93.魔王は最強のLV10でも倒れない
魔王の部屋に突入したモモコは、黄金の光の洪水に圧倒されて立ちすくんだ。
壁も柱も、天井も床も、全てが黄金。調度品もシャンデリアも黄金。
右奥に一段高いところにある玉座も黄金だ。
広さは、20メートル四方。高さは2階建ての建物が楽に入る高さ。
この豪華絢爛な空間に立つ足の裏から、ゾクゾクする感覚が踝、腿、膝を通って股間にまで達し、腰から上の全身に伝搬する。
ここは魔王の巨大な黄金の間。
しかし、魔王は見当たらない。
(どこにいる!?)
モモコが注意深く辺りを窺っていると、違和感に気づいた。
テラやアンベールたちが部屋の外で衛兵や守備隊と戦っているはずが、何も音が聞こえて来ないのだ。
高さは3メートルはあろうかという巨大な黄金の扉の向こうに目をやって耳を澄ますが、物音一つしない。
モモコは、自分の心臓の鼓動だけが聞こえてくる感じがした。
(おかしい……。罠に嵌められたか?)
と、その時、床の中央付近から、紫色の頭がせり出してきた。それが徐々に床をすり抜ける。後頭部しか見えないので、後ろ向きの人物のようだ。
その人物は、鎧に身を固め、モモコに背中を向けて立つ。
(まさか!? あいつかよ!)
そう。後ろ姿だけでもわかる。
「よくここまでたどり着いたね」
男はそう言って、頭だけ振り返った。
間違いない。エスカに化けて、モモコの額に稲妻を発射したイケメンの男だ。
「お前が魔王だったのか……」
「そうさ。僕はエクサ。君はモモコだろ?」
「俺の名前を知っているのか?」
「当然。
ところで、以前、セーブしろと忠告したよね? あれから守っている?」
膝がガクガクするモモコは、自分を鼓舞するためにも大声を出した。
「い、言われなくても守っているぜ!」
「ぜ? ……ふむ、女の姿をしているが、中身は男か」
「そんなの関係ねえ! いざ尋常に勝負しやがれ!」
大声を出すことで腹が据わったモモコは、剣の柄をがっしりと握って中段に構える。
「じゃあ、かかってきたまえ。こっちは丸腰だよ」
そう言って魔王は、肩をすくめる。
モモコは剣に向かって囁いた。
「ヨクト。例の力を頼む」
『準備したよ』
モモコは剣を大きく振りかぶった。
「いっけええええええええええええええええええええっ!!!」
全力で振り下ろされた剣がしなり、空気を切り裂きながら床に達する。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
剣圧が轟音を立てて床を引き裂きながら、魔王の背中を無慈悲に襲う。
ドオンという衝突音が起きたかと思うと、剣圧が魔王を水平方向に運びながら、向かいの壁を引き裂いた。
部屋中に衝撃音が鳴り響き、床が揺れ、調度品がガラガラと倒れていく。
魔王は、壁に出来た亀裂の中にめり込んだ。わずかに、鎧の背中が見える。
(やったのか!?)
だが、壁の亀裂の中で、破片がボロッと音を立てて落下した。
またボロッ、ボロッと音を立てて落下する。
鎧がキラキラと光を乱反射する。どうやら、鎧が動いているようだ。
そして、バラバラと音を立てて、鎧を着た全身が外に現れた。
「マ……、マジかよ……。化け物かよ……」
顎がガクガクするモモコに向かって、また魔王が頭だけ振り向いた。
「そう。魔王は化け物さ。そうでないと、このゲイムは面白くないだろう?」
「ふざけるなあああああっ!!」
モモコは、もう一度剣圧で魔王を吹き飛ばした。
床の亀裂は、倍に広がる。
部屋中が大地震のように激しく揺れる。
強い衝撃でシャンデリアが左右に大きく振れ、もう立っている調度品は一つもなくなった。
魔王の方は、さらに深く壁にめり込んだので、鎧が見えない。
息づかいが荒いモモコは、剣に語りかける。
「もう一回、チート、いけるよな?」
『今、いったん止めた。あと二回は大丈夫』
「よし!」
モモコは右手でガッツポーズを取る。
と、その時、またしても、ボロボロと音を立てて破片が落下し、鎧が現れた。
背中を向けた魔王は、「フーッ」とため息をつき、今度は体を180度回転させてモモコに正面を向けた。
「やれやれ……。背中だけでいいかと思ったけれど、正面を向かないと駄目なようだね」
「なぜLV10で倒れない!? しかも、力をさらに増幅させているのに!
このゲイムはLV10の上があるのかよ!?」
「さあね。ゲイムを作った創造主にでも聞いてみたら?」
(そうか! あの鎧だ!)
モモコは、鎧以外を狙うことにした。となると、首を刎ねるしかない。
だが、剣を水平に構えると見破られる。そこで、もう一度振り下ろすと見せかけて、横に振り切ることを考えた。
「なら、これでどうだ!」
モモコは剣を大きく振りかぶる。
「またかね? やるだけ無駄だよ」
「体力のことか? 体力が切れても、お前を倒せばこっちの勝ちだ!」
「いやいや、そうじゃなくって」
魔王がモモコを指さす。
「稲妻か!?」
「でもなくって、後ろがお留守だよ」
と、その時、モモコの背中にドンと何かが突き刺さった。
「…………」
モモコが下を向くと、腹から血の滴る剣が突き出ていた。
「な……な……」
モモコは、ゆっくりと後ろを振り向いた。
そこには、薄ら笑いを浮かべるテラが立っていた。
「な……ぜ……」
「だから、魔王様がおっしゃったでしょう? 後ろがお留守だって」
高笑いするテラの顔が滲んでいく中、モモコの視界が真っ暗になった。
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