたでしょう?俺に」
雨貝は小さい声で「あらっ……」と声を漏らすと北島に向かって軽く頭を下げる。
「失念していましたわ。片付けて頂きありがとうございます。では成政、今日の報告書まだ上がっていませんでしたね?そちらに取り掛かってください」
北島は嬉しそうにすると雨貝に「承知しました。斎さん」そう応え頭を軽く下げると北島は静かに部屋から退出をした。
雨貝は獅子子に声をかける
「では、獅子子さん私は仕事が残ってますのでこれで失礼します」
獅子子は雨貝に手を振る
「斎、こん詰めんな。また明日ね?」
雨貝は嬉しそうに「はいっ!」と声をかけ、足早に部屋から出ていった。璻もようやく椅子を押し入れに片付けると藤宮を置いて部屋から静かに出て行った。璻は廊下をとぼとぼと歩きながら考えていた。
……なんだかんだみんなコミュニケーションが取れており、意思疎通ができている。それに指摘をしても全員が被害者ぶらないメンタルの強さは果たしてどこから湧いてくるのだろうか?……
そんな疑問が頭に浮かぶ。相当トラウマを乗り越えた強者なのかなとも考えてしまう。
トラウマを癒すとメンタルが動じなくなり相手も自分も良いコミュニケーションができるだから自分の能力を最大限に活かし生き生きと働けるのかもしれない。そんな仮説を歩きながら考えているとまた璻のお腹が盛大にぐぅーっと鳴り始める
……とりあえず食堂でご飯食べて、お風呂入って早く就寝しよう……
璻は歩きながら1人で食堂に向かっていた。食堂に入ると食事中の人は誰もいなかった。食堂にいた女将さんに精進料理定食を頼み、璻は女将から定食を受け取ると手を合わせ「いただきます」そういうと食事を1人で楽しんでいた。
……誰かと食事を楽しむのもいいが疲れ切ってしまっている時は1人で食事をする事が気も使わないしストレスも感じない。気楽で心地いい……
璻はそう思いながら黙って食べ進める。
今の現代社会では味は薄く感じるかもしれないが疲れていてもなぜか美味しく感じる。旬の素材の旨みを最大限に感じられる料理に改めて心が温まる感覚が広がる。食事が終わると食べた食器を女将さんに返し「ごちそうさまでした」と声をかけその場を後にした。
その後は近くの温泉があるお風呂に向かい、自分の部屋に戻ると夜9時を過ぎていた。いつもなら本を読みたいところだが、その気力がなかった璻はベッドに座り横になるとうとうとしながら目をつぶり深く眠ってしまった。
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・破滅的な人生を唯一の娯楽とし、人の不幸を見てメシウマ根性でコンテンツを流行らせた
雨貝は拝金主義社会に対して強烈なトラウマを持っています。破滅的な人生を送っている人に対して娯楽として社会に流行らせたことが雨貝は許せなかった。その思いが今も残っています。特に同じ女性に対して不幸を題材にしたコンテンツは雨貝は特に嫌いでした。メシウマ根性でお金をもらっていた頭の硬いおじ様にも許せない気持ちが多いです(※喜三郎や䦰橋、そしじぃは例外です実力があるので)
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