92.魔王の部屋への隠し通路
雲に出来た渦の中から、巨大な何かが降りてきた。
ほぼ正方形の一枚岩。石を積み上げた壁。小さめの窓がはめ込まれた建物の壁。3つの大小の尖塔。
徐々に姿を現す天空の城ブラオバルツ。その外観は、中世の古城にそっくりだ。
城は、雲と地表との中間地点よりやや上のところで停止した。
モモコは頭をかきむしる。
「おい! どうやってあそこまで行けってんだよ! 空を飛べってか!?
……おおっ! そうだ! 俺は最強の力を持っているではないか!
この――チートの力でぶった切る!」
『あれは、さすがに無理』
剣の中のヨクトに駄目を出され、モモコはしょげてしまう。
しかし、テラは「大丈夫」と言ってモモコの肩をポンと叩いた。
「大丈夫!? 羽もないのに、あそこまで飛んで行けってか!?」
「ねえ。さっきまで大量の兵士がいたでしょう? あれって、普段は城の中で守っている兵士たちよ。それが、どこから降りてくると思う?」
「落下傘で降下とか? ドラゴンに乗ってくるとか?」
「らっかさんって何のことかわからないけど、とにかく、空を飛ばないわよ。
こっちに来て。兵士があそこから地上に移動するからくりを教えてあげる」
「そうか! テラって魔王のそばまで行ってる――ってことは、あの城まで行く道を知ってるんだ!」
「もちろん。
さあ、来て」
テラが小走りに駆けていくので、全員が彼女の後を追いかけた。
彼女は、剣圧で斬り倒された木々を越えて、荒れ地をさらに奥へと進んでいくと、フッと消えた。
下り坂があるわけでもない。崖の縁から飛び降りたわけでもない。もちろん、落とし穴に落ちたわけでもない。
モモコたちは警戒して立ち止まる。すると、テラがまたフッと現れて「ビックリしたでしょう?」と悪戯っぽく笑う。
まだキョトンとしているモモコたちに、テラが種明かしを始めた。
「ここが出入り口。空間がねじ曲げられていて、あそこの城の裏口につながっているの。
開けられるのは魔王軍の関係者のみで、それ以外は入れず、ここを通り過ぎてしまう。
でも、関係者がここを通ると、5秒間は誰でも通れるの。捕虜を連れて行くとき、関係者以外入れないと困るから。
さあ、私と一緒に来て」
モモコたちはテラの後ろにぴったりくっつくような列を作った。エスカは、モモコの脇に抱えられた。
「準備はいいかしら?」
しんがりを務めたガリカが「いいわ」と答える。モモコは「ちょっと待って」と言って、ここでいったんセーブした。
「みんな、よく聞いて。
中に入ったら、一切声を出さないで。
裏口から入るけど、兵士たちと戦うのを避けるため、入ってすぐ右にある隠し通路を通るから。
壁をすり抜けるけど、私と一緒にぴったりくっついてくれば大丈夫。
通路では、大きな足音を立てないで。
その隠し通路を抜けると正面と左に扉が2つある小部屋があって、正面が魔王の部屋の中へ通じる扉、左が廊下に出る扉。
廊下に出ると、右側に魔王の部屋の扉があって、そこに衛兵が二人立っている」
テラの一通りの説明が終わると、モモコが「じゃあ、正面の扉は俺、他は左の扉から出て、援軍が入って来られないようにしてくれ」と提案した。
「じゃあ、行くわよ」
テラを先頭に、一行はとも連れで秘密の出入り口の中へ吸い込まれた。
中に入ると、そこはかまぼこ形のトンネルで、ところどころ篝火が置かれていた。
テラは脇目も振らず、右の壁の中へ吸い込まれる。みなも、遅れまじと後を追った。
隠し通路は真っ暗闇だったが、テラが左手のひらに光の玉を出現させることで、周囲の様子が見えてきた。この通路は、岩を丸くくりぬいたようなトンネルだった。
抜き足差し足でトンネルを通っていくと、板張りの小部屋に出た。一行が全員入っただけで満員になる狭さだ。
モモコは正面の扉の前に立つ。テラはモモコに『その取っ手を引いて』とジェスチャーで示す。
テラは左の扉の前に立ち、他のメンバーは彼女の後ろに付いた。テラとモモコは互いの顔が見えないので、しんがりのガリカがモモコに目配せで突入のタイミングを知らせた。
モモコはエスカを降ろし、ここでセーブする。
そして深呼吸をし、もう一度大きく息を吸って、勢いよく扉を開いた。




