87.3分間チート
「チートの力は、実際に持っている力を極度に増幅させるものなの」
五歳くらいに見えるヨクトだが、言葉遣いも使っている単語も年齢以上だ。舌足らずで甘えん坊なところは、皆無である。モモコは、もしかして見た目よりもずっと大人で、幼女に化けてごまかしているのではないかと感じていた。
「それって、火事場の馬鹿力?」
「よくわからないけど」
「どのくらい強くなるんだ?」
「おじさん、勇者?」
「ドキーッ! なんでわかるの?」
「もう、おじさんを認めるんだ」
「はいはい、胸の大きなおじさんでいいよ」
「さっき、悪い人をバッタバッタ倒したから、勇者かと思ったの」
「あったりー! 勇者だよ」
「LVは?」
「へへーん。なんと、LV8なのさ」
「なら、チートの力で、LV9になるはずよ。うまくいけば、さらに越えるかも」
「マ、マジでか!? LV9を越えるって、最高でLV10までしかないが」
「相性が良ければ、もしかしたら、そのLV10になるかも。
ところで、勇者なら剣を持っている?」
「もちろん」
モモコは左手から成長する剣を取り出す。
「わー、すごーい!」
「格好いいだろ?」
「この剣にチートの力をあげるから、これに宿っていい?」
「はいいいいいっ!? 宿るだって!?」
「うん」
そう言うと、ヨクトはいきなり煙になって、剣の中に吸い込まれていった。
「わわわっ!」
仰天したモモコが地面に剣を投げ出した。
『勇者が剣を投げたら駄目』
「剣がしゃべった!」
『拾って』
「はい! ゴメンナサイ!」
モモコは直ぐさま剣を拾い上げた。
『この剣、ものすごい力を持っている……。早くLVを最大にしないと、おじさん、この剣に食われるわよ』
ヨクトの言葉に、剣を持つモモコは心臓が跳ね上がった。
「なあ、アルバン。この子、お化け? 精霊? 何者?
それに、剣に食われるって、どういうことだよ!?
お前、なんか知ってて、隠してないか!?」
アルバンは困惑した表情で唸った。
「うーむ。モモコが勇者になってから、今までの勇者と違う展開になっておるから、よくわからん」
「ってことは、この子に会うのは初めて?」
「左様」
「チートも初めて」
「当然」
「ほー。意外に俺って、前人未踏の道をひた走る勇者って奴? 凄くねえ?」
『やっぱり、女のおじさんだ』
「この剣、その辺にぶっ刺して行っちゃおうかなぁ?」
『駄目駄目!』
「フフン。弱みを握ったぞ」
『そうそう。チートの力は、時間制限あるから』
「なんですとー!? いったい、何分?」
『3分間』
「Mなんとか星雲から来た奴みたいだな。3分経過したらどうなる?」
『私が剣から出て寝てしまうの』
「かわいい……」
『体力が回復したら、またチートの力を貸してあげる』
「おお! それは便利!
おい、ヨクト。俺たちの仲間にならないか?」
『……みんなを助けてくれたら、村長さんに聞いてみる』
「村長?」
『お父さんもお母さんも魔王軍に殺されて、一人だった私を育ててくれたの』
「そっか……。辛かっただろうなぁ……。
うん! 助ける! 任せろ!」
すると、テラもアンベールも賛同する。
ところが、アルバンは「みんな、安請け合いをしていいのか?」と眉をひそめた。モモコは、剣を一振りしてアルバンを睨み付けた。
「俺は採掘場にいるみんなを助ける。このヨクトからもらったチートの力でな。
いやなら、引き返していいぞ」
しばしの睨み合いの後、アルバンは「仕方あるまい」と言いながらため息をついた。




