99.天空の城の崩壊
小部屋も秘密の通路も、すでに崩落が始まっていた。
1秒たりとも猶予はない。
テラの明かりを頼りに、雨のように破片が降り注ぐ中を全員で通路を突っ走る。
途中、ゼプトが転んだ。そこへ大きな破片が落下し、彼女の足に当たった。
悲鳴で気づいたアンベールは、後ろを振り返り、彼女の元へ駆け寄った。
テラが遠ざかるので、みるみる暗くなる。だが、ゼプトの位置はわかっている。
「大丈夫か!」
「もう走れない」
「諦めるな!」
「もう行って」
「仲間を置いて行けるかよ!」
アンベールは暗闇の中でゼプトを抱きかかえる。そこへさらに大きめの破片が落下した。しかし、すんでの所でアンベールはそれを回避し、足を機関車のようにして走った。
(そうか。俺はこんなに力のあるアンベールに戻ったんだ)
彼は、自分の力を知って、体が元に戻ったことを改めて実感した。
頭上に破片が落下する。額に頬に、細かい破片が当たる。だが、そんなことには構っていられない。
様子がおかしいことに気づいたテラが、明かりを揺らして待っていてくれた。
「わりぃ! 待たせた!」
「いいわよ! 私の後ろに付いて来ないと、あの壁は抜けられないから!」
大きな破片が、背後でドスンドスンと落下する音が聞こえる。それにせき立てられるように、みんなは走り出した。
壁を抜け、左を曲がって走り抜ける。
すると、トンネルから一瞬にして荒野の世界に変わった。
先頭を走っていたテラは、足がもつれて倒れ込む。他のみんなも、互いにぶつかったりして倒れ込んだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
地鳴りのような不気味な音が辺りに響き渡る。
城を見ると、全体に無数の亀裂が入って、破片が雨のように落下している。
やがて、城自体もゆっくりと降下し始めた。
バランスを失い、徐々に傾いていき、真横になってついに地面に激突する。
その衝撃で地表は波のように揺れ、城は爆発し、粉塵が吹き上がった。
その光景を見ながら、アンベールがゼプトを抱えて立ち上がる。
モモコも立ち上がる。
テラもフェムトもガリカも立ち上がった。
アルバンは立ち上がりながら「終わったな」とつぶやいた。
アンベールは、アルバンの横に立った。
「ここまで達成した勇者は?」
「モモコが最初だ」
アンベールはニヤッと笑い、「確かに、モモコが最初だ」と言った。
◇◇◆◆◇◇
約束通りに村まで戻ったモモコたちは、村民全員の歓待を受けた。
すでに剣から外に出ていたヨクトは、村長に抱きしめられた。
魔王討伐成功の噂が各地に流れていて、村では勇者一行をねぎらう宴の用意までしていた。村長の話では、行く先々で歓迎されるだろうとのことだった。
女の勇者を褒め称える村民は、モモコに握手を求めた。アンベールに目配せする彼女は、顔を赤らめる。
夜中まで続いた宴は、飲めや歌えやの大騒ぎ。
と言っても、飲めないモモコとアンベールの目には、自分を肴に村民が飲み食いしているのではないかと映っていた。
村長が千鳥足でモモコのそばにやってきた。何やら、手に木箱を持っている。
「約束通り……ですな。宝物を……渡しますですな」
酔っ払った村長が、ふらつきながらモモコに木箱を差し出す。
受け取ったモモコの横で、アンベールが「これは何でしょうか?」と知っていて尋ねた。
「これか? 願い事を……何でも一つ……叶えるものじゃ」
すると、アンベールが横を振り向いて「おい、アルバン」と声をかける。
「何だ?」
「最初の頃に、お前たちの願いを一つ叶えてやる、って言ったよな?」
「ああ。ただし、二人いても一つだ」
「じゃあ、俺たちを元の世界に戻してくれ」
「よかろう。で、そっちの宝物はどうする」
「決まってんだろ」
「……なんか、さっきからモモコっぽい話し方だが」
「ゲホゲホ……。
こっちの宝物で叶える願い事は一つ。
二度と魔王を出現させないこと」
「な……!」
「そうだ。ディフェリタ国で行われるこのゲームは、ここで永遠に終わらせる」
「ゲイムだ」
「こだわるなぁ……」
「正しくは、ゲイムではなく、ミッションだが」
「魔王はゲイムって言ってたぞ。本当はゲイムじゃないのか?」
「うむむ……」
「ま、どっちでも俺には関係ない。とにかく、今回で終わらせる」
「そうか。終わらせるを選んだか……」
「何だよ。寂しいのか?」
「いや。勇者なら金品を望んだり、力を望んだり、独裁者を望むのかと思っておったが」
「どういう偏見だよ……。
自分だけ裕福になったり、最強の力を得て自己満足に陥っても、この国の人々は喜ばないだろう?
喜ぶのは、みんなが魔王からの脅威に解放されること。
だから、ゲームを終わらせる」
「ゲイムだ」
「はいはい」
「なら、最初に出会ったところまで戻るぞ」
「ああ」
二人は笑顔を交わした。
モモコは村長からもらった宝物を使い、アンベールの願いを叶えてもらった。
ゲイムは永遠に終了。
もう魔王はいなくなる。それを討伐する勇者も当然いない。
異世界から召還されて、勇者になることはないのだ。
ただし、勇者にはならないが、開拓民になるという選択肢は残された。そのことに気づいていたのは、アルバンだけだった。
◇◇◆◆◇◇




