98.魔王の最期
「モモコ! みんなを呼んでこい!」
「わかった!」
「あっ、ただし、言葉遣いに注意な!」
駆け出したモモコは立ち止まり、振り返って笑う。
「アンベールもね」
「だな……」
苦笑するアンベールは頭を掻いた。
「おっと……、癖まで入れ替わったか」
すると、エスカが近づいてきてからかった。
「体が元に戻って、ぎこちないぞ」
「ああ、本当だぜ。すっかりモモコの体に馴染んでいたからな。なんとなく、感覚がおかしい」
「どの辺がおかしい?」
「こことか。特に、こことか」
「ムフフ」
「こら! 笑うな!」
アンベールは、シャンデリアを見上げ、その真下の床を見る。特に、床には変化がない。
「エスカ。奴はまだ真上にいるかどうか、千里眼とかで見えないか?」
「見える。ちょうど真ん中辺りに止まっていて、羽をゆっくり動かしている」
「畜生! どうやったら、落とせるんだ!?
そうだ、ヨクト。チートの力は?」
『あと一回』
「一回かぁ……。今やっても、シャンデリアを壊すだけだよなぁ」
その時、パタパタと足音がして、アルバン以外のみんなが駆けつけた。アルバンは結界を支えているので動けないでいる。
モモコは「やあ」と声をかけて出迎える。
「魔王の野郎が、いや、魔王がチョウチョになってシャンデリアに隠れやがって、いや、隠れたんだが、何かいい知恵ない?」
すると、フェムトが「モモコもそうだけど、なんだか言葉が変よ」と言う。
ゼプトも「そう。いつもは、来いよなのに、来てだったし」と言葉を続ける。
アンベールとモモコは顔を見合わせ苦笑する。
「で、いい知恵ない?」
「無視された」
フェムトとゼプトが半眼になる。
すると、ガリカが「竜巻で粉々にしたら?」と提案する。
「でもねぇ、鱗粉がすべての物を溶かすらしく、風を起こすと辺りに被害が及びそうで」
「うーん……。なら、アンベールの雷撃魔法はどう? 一撃じゃない」
「そ、それが……」
「それが?」
「ちょっと、いろいろあって、使えなく――」
そこへ、モモコが割り込んだ
「やってみなけりゃわからないじゃない、いや、わからんだろ!」
アンベールがしきりに頭を掻く。
「……わかった。
よし! やってみる!」
アンベールは剣を置いて、中身がモモコだったアンベールがどのように雷撃魔法を繰り出していたのかを思い出す。
「イメージよ」
モモコがアンベールに言葉をかけた。
(イメージ……)
「方角は、真ん中辺りだぞ」
エスカが足下でアドバイスする。
(見えないから、ピンポイントは無理。どでかく行くか……)
アンベールは全神経を集中して、両手をシャンデリアの方角へ向けた。
(いっけえええええっ!)
心の中で号令をかけると、突然、両手から太い稲妻が発射された。それは、今までのアンベールが出したこともないほど太くて見事な稲妻だった。
一瞬にしてシャンデリアの中央付近に到達した稲妻は、爆発を伴い、周囲に破片をまき散らす。
「危ない! 逃げろ!」
粉々になった破片が辺りに飛び散る中、全員が正面の扉に向かって脱兎のごとく駆け出した。
床が所々ジュウッと煙を上げるので、鱗粉が広範囲に飛散したようだ。
シャンデリアは半分が破壊され、照明が暗くなったが、一部が残っているのでまだ部屋の中は見えている。
エスカが「さっきの真下にいるぞ!」と叫び、フェムトが「人に似た生体反応があそこにある」と指さす。
ここでモモコが「私がやる!」と駆け出して行き、剣を拾った。
「おい、大丈夫か!?」
アンベールの心配の声に、モモコは笑顔で振り返って「やってってみなけりゃわか――らんだろ!」と答えた。
モモコは危なっかしい格好で剣を振り上げる。
「うおーーーーーーーーーーっ!!」
と、その時、床からモクモクと煙が上がり、人の姿になった。
魔王が実体を現そうとしているのだ。
だが、モモコは躊躇することなく、一気に剣を振り下ろした。
ゴーーーーーーーーーーッ!!
今までのモモコの剣圧よりは少々弱いものの、床を引き裂きながら、まだ完全に元に戻っていない魔王を襲う。
剣圧で吹き飛んだ魔王は、壁に激突して尻餅をつく。ちょうど鎧を着た姿に戻った魔王は、苦悶の表情を浮かべた。
「まだだ!! 貸せ!!」
アンベールが叫びながらモモコへ駆け寄り、速度を落とすことなく剣を受け取って、魔王めがけて突進する。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
アンベールは野獣のように咆哮して、走りながら剣を左横に水平に構える。
立ち上がろうとする魔王は、足が滑って、再び尻餅をついた。
そこへ剣が真横に振られ、魔王の首に食い込んだ。
宙を舞う魔王の生首が、ゴトリと床に転がる。
と、その時、部屋全体がグラグラと揺れ始め、天井や壁や床に亀裂が走った。
「城が崩壊するわ! 逃げて!」
テラの言葉に、全員が小部屋に駆け込んだ。




