91.近くに忍び寄る敵
ドラゴンは、テラたちの頭上で旋回しながら、執拗に地上めがけて火炎を吐く。
だが、LV9のメンバーには何ら脅威ではない。
アルバンが結界を張って火炎を防ぐ。ガリカの疾風魔法やアンベールの雷撃魔法で着実にドラゴンへダメージを与えていく。
ついに力尽きたドラゴンが地上に落下し、弾みながら転がった。
ドラゴンの背中にまたがっている者はいなかった。だが、フェムトは確かに誰かが背中にいることを見破っている。なので、テラもアンベールも、アルバンもガリカも近づかなかった。
すると、しびれを切らしたのか、背中の皮を破って何者かが飛び出してきた。
華麗に着地したのは、鎧を着た狼頭の人物と牛頭の人物。どちらも2メートルは超える巨体で、がっしりした体つき。狼頭は幅が広い刀身の剣を、牛頭は棘の付いた棍棒を持っている。
テラは、二人が幹部であることを知っていた。心配したのはLV8からLV9以上にアップしているか否かだったが、幸いなことにLV8のままだった。これなら、格下である。
牛頭の方がテラを見て「ほう。どこかで見た顔だと思えば――」と言いながら棍棒を肩に担ぐ。
「裏切り者のテラじゃねえか。しかも、LV9ときた。これじゃ、ちょっとご挨拶ってわけにはいかねえな」
今度は狼頭の方がアンベールへ剣の切っ先を向け「貴様が勇者か?」と訊いた。
咄嗟のことで一瞬固まったアンベールだが、「ああ、そうだ」と言って後方のモモコに危害が及ばないように気遣った。
「LV9で城に乗り込むとはいい度胸。だが、これまでだ。覚悟しろ」
そう言って、切っ先をアンベールに向けたまま、その剣を両手で握って頭の右側に構えた。
「行くぞ!」
魔王の幹部たちは、テラとアンベールに突進した。
荒野で激しい戦いが繰り広げられる。
巨体の割に動きがすばしこいので、四人は苦戦した。それは、巨体の動きは鈍いという先入観に惑わされているからだ。
スキルは上回っているのに勝てないという焦りも、勝負の邪魔をする。
しかし、正気に戻ればLV9とLV8の差が勝負を分ける。
迷いと焦りから脱したテラたちは勢いづき、幹部たちは押され気味になった。
こうなると、本来のLV9の実力が発揮される。
牛頭の幹部は、テラの剣で心臓を貫かれた。狼頭の幹部は、アンベールの雷撃魔法で斃れた。
消えゆく二人を見て、四人は喜び合う。モモコも立ち上がってガッツポーズを取った。
すると、エスカがモモコを見上げながら「さっさとセーブした方がいい」とアドバイスした。
「いや、このまま城へ突入すれば、一気に片が付くから大丈夫」
「その自信はどこから来る? いいからセーブした方がいい」
「なんか、偉そうに……。それに、言葉遣いが……」
そこへアンベールがやってきた。
「何を話しているの?」
「ああ、アンベール。エスカがセーブしろなんて、珍しいことを言うんだ。しかも、言い方がいつもと違うし。
どういう風の吹き流しだと思う?」
「どういう風の吹き回しだろ?
いいじゃん、セーブすれば」
「だって……」
と、突然、エスカが笑い出した。
「ハハハッ。君はおめでたいね」
「なんだよ、急に」
すると、エスカが二本足で立ち上がり、ムクムクと大きくなって人の形になった。
それは、鎧を着た紫色の髪の青年だった。整った顔立ちでなかなかのハンサムである。
「君はここで勇者の旅も終わりだ。
永遠に眠り給え」
そう言って、モモコの額を右手で指さした青年は、ニヤリと笑う。
すると、指の先から稲妻が発射された。
直撃を受けたモモコは後方に吹き飛び、投げ出された人形のように地面へ転がった。
◇◇◆◆◇◇
「アルバン! 城はどこだ!?」
「雲の中だ」
「何だと!?」
モモコは空をぐるりと見渡したが、ハッとあることに気づいた。
(直前のセーブポイントに戻っている……。
そうだ、エスカはどこだ!?)
モモコがエスカを捜すと、フェムトの足下にいるのが見えた。
すると、エスカがプイッと後ろを向いて、ゆっくりと去って行く。モモコは「おい、待て!」と言ってエスカを追いかけて、首筋をつかんで持ち上げた。
「どこへ行く?」
「戦いが始まるんだろ? 危ないからそこの岩陰に避難しようかと――」
「離れるな」
「邪魔じゃないのか?」
「お前がよけーなことをするから、やり直してんだろが!」
「知るか!」
「それより、お前、本物だよな?」
「何を言う。俺は本物だぞ。イミテーションじゃないぞ」
そこへ、アルバンがやってきた。
「モモコ、さっきから何をしている?」
「ああ、ちょっとな。
何者かとすり替わったエスカに俺が殺され、セーブポイントに戻ったんで、このエスカが本物かどうかを試していたところ」
アルバンは目を丸くした。
「フェムト、ゼプト、エスカは、俺の周りから離れるな。
今にドラゴンが来る。幹部がドラゴンの背中に隠れている。
テラ、アンベール、アルバン、ガリカ。ドラゴンと幹部の退治をよろしく。
そして、ゼプト。俺の体力回復を頼む」
それから、モモコは雲を見上げ、剣を振り上げて叫んだ。
「やい、てめーら! さっさと降りてきやがれ! いざ尋常に勝負しろ!」
すると、雲を掻き分けて二匹の赤褐色のドラゴンが舞い降りてきた。
ここから後は、狼頭と牛頭の幹部が倒れるまで、再生ビデオでも観ているかのように同じ内容が繰り返された。
その間、モモコはフェムト、ゼプト、エスカを観察し続けた。しかし、特段は何も起こらなかった。
モモコが安堵しながら今度こそセーブしていると、風に乗ってブーンという羽音が聞こえてきた。音の方角を見ると、少し大きめの蜂が自分の方に向かって飛んで来る。
「おい、みんな! でっかい蜂だ! 危ねーぞ!」
モモコが立ち上がると、エスカが「蜂くらいで騒ぐな。小心者の勇者だな」とからかった。
ところが、フェムトは「あれは蜂じゃない! 人間と同じ生体反応がある!」と叫んでガリカの方へ駆け出した。ゼプトも彼女と一緒に避難する。
「畜生! 今度は蜂に化けやがったな!」
モモコはエスカを小脇に抱えながら、左手で剣をめちゃくちゃに振り回した。
すると、蜂はモモコを刺すのを諦めたらしく、空高く飛び去った。
「油断も隙もならないな。なんだ、あいつは」
と、突然、若い男の声が空に響き渡った。
「諸君。よくここまでたどり着いた。
しかも、敵は人や魔獣という先入観の裏を掻くため、部下を小動物に化けさせたが、よくぞ見破った」
モモコは拳を振り上げる。
「汚い手を使わずに、正々堂々と勝負しろ!」
「何を今更なことを。この戦いは、何でもありであることは承知の上ではなかったのか?」
「そんなこと、後から言うな! 今初めて聞いたぜ!」
「まあ、よい」
「よくねえ!!!」
「さあ、最後のゲイムを始めよう。
この城にたどり着けるかな?」
と、その時、雲に大きな渦が出現した。




