97.入れ替わっていたモモコとアンベールが元に戻った
モモコは深呼吸をした。
(そうだ! 魔王は三人いるから、あと一人!)
こうなると、誰がいいか、大いに迷う。
魔王軍の勝手を知っているテラか? でも、魔王のことは詳しくない。それより、魔王に首を刎ねられている。
アンベールか? アルバンか? それともガリカか? いずれも、全く未知数だ。
ここで、モモコはあることに気づく。そして、アンベールの肩を叩き、耳元で囁いた。
「俺が正面の扉の外にいて、他の全員が魔王の部屋にいたとき、何が起きた?」
アンベールは上を向きながら思い出す。
「正面に魔王を名乗る男がいたが、フッと消えて、僕らの後ろ、やや右寄りに現れた」
モモコは、チョウチョの位置と、刺された時に後ろにいた魔王の位置を思い出す。
「そうか。奴の出現位置がわかったぞ」
「出現位置?」
「実は、魔王は三人いる。一人は蝶に変身している。そして、そいつらは、三角形の頂点に立っている」
アンベールは目を丸くしたが、すぐに半眼になった。
「そりゃ、三人いればいつでも三角形が出来るさ」
「そうじゃない。二等辺三角形だ」
「……まあ、雰囲気だけはわかった。僕らが遭遇した二人に蝶を足せば、二等辺三角形になる位置だね?」
「そうそう。アンベールは一緒に来て、俺の右後ろを守ってくれ」
「……わかった。努力する」
モモコはアンベールの手を引き、もう一度大きく息を吸って、勢いよく扉を開いた。
やはり、魔王は部屋の中央付近に体の正面を向けて立っていた。
モモコは魔王と向き合う位置に立って剣を上段に構える。
すると、すぐ後ろに人気を感じる。振り返ると、真後ろにアンベールが背中を向けていた。
「おい、それが三角形か?」
「だって、エスカが真後ろにいるじゃん。二等辺三角形を作るとこうなるが」
「お前ら、少しは開け!」
アンベールが右に移動し、エスカが左に移動した。
すると、魔王がカラカラと笑った。
「正解、正解! ついに正解を導いたね!
勇者諸君がその位置関係にいれば、僕も手を出しにくくなる」
「お前、何嬉しがってんだ!?
もしかして、ハンディ戦を楽しんでいるのかよ!?」
「そうさ! これでお互いがハラハラするじゃないか!
これでこそ、ゲイム!」
「魔王討伐に魔王がハンディ与えるなんて、聞いたことねえぞ!
お前の脳天気には付き合いきれん!」
「いやいや。一方的に勇者の首を狩るのは、もう飽きたからね。
どいつもこいつも、ポンコツ勇者ばかりだし。
この正解を見つけたのは、君達しかいない。
僕も嬉しいよ。
ところで、君達は、お互いが入れ替わっているんだろう?
モモコさんとアンベールくん。
いや、モモコくんとアンベールさん」
アンベールはギョッとした。だが、モモコは魔王にバレていることは知っている。
「ああ、そうだよ! だから、どうした!?」
「じゃあ、僕にもハンディをちょっともらうよ」
魔王は指をパチンと鳴らした。
と、突然、モモコとアンベールの体が光り輝いた。その輝きが収まると、二人は周章狼狽した。
剣を持つモモコは「私、この剣、使ったことない!」と言う。
両手を広げたアンベールは「俺、雷の魔法なんか使えねえぞ!」と叫んだ。
この世界で入れ替わっていたアンベールとモモコが、互いに元の体に戻ったのだ。
魔王は「これはなかなかのハンディだな」と笑い、「いいよ、二人とも出てきて」と言った。
すると、エスカの頭上に蝶が出現し、アンベールの近くにもう一人の魔王が出現した。
「おい、モモコ! 何とかしろ!」
「そんなこと言われても、わからない!」
「いいから、適当にやれ!」
「でも……」
「とにかく、思い出せ!」
すると、何を勘違いしたのか、モモコは両手を高く上げた。
「出でよ! この場にふさわしい物!」
と、突然、二人の魔王と蝶の3メートルほど上空に、頭より二回りも大きな丸い漬物石が現れた。これは、この世界に来て苦し紛れに出したモモコ――実はその時はアンベール――の初魔法だ。
それらは音もなく落下し、次々と彼らの脳天に激突して鈍い音を発し、ごろりと床に転がった。ただし、蝶だけは風圧で飛ばされて逃げた。
不意を食らった魔王は、ヘナヘナと倒れ込む。
「貸せ!」
アンベールがモモコの剣を奪い、まずモモコの正面にいて尻餅をついている魔王に向かって、剣を真横に振った。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
水平方向の銀閃が扇状に拡大して、魔王の首を刎ね、さらに奥の壁を抉った。
衝撃で部屋全体がガタガタと揺れ、調度品もいくつか倒れた。
「こっちもだ!」
アンベールはモモコを横に避けて前に回り込み、今、まさに立ち上がろうとしている魔王の首を剣で直接刎ねた。
頭部は黄金の床にゴトリと落ち、それを失った胴体は後ろ向きにゆっくりと倒れていく。
「蝶が逃げるぞ!」
エスカの声に、アンベールは急いで天井を見上げる。
蝶は鱗粉をまき散らしながら、シャンデリアの光の中に溶け込み、点となって消えていった。




