78.女同士の裸の付き合い
「そうだ。成長する剣はどうなっているかな?」
モモコは左手から剣を取り出した。
と、突然、全裸の女がサーベルを持って温泉の中から走ってくる姿を思い出した。
背中を切りつけられた。小生意気な、とも言われた。それから二言三言交わした後の記憶がない。
間違いない。
自分は殺されたのだ。
「……そうか。だから、セーブポイントに戻ったんだ」
温泉へ向かうウキウキ気分は、一瞬にして吹き飛ぶ。
背筋に氷のように冷たいものが走り、ブルッと震えた後、足が動かなくなった。
女の美しい裸体と冷酷な声が、頭の中を駆け巡る。
「何をしている?」
「うわあっ!」
後ろからアルバンに声をかけられたモモコは、飛び上がって驚いた。
「何を震えておる? ……さては」
「そうさ。温泉からセーブポイントへ戻されたのさ」
アルバンの目が険しくなる。
「誰にやられた?」
「温泉に浸かっていた女」
「そいつと喧嘩したのか?」
「乳がでかいとかの言い争いじゃないぞ」
「そんなことは尋ねておらん」
「追い剥ぎと勘違いされた。そしたら、いきなりサーベルを振り回して来やがって、斬りつけられた。
……確か、元魔王軍と同じLVとは小生意気な、とか何とか言っていた」
「元魔王軍!? 元幹部ではないな? 元幹部ならグラキリスになるが」
「グラキリス? ああ、あの町にいた軍服の女?
いや、あいつと顔も声も違う。
しかも、グラキリスは黒髪。温泉の女は、紫の髪をしていた」
「紫の髪で元魔王軍……。そうか、そいつはLV6の女だ。今は紫のドレスを着ているはず」
「何? 魔王軍にそんな強い奴がいたのか?」
「魔王軍の連中は、ピンからキリまでいる。LV1からLV6までな。だが、LV6は片手もいなかった。大ベテランだ」
「LV7以上はいないのか?」
「それ以上は、幹部になる」
「なるほど。グラキリスは幹部の中の最低ランクか」
「今は幹部ではなく元幹部だがな」
モモコは腕組みをして唸った。
「うーむ。すぐそばで、LV6の中ボスが温泉に浸かっている。ってことは、体力はMAXに回復している。
これは、かなりヤバくないか?」
すると、アルバンはニヤッと笑って「いつものことだろう」と言う。
「まあ、そりゃそうだが……。
ん? 待てよ。剣を見せたから追い剥ぎに間違われたんだよな?
だったら、剣を持たずに温泉に行けば、もしかしたら大丈夫じゃないか?」
すると、アンベールがやってきて会話に加わった。
「大丈夫って、それは単に疑われないだけの話。それからどうやってその女を倒す?」
モモコは、さらに唸って考え込む。
「スキルを見る余裕はなかったから、ちょっくら偵察に行ってくるわ。それから、対策を考える」
「おいおい、覗き見でもしに行くのか、上等兵?」
「大佐殿。裸の付き合いをするふりをして、女に近づくであります」
そう言うモモコは、本当はアンベール。アンベールの方がモモコなのだ。
体が入れ替わっているモモコとアンベールは、互いに異性の体に馴染んでいるだけでなく、すっかり自分は逆の異性であることに違和感を抱いていなかった。
言葉遣い以外は、完全にその異性になりきっているのだ。
「わかった。しっかりやれよ、上等兵」
「はっ! 行って参ります!」
苦笑するアンベールに敬礼したモモコは、剣を左手に収めて温泉へと向かった。
(大丈夫かなぁ……。見た目は女だけど中身は男だなんて、ぼろを出さないよなぁ……)
モモコを見送るアンベールは、気が気ではなかった。




