76.力を合わせてレベルアップ
四人と一匹が谷間に足を踏み入れると、岩陰に隠れていた黒い塊が一斉に姿を現した。
「エスカ、隠れろ!」
「合点だ」
風のように走るエスカは、モモコの指示通り、近くの岩陰に身を潜めた。
魔獣は、谷間へ突進して一行の行く手に立ち塞がる。一部は、アンベールの背後に回り、四人は谷間の入り口で囲まれる形となった。
魔獣は、総勢八匹。
全身が黒い毛で覆われ、肌も黒い。身長は人の背丈と同じで、筋肉が見事に盛り上がり、かなり猫背。とにかく腕が長いのが特徴で、立っていても楽勝なほど拳が地面に付く。
体つきからはゴリラに見えるが、顔はどことなくイノシシだ。上向きの白くて長い牙が二本、カーブを描いている。時折口を開けて威嚇するが、無数の鋭い歯がティラノサウルスのそれに見えてくる。
モモコは、成長する剣をゆっくりと取り出す。賞金稼ぎの女を倒してLV5後半のスキルを得たから少しは成長したと思いきや、見た目は何も変わらない。
「なんだ、こいつ。これ以上成長しない剣かよ。
畜生、騙されたぜ!」
吐き捨てるようにモモコは言うが、今は信頼できる武器がこれしかない。とにかく、左手で剣を構える。
ところが、魔獣は動こうとしない。警戒しているのか、誘っているのかは表情からは不明だ。
「来ねーなら、こっちから行くぜ!」
モモコは剣を振りかぶって、正面の魔獣へ突進した。
ところが、その魔獣が後ろへ逃げていく。「こら、逃げるな!」とモモコが追うが、それは罠だった。
ある程度逃げた魔獣が立ち止まって振り返った。モモコも立ち止まる。ただ、その時はすでに四匹に囲まれた形になった。
後ろを見ると、アンベールとフェムトとゼプトも四匹に囲まれている。二手に分断されたのだ。
「だから入り口で立ち塞がったんだな! 敵ながら褒めてやるぜ!」
モモコは形勢逆転を狙い、アンベールたちの方へ向いて地面を蹴って飛び出す。
狙いは正面にいる一匹の魔獣。体のどこでもいい。まずは負傷させて動きを封じる。
そして、余勢を駆って囲まれた輪から抜け出し、背を向けている魔獣に剣を突き刺し、三人を救出する。
だが、モモコが思い描いた筋書きの通りには行かなかった。
魔獣が長い腕を勢いよく振り回すのだ。これで、砂地に滑りながら踏みとどまる。
今度は二匹の間をすり抜けようとしたが、距離を詰めた二匹が通せん坊をするように長い腕を振り回すので近づけない。
一方、フェムトは突き出す槍を魔獣の腕に防がれている。さらに、頼みのアンベールは、雷撃魔法をお見舞いしたつもりが、魔獣に避けられている。
「やっべ……。手詰まりだ」
モモコを囲む魔獣は、長い腕をぶらぶらさせながら、じわじわと包囲網を狭めていく。
このまま四匹が互いに手を結べる距離まで近づかれたら、完全にアウトだ。チャンスは今しかない。
モモコは、二匹の間をすり抜けようと突進する。当然、二匹が互いに接近し、二匹とも腕を振りかぶる。
ところが、これはフェイクだった。
地面を蹴ったモモコは左方向へ走り、二匹が接近したことによって出来た左側の大きな間隙に突進した。そして砂地を利用してスライディングする。
虚を突かれた魔獣は、獲物がすり抜けていくのを呆然と見ていた。
これで輪を抜けたモモコは素速く立ち上がり、包囲していた四匹は無視して、フェムトの方を向いている魔獣の背中へ剣を突き刺す。悲鳴を上げた魔獣は後ろ向きに倒れ、大量の光の粒となって消えた。
モモコは脇目も振らず、その右隣の魔獣を襲う。残りの二匹は、モモコの動きに気を取られていたので、その隙にフェムトが槍で、アンベールは突風魔法で次々と仕留めた。
一気に形成が逆転した四人は、斜面が背になる位置へ素速く移動する。これで囲まれる心配がないからだ。
四匹の魔獣が、警戒しながらゆっくりと近づいてくる。この隙に、モモコはステイタス画面を見た。
経験値が460から480になっている。四匹で20アップする。ならば、今いる四匹を仕留めれば499を越えてLV6になる。一方、体力は200でまだまだ余裕だ。
「よし! 俺が一気に――」
「待て、モモコ!」
アンベールが、はやるモモコを制する。
「一人で何でもやるな! ここは、任せろ!」
「そうよ! 守られてばっかりじゃ、腕がなまるしね!」
フェムトは、槍を頭の上で何度も回転させる。彼女の動きが曲芸師のように軽やかなので、もしかして本当は槍使いなのではと思えてきたモモコは、任せてみようという気になった。
「いいぜ。二人とも無理すんなよ」
「じゃあ、体力はまだ余っているから、50消費する爆裂魔法をド派手に使わせてもらうよ」
「その後で、槍でとどめを刺すから」
アンベールが右手を突き出し、フェムトは槍を構えて、二人は歩み出る。魔獣は、彼らの気迫に押されたのか、急に後ずさりを始めた。
まずアンベールが詠唱すると、右端の魔獣の足下で輝く魔方陣が広がり、大音響とともに土砂が吹き上げた。土砂とともに吹き飛ばされた魔獣は、光の粒をまき散らして消えていく。
続けて左隣の魔獣も、同じやり方で葬った。
ところが、残りの二匹は後方へ逃走する。アンベールは2回魔法を繰り出したが、動く的は狙いが定まらず、一匹が爆風で転んだ程度だった。
そこへフェムトが槍でとどめを刺し、転がっていた魔獣は光ともに消え失せた。
残るは一匹。こいつを倒せばLV6にアップする。
アンベールが狙い澄まして爆裂魔法を2回繰り出すが、右に左にとジグザグに動く魔獣には当たらない。この6回連続の爆裂魔法で体力を300減らした彼は、その前の雷撃魔法で50、突風魔法で20減らしているので、390あったのが残りは20。これでは大技はおろか、突風魔法も繰り出せない。
すると、フェムトが韋駄天のごとく駆け出した。それを見たモモコも、彼女の後を追う。
と、その時、魔獣の前にエスカが飛び出した。それまでジグザグに動いていた魔獣が、エスカを見てまっすぐに走り出す。
これはチャンスとばかり、フェムトはまっすぐに逃げる魔獣へ槍を投げた。これが魔獣の足に命中する。
動きが鈍ったところで、モモコが魔獣に飛び乗り、首に剣を突き刺した。
悲鳴が谷間にこだまする中、大量の光の粒が空中に消えていく。それを見つめるモモコの前に、電子音とともにメッセージ画面が表示された。
『>モモコがLV6になりました』
『>アンベールがLV6になりました』
『>エスカがLV6になりました』
『>フェムトがLV6になりました』
『>ゼプトがLV6になりました』
モモコのところへ三人が走り寄る。エスカも駆けつける。
四人と一匹がレベルアップを大いに喜んでいるところへ、アルバンとガリカが笑顔でやってきた。
「どうだい! アルバン! 俺たち全員でやっつけたぜ!
しかも、ギリギリでレベルアップ!」
「やれば出来るではないか」
「――ったりめーよ。
これで念願のLV6だぜ! 今にお前のLV7に追いついて、それも追い越してやる! 見てろよな!」
「楽しみにしているぞ」
親指を立てるモモコに、アルバンは満足そうな笑顔を見せた。




