82.もぬけの殻
モモコはテラに改めて仲間を紹介する。テラは、女性が多いパーティが珍しいらしく、この世界で出会う男ども、特に勇者の悪口ばかりを披露してみなを笑わせていた。
話を合わせるモモコは、汗だくだ。それをアンベールが苦笑いして見ながら、同じ表情を別の意味でテラに向けていた。
しばらく歩いて行くと、山がいくつも見えてきた。道はその山と山との間に吸い込まれていく。
テラが「あそこに村があるわ」と指さす先に、木造の小屋が点在しているのが見えてきた。両側が高い山に囲まれていて、山間の小さな村といった感じである。
緑はあることにはあるが、それよりも岩が多い。痩せた土地で農作物を栽培しながら暮らしているようだ。
「あの村が魔王軍に占拠されている。あそこに居座れば誰も通れない、絶好の位置よ」
モモコは「なるほどね」と言いながら村の様子をジッと見つめる。
「でも、誰もいないみたいだけど」
「おかしい。ちょっと、偵察に行ってくる」
「テラ。それではいかにも怪しいから、みんなで旅人のふりをして近づいてみたらどうかな?」
モモコの発案で、全員が速度を落とさず村に近づいていった。
フェムトがさりげなく探索魔法で生体反応を調べる。
ところが、不思議なことに、付近にある家にはその反応がないという。つまり、全てがもぬけの殻なのだ。
「この村は、どこまで続いている?」
「あそこで道が右へ急カーブを描いて山の裏に回っているけれど、そこが村の外れ」
モモコは「フーン」と言って腕を組んだ。
「敵は逃げたんじゃない? あるいは、あの急カーブの先で山の裏側に隠れているとか」
ここでモモコはいったんセーブし、全員を集めてそれぞれの配置を指示した。すると、アルバン、ガリカ、フェムト、ゼプト、そしてエスカは各所に散り、家や岩の陰に隠れた。
それからモモコはアンベールと一緒に道を進み、カーブにさしかかる。
「来やがったぜ」
「ああ」
どこで行動を監視していたのか、右の山の裏側から魔王軍の兵士がゾロゾロと現れ、二人の行く手を塞いだ。その数、総勢五十。
モモコはニヤッと笑って「全員を俺一人が倒せば、楽勝にレベルアップだな」と言う。
しかし、アンベールは「相手は光線銃という飛び道具を持っているから、モモコ一人では不可能」と忠告する。
「だから、アンベールのド派手な魔法が必要なんだよ。やつらを雷の魔法とかで半分に減らせば、残りはオーバークロックで仕留める」
「なるほど」
「まずは、魔法を頼んだぜ」
「前回の汚名を雪ぐ、いい機会だな」
二人は身構えて、戦闘態勢に入った。
ところが、魔王軍の兵士たちが作る人垣が真ん中から割れて、後ろから一人の人物が現れた。
その人物は黒い軍帽を目深に被り、黒い軍服を着た美男子のようだ。黒髪はベリーショートで、鼻筋が通っている。
軍服の上から黒マントを羽織い、幅の広い詰め襟に金色のボタン。左胸に勲章のようなものをぶら下げている。
おっと、胸には膨らみがあるではないか。
彼女が帽子の庇を挙げた。
その見覚えのある顔に、モモコとアンベールは、真っ青になって後ずさりした。
そう。あの男装の麗人、LV7のグラキリスである。
彼女は、低い声で笑いながら言う。
「まさかここで会うとは思ってもみなかったであろう?
……ほほう。脱走した時はLV2だったのに、もうLV6まで来たか」
と、その時、グラキリスの右腕からサーベルのような剣が出現した。
「だが、ここは通さぬ。
一瞬で片をつけてやる」
彼女は、剣の柄をしっかりと握った。




