96.3つの魂
モモコたちは、テラを先頭にとも連れで秘密の出入り口の中へ吸い込まれた。
そして、板張りの狭い小部屋へ全員が無事にたどり着いた。
モモコは正面の扉の前に立つ。テラは左の扉の前に立ち、他のメンバーは彼女の後ろに付く。しんがりのガリカがモモコに目配せで突入のタイミングを知らせる。
モモコはエスカを降ろし、祈るような気持ちでセーブした。
深呼吸をし、もう一度大きく息を吸って、勢いよく扉を開いた。
これで何度目だろう。
いい加減に、金ピカな大広間は見飽きてきた。むしろ、反吐が出る。
エスカは、モモコの踵から少し離れたところで背を低くし、背後を警戒する。
魔王が床から出現した。今度は、正面を向いている。
いつもと違う。きっと、何かある。
モモコは警戒を強めて、剣を中段に構えた。
「ほほう。この部屋に入る仲間の組み合わせを総当たりで調べる能なしかと思っていたが、少しは考えたようだね」
「その正面を向いた構え、この組み合わせが正解に近いと見た」
「いや、正解だよ。
さあ、真剣勝負と行こうか」
「何だよ、それ! 今までは手抜きかよ!」
「背中を向けていたので、その意味くらい、とっくに気づいていたと思っていたがね」
モモコは剣を思いっきり振りかぶる。
「やかましい!!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
野獣のように咆哮し、目にも止まらぬ速さで剣を振り下ろした。
空気を切り裂く剣は、通過した部分が真空になり、衝撃波が発生。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
剣圧が床を裂きながら、魔王に襲いかかる。
ドオオオンという衝突音が起きたかと思うと、剣圧が魔王を水平方向に運んで行く。
だが、壁の寸前で魔王が踏みとどまった。
「う、嘘だろ……」
前回は、剣圧が壁を引き裂き、魔王を割れ目に押し込んだ。
今度は、剣圧を止めたのだ。
(しまった! 鎧にもろにぶつけちゃ駄目だ!)
確か、チートの力はあと二回。
剣をもう一度振りかぶる。振り下ろすと見せかけて、剣圧で首を狩るのだ。
モモコが剣を振り上げる。
「無駄だよ」
魔王がモモコを指さした。これも経験済み。
だが、エスカの合図がない。
(まさか!?)
と、その時、エスカが「おい、チョウチョだ!」と声を上げた。
「どこにいる!?」
「頭の後ろ! や、やばい! 逃げろ!」
何が起きているかわからないモモコだが、とにかく横っ飛びで回避した。
「奴は鱗粉をまき散らしているが、見ろ! 鱗粉で床が溶けるぞ!」
モモコが宙を見上げると、虹色の羽をした大型のチョウチョがヒラヒラと飛んでいて、虹色の鱗粉をまき散らしている。エスカの言う通り、床に落ちるとジュウッと煙を上げてその部分が溶けてへこんでいく。
「エスカも逃げろ!」
「いや、待て! 俺が引きつける」
エスカが両方の前足を上げてジャンプし、少しずつモモコから離れていく。すると、チョウチョはエスカの方へヒラヒラと飛んでいき、モモコから離れていった。
「よし!」
魔王は「猫を追いかける奴も馬鹿だが、剣を振り回す奴はもっと大馬鹿だ」と肩をすくめる。
「うるせえ!!」
モモコの頭上から剣が振り下ろされる。
その軌跡の延長上には魔王はいない。
延長上にあるのは、モモコから見て魔王の左側。
剣の切っ先が魔王の目の高さに達する。
それが途中から斜め右下に軌道を変えた。
顎の辺りの高さに達する
そして真横に振られる。
ほぼ水平方向の銀閃が扇状に拡大し、魔王めがけて突進する。
魔王の目が見開いた。素速くしゃがみ込む。
だが、間に合わなかった。
ザシュッという音とともに、魔王の頭が上下に分かれ、勢いが衰えない銀閃は後ろの壁を横一文字に引き裂いた。
尻餅をついた魔王は、はずみで頭部の上半分が床に落下した。
「やったぜ!!」
モモコは飛び跳ねて喜んだ。
ところが――、
ドスッ!
背中から鋭い何かがモモコの体を貫いた。
まただ。腹から血の滴る剣が突き出ている。
モモコが力を振り絞って後ろを振り返ると、そこには魔王の顔があった。
「さすがだね。よく弱点に気づいた。褒めてあげよう。
だが、テラから聞いていないだろう?
僕が魂を3つに分けていることを。
知っているのは幹部だけだから無理もないよ」
魔王はさらに力を込めて、モモコを貫いている剣を突き刺す。
「一人は君が倒した彼。
もう一人は、猫にも蜂にも蝶にもなる彼。
そして、この僕さ」
そして、魔王は剣を引き抜いた。モモコは崩れ落ちるように倒れ込む。
「いい加減、早くゲイムを終わらせて欲しいな。
女と男が入れ替わった君には、ちょっとは期待しているんだよ」
そう言って、魔王はモモコの首を刎ねた。
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