89.短期決戦
村を出たモモコたち一行は、これからどうするかで意見が二分し、立ち往生となった。
以前、全員がLV10になることを主張したモモコが、再び慎重論を展開する。
「だから、何があるかわからないから、五人がLV10にならないと城に乗り込まないって言ってんだろ!」
ところが、テラは速攻で魔王を倒すことを主張する。
「その時間がない。村人がまた襲われる。
魔王の幹部は二人いるけれど、どちらもLV8。それはこちらで倒して、城の中で魔王のいるところまで手引きするから、そのチートの力で一気に魔王を倒す方がいいわ」
「城の中に、警備兵とかウヨウヨいるんじゃないか?」
「全員、LV5もいかない雑魚ばかりよ。敵ではないわ」
「おい、アルバン。前回の勇者はどうだったんだよ?」
話の矛先を向けられたアルバンは、苦笑する。
「倒していないから参考にならぬ」
モモコも苦笑した。そして、肩をすくめ、天を仰ぐ。
「答えはない……ってことか」
そう言って、彼女はフェムトの方を向く。
「フェムト。探索魔法で、魔王軍を片っ端から見つけられないか? 見つかれば、それを次々と叩く」
「広範囲に探す必要があるでしょう? そんなの無理」
「ちくしょー。誰か空を飛べないかなぁ……」
全員が口をつぐむ。それがモモコの問いの答えとなった。
「時間との勝負かぁ……。村人を見捨てるわけにはいかないし」
モモコは頭をかきむしる。
「一か八か、やってみるか。
失敗したら、セーブポイントに戻ればいい」
モモコは、ここでいったんセーブをする。
だが、本心は『失敗したら、セーブポイントに戻ればいい』という部分には納得していなかった。それが、全力を出し切ることへの阻害要因になると思えるからだ。
でも、不安でたまらないから、こうでも言わないとやっていられない。内なる矛盾を意識しつつ、モモコは歩み出した。
その後のモモコたちは、天空の城までの道をひたすら急いだ。
経験値アップのための寄り道はせずに、道に立ち塞がる魔獣を葬り、遭遇する魔王軍を蹴散らす。そして、風のように走り去る。
モモコたちの行動はすでに魔王軍の監視下にあったが、その動きを止めるには至らなかった。
なにせ、兵士たちは稀にLV6がいるが、ほとんどはそれより低いレベル。モモコたちはLV7かLV8である。これでは、勝ち目がない。
兵士たちを大量に派遣しても、モモコらの経験値アップに使われるだけ。
五人がついにLV9にアップしたときに、初めて魔王の幹部の二人は自分たちの愚かさに気づく始末。
彼らは兵士の派遣を中止し、勇者を天空の城で待ち受ける作戦に出た。
モモコは、それまで雲霞のごとく現れた魔王軍の兵士が一人も現れなくなったことに、その意図を悟った。
全滅したのではなく、魔王の居城を守る側に回ったのだと。
「アルバン。城まであとどれくらいだ?」
「明日朝には到着する。かなり速いペースだ」
「よし。そろそろ暗くなってきたから、ここで野営だ。
交代で休息するぞ」
近くにあった低木に囲まれた空き地で、彼らは野営を始めた。
モモコとテラが先に食事をして、ぐっすりと眠った。
夜中に見張り番のアルバンとアンベールが、モモコとテラに交代した。
星空を見上げながら、モモコがテラに尋ねる。
「なあ。魔王って、どんな奴だ?」
「実は幹部以外は姿を見たことがないの。声なら聞いたことがある」
「野獣みたいな声か?」
「若い男の声」
「何? 美男子とか?」
「声だけでは何とも……」
「顔見てガッカリもあるからなぁ」
「めちゃくちゃ強いわよ」
「反則級?」
「かも」
「マジかよ……」
「でも、あそこで見せてもらったチートの力なら互角に戦える気がするわ」
「気がする、だよなぁ……」
「何? 戦えるって言い切ってもらいたい?」
「ああ。その気にさせてくれ」
「互角に戦えるわよ」
「ありがとな」
モモコの左手の拳がテラに突き出される。テラは右手の拳をそれにくっつけた。
「背中は任せた」
「任せられたわ」
二人は笑顔を交わした。




