83.レベル差を跳ね返す勝負
剣を構えたグラキリスに対して、モモコは剣も持たずに肩をすくめる。
「おいおい。後ろに光線銃を持った兵士をたくさん従えて勝負かよ?
魔王軍の隊長さんの名が泣くねぇ。
一対一で勝負しないのかい?」
「一対一?」
「そう。剣で勝負だ。
当然、魔法を使った直接攻撃は行わない。
さらに、そっちは兵士に手出しをさせない。こっちも、仲間に手出しをさせない。
どうだい、この条件で?
まさか、断るなんて言わないよな?」
「どこで勝負をすると?」
「ここで」
モモコは左手の親指を下に向ける。
「勝負に魔法は使わないって言ったな?」
「ああ。雷撃魔法などの直接攻撃は、なしだ」
そう言いながら、モモコはさりげなくあることをしたのだが、グラキリスには気づかれなかった。
「フン。勝つ自信はあるのか?」
「当然だ」
グラキリスは、ムッとした顔をしてモモコを凝視する。
すると、一瞬、驚いた顔を見せたが、すぐに口元がほころんだ。
「なるほど、そんなLVのくせに偉そうな口を利くとは、LV7の恐ろしさを知らぬと見える。剣で勝負というなら、相手になろう」
グラキリスの命令で、兵士たちは10メートル以上後方に下がった。一方、アンベールも同じくらい後ろに離れた。
モモコは、グラキリスのスキルを調べる。
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ステイタス
職業:剣士
LV:7
経験:675 知能:670 攻撃:685 敏捷:670
体力:525 耐久:655 魔力:650
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体力が低いのは一仕事でもしてきたのだろうか。それを除けば、いずれのスキルも半ばを超えている。
この高スキル者を相手にする場合、LV7のなりたてでも厳しい。それなのに、モモコはLV6になったばかりなのだ。
これでは結果が見えている。
だが、唯一、大差が付いていないのは体力。勝負をするなら、ここに賭けるしかない。
つまり、レベル差のある相手には、自分がダメージを極力受けずに相手の体力を消耗させて勝利するしかないのだ。
モモコが勝利への道筋を立てていると、それが長いと感じるグラキリスがしびれを切らして言う。
「おい。早くしろ! 素手で戦うのか? さっさと剣を出せ」
「お、おお……。うっかりしていた」
「嘘を言え。ビビったのだろう?」
「うっかりしたって言ってんだろうが、ボケ」
モモコは左手から、成長する剣を取り出した。そして、それを両手で握って中段の構えを取る。
「フン。その程度のスキルでは、空元気としか思えん」
「何とでも言え」
「しかも、へっぴり腰だぞ」
「うるせー! かかってこいや!」
「行くぞ!」
グラキリスは剣を大きく振りかぶる。
地面を蹴る。
あっという間に距離を詰める。
キイイイイイン!
飛び散る火花。乾いた金属音。
激しいつばぜり合い。
両者一歩も譲らず。
グラキリスの体重が剣に乗る。
押されるモモコ。
剣を押し返す。
グラキリスが後ろに下がり、剣が離れる。
すかさず、押した剣で袈裟懸けに振り下ろす。
そこに押された剣が迎え撃つ。
ギイイン!
モモコの剣が弾かれる。
間髪入れず、弾いたグラキリスの剣が横に振られる。
ギン!
モモコは、その動きを剣で止める。
また押し返す。
目にも止まらぬ二人の剣戟は続く。
空中に描かれる無数の銀閃。
悲鳴のような金属音。
予想に反して、両者は互角。
グラキリスに焦りの色が浮かんだ。額に脂汗が滲む。唇を強く噛む。
「ええい! 倒れろおおおおおっ!」
ようやく全力を解放する彼女は、恐ろしい速さで剣を振り、モモコを圧倒し始めた。
モモコが押されて、苦悶の表情を浮かべる。
突然、モモコが咆哮する。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
同時に、彼女の全身が炎に包まれた。
垂れ下がるツインテールが、上昇する熱気で宙に浮く。
目が赤く燃え、憤怒の形相になる。
「なにぃ!?」
グラキリスが一瞬怯んだ。
モモコの剣の動きが加速する。
袈裟懸けに何度も何度も。それは、横向きの8の字を描くかのように。
グラキリスの剣はそれを受けることしかできない。
衝撃で手のひらが痺れる。柄を握れなくなる。
ついに、グラキリスの手から離れた剣が宙を飛んだ。
「――っ!!」
彼女は素速く後ろに跳んで、左手からもう一つの剣を取りだした。
再び始まる壮絶な剣戟。
グラキリスは自分と互角に戦うモモコが信じられない。
魔法を使っているのかも知れないが、直接攻撃している訳ではないので、不正を咎められない。
だが、体力が消耗している。それはモモコも同じ。
――今こそ、決着をつける時。
二人は剣を大きく横に振りかぶり、同時に素速く振った。
キイイイイイン!
二本の剣が互いを弾き返し、彼女らの手から離れて宙を舞う。
今度は、モモコが拳を振りかぶってグラキリスに突進した。
グラキリスも拳を構える。
懐に飛び込むモモコ。
その頭上で突き出されるグラキリスのストレートパンチ。
肉と肉がぶつかり合う鈍い音。
ズシリとくる拳がみぞおちに炸裂した。
蹌踉めくグラキリスの頭は、間髪入れず繰り出すモモコの左右のフックで揺れる。
反撃の拳を突き出す隙を与えない。
グラキリスはサンドバッグ状態と化す。
「倒れろおおおおおっ!!」
モモコが体重を乗せたストレートパンチで、グラキリスの顔が歪む。
強烈な一発を受けて白目を剥いた彼女は、ゆっくりと仰向けに倒れた。
地面の砂を巻き上げ、二度弾んで大の字になった彼女は、それから動かなくなった。
素速い動きを表現するため、意図的に短い文にしてみました。




