86.謎の女の子ヨクト
その後、魔獣が多数生息する森に足を踏み入れたモモコたちは、次々と襲ってくる魔獣を倒しながら着実に経験値を上げていった。
先にLV8に到達したのは、ガリカとアンベールだった。なんと言っても、魔王軍兵士約五十人を一度に倒して経験値をグッと上げたのが大きい。
その次にLV8になったのは、アルバン。ずっとLV7で足踏み状態だったが、戦いに本格的に参入して、なんとか達成出来た。
モモコとテラは互いに良きライバルのように競い合い、あと少しでLV8に到達するところまで行った。
だが、ここでモモコはあることに気づく。フェムトとゼプトとエスカの経験値があまり伸びていないのだ
「なあ、アルバン。なんだか、LV7になってから、経験値の上がり方に個人差がねえか?」
「当然だ。LV7からは戦った者とそうでない者との差が付いていくのだ」
「なにいいいいいっ!? マジかよ!? 聞いてねーぞ、そんなこと!」
「聞かれてもいないが」
確かに、フェムトは探索魔法を使って魔獣を捜しだし、みなを導くだけ。ゼプトは、治療や回復が専門。エスカに至っては、ちょっとは爪を立てて参加する程度でほとんど何もしていない。
これでは、差が出るのも当然である。
「LV7になると、勇者のLVがアップしても自動でLV8とかにアップしないことは聞いていたが、てっきり、勇者の経験値がアップすれば、LV7の奴は何もしなくても経験値が少しずつアップすると思っていたが」
「であれば、とっくにLV10くらい行っている」
言われてみればそうだ。アルバンは、あれから大して戦っていない。
彼は、モモコがLV3の時にLV7になったのだが、それがモモコに追いつかれ、今やっとLV8になったのだから。
魔獣を狩ることに夢中になっていて、結果的に二人と一匹を置き去りにしていたことをモモコは猛省する。
「戦いに参加させなくて悪かった。
なあ。フェムトもゼプトも、剣を取って戦ってくれないか?」
「「無理」」
「エスカは?」
「無理に決まってんだろ。猫は剣を持てんぞ。爪でひっかくのは出来るが」
ここでガリカが会話に割り込んできた。
「モモコは無理を言わないの。メンバーにはそれぞれ役目があるから、全員が同じように戦ってLVを上げるというのは諦めなさい」
「でも、魔王と戦うには全員がLV10じゃないと――」
「それは理想だけれど、彼女たちがLV10になるまで、後どれくらいかかると思うの?
日が暮れるなんてものじゃないわよ」
「うーん……。納得いかん」
「じゃ、どうするの?」
「…………」
「どうするの!?」
モモコは頭をかきむしる。
「……仕方ない! 五人がLV10になったら魔王のところへ乗り込む!」
ここでセーブしたモモコは、さらに森の奥へと入っていった。
魔獣を求めてあちこち歩いていると、遠くの方でガヤガヤと人の声が聞こえてきた。
モモコは、仲間へ隠れるようにジェスチャーで指示する。みなは、太い木の裏側や茂みに隠れた。
徐々に見えてきたのは、魔王軍の兵士たちだった。五人の頭が灌木の間から見え隠れしている。
彼らは少しずつモモコたちの方へ近づいてきたが、途中で立ち止まった。
「採掘場から逃げ出したのは、この子供だけじゃないだろ? 他の奴らは?」
どうやら子供が兵士に捕らわれているようだ。
「見つけ次第殺した」
「馬鹿野郎! それじゃ何人逃げたかわからんだろうが!」
「そいつに聞いてみろよ」
「おい、こら! 何人逃げたか、白状しろ!」
「…………」
「言わないと、こうしてやる!」
モモコとテラは目配せをして二手に分かれ、兵士たちの背後の茂みに回った。
ちょうど三人の兵士が、銃を振り上げて振り下ろす動作を繰り返している。どうやら、銃座で子供を殴っているらしい。怒りに燃えたモモコは、剣を振りかぶって茂みから飛び出した。同時に、テラも飛び出す。
彼女たちは、あっという間に兵士を全員斬り捨てた。
この時、モモコの前に、電子音とともにメッセージ画面が表示された。
『>モモコがLV8になりました』
『>テラがLV8になりました』
だが、モモコはその表示に喜ぶことなく、ぼろ切れのような服を着て倒れている金髪の幼女を抱き起こした。
「おい、大丈夫か!?」
体を揺すられた幼女は、閉じていた瞼をソッと開けた。彼女の金色に輝く双眸は、吸い込まれそうになるほど美しい。年齢は五歳くらいか。
ゼプトの治癒魔法により、切れた唇や、内出血した頬がみるみる回復していった。安堵の胸をなで下ろすモモコだが、兵士の横暴を思い出して怒りを新たにする。
「ひでえことをしやがる! しかも、こんな幼子まで魔石の採掘をさせているなんて! 絶対に許さん!」
モモコは、しゃがみ込んで幼女に優しく声をかけた。
「怖かっただろう? もう大丈夫だ。俺、じゃなくって、お姉ちゃんたちが助けたから」
幼女は不安げな表情で辺りを窺っていたが、安心したらしくニコッと笑った。
「ありがとう、女のおじちゃん」
「もしもしー。面白いこと言いましゅねぇ。おかまじゃありましぇんよー」
「だって、言葉遣いが女の人じゃないんだもん」
「これには、海よりもふかーい訳があってでしゅねぇ」
「でも、本当は男なんでしょ?」
「ゲホゲホッ。それより、お嬢ちゃんのお名前は?」
「ヨクト。おじさんは?」
「そこから離れようね。こんな胸の大きいおじさんはいないよ。お姉さんはモモコ」
「モモコ? もしかしてお尋ね者?」
「シー! 声がでかい!」
「モモコの方がでかい」
「そんなに有名?」
「町の全員が知っているよ」
「あちゃー。町に寄れないなぁ。屋根の下で寝たいのに。
ところで、この近くに魔石の採掘場でもあるの?」
「うん。この森を抜けたところに」
「じゃあ――」
と言いながら、モモコはテラ、アルバン、ガリカ、アンベールの順に顔色を窺う。だが、四人とも首を横に振った。
「モモコ。もしかして、みんなを助けてくれるの?」
「うーん。みんなを助けたいけど、一人じゃ無理かな」
「大丈夫よ。助けてくれたお礼に、チートの力をあげるから」
突然の単語に、モモコは空耳かと思った。
「ちっとの力? 少し力をくれるってこと?」
「おじさん、耳遠い。チート」
モモコはアンベールを見上げて目をぱちくりする。
「チートって、あれだよな」
「たぶん」
モモコは再びヨクトに目を向ける。
「そのチートの力って何?」
「そんなことも知らないの?
じゃあ、教えてあげる」
ヨクトは上半身を起こしてモモコを見つめた。




