75.メンバーの選抜
洞窟の外は、すでに雨が上がっていた。しかし、薄墨色の雲は低く垂れ込め、風が時折唸るように吹く。
いつ、また雨に降られるかも知れないので、一行は先を急いだ。
すると、岩陰から黒い塊のようなものが見え隠れする。色からして賞金を狙う村民でも魔王軍の兵士でもない。おそらく、魔獣だ。
モモコはアンベールにしんがりを務めさせ、フェムトとゼプトを中心にして右にアルバン、左にガリカを配置し、自分は先頭に立つ。ちょうど、菱形のような陣形だ。
この隊形を保ったまま荒れ地を歩いて行くが、魔獣はチラッと姿を見せるも襲ってくる気配がない。どうやら、モモコたちの動きを監視しているようだ。
その数は、少なくとも5匹と思われる。そいつらに周囲を囲まれた状態で前へ進んでいる。
アルバンの話では、足場が悪いので、ここで戦いに持ち込むのは不利。それは魔獣も同じで、だから襲ってこないのだという。
魔獣とともに、行けども行けども岩だらけで起伏のある土地を歩く。アルバンの指示で進む道は、とうに道ではなくなっていて、誰も踏み固めていないし、道しるべもない。正に道なき道。
そろそろ無言が耐えられなくなってきた頃、アルバンが声を上げた。
「この先に谷間がある。そこは平らなので戦うには都合がよい」
モモコは額の汗を拭う。
「ってことは、奴らも都合がいいってことだな」
「そうだ」
と、その時、アルバンとガリカが立ち止まった。モモコがアルバンたちを振り返る。
「おいおい、お前ら休憩か?」
「かまわず行け」
「冗談だろ。そこにいると、食われるぞ」
「食われない。狙いは勇者だ」
モモコは立ち止まって腕組みをした。
「なーるほど。俺たち四人に戦わせて、自分自身でレベルアップする。お前らはもうレベルアップできないからな。
そのシナリオ通りになるか見届ける。
そうだろ?」
「否定も肯定もしない」
「それが肯定だろうが!
ちっ! 今まさにこの小説を書いている作者の筋書き通りになんか動いてやるもんか!」
すると、アンベールが「それは無理だと思うが」とツッコミを入れた。
モモコとアルバンが睨み合う。だが、睨み合いに負けたモモコは、また舌打ちをしてアルバンに背中を向けた。
「フェムト、ゼプト、アンベール! 行くぜ!」
岩だらけの起伏を二つ越えた四人は、谷間を目にした。そこは草木は生えていないが、確かに地面は平らだ。
モモコは立ち止まって、自分のステイタス画面を見た。体力が110に減っている。
「なあ、ゼプト」
モモコはゼプトの方へ振り返って言う。
「俺の体力を110から250とかに出来るか? お前の魔力を温存したいから、満タンにしなくていい」
すると、ゼプトは「ぴったりプラス140なんて微妙な数字は無理。でも、近い数字になら止められる」と頼もしい答えを返してきた。
「よし。それからフェムト」
急にモモコに顔を向けられたフェムトはドギマギする。
「は、はいいいいいっ!?」
「お前の魔力も温存したい。お前は探索魔法とかバスタオルを出す魔法は使えるのはわかるが――」
「なんか、偏って聞こえるんですが」
「それしか見せてもらってないから、仕方ねーだろ。
とにかく、攻撃魔法があっても使うな。
代わりに武器とか使えるか?」
「多少」
「なら、斧と棍棒のどっちがいい?」
「槍の方がいい」
「なんで選択肢にないものを言う!?
……一応、あるけどよ」
「だって、槍の方が軽いから」
「じゃあ、……ほれ」
槍を左手から出したモモコは、フェムトに手渡した。その槍は、フェムトの背丈ほどあるが、彼女は軽々とそれを振り回した。サイズに似合わず、意外に軽いようだ。
「フェムト、かっけー」
「へへーん」
モモコは、フェムトに喝采を送る。
「さてと。そして、大佐殿」
モモコに顔を向けられたアンベールは、目をぱちくりして自分の鼻を指さす。
「大佐殿は、思う存分、魔法で暴れてください」
「承知した、上等兵」
すると、槍を杖代わりにしたフェムトが二人の間に入ってきた。
「あのー、アルバンさんと同じく、私もその大佐とか上等兵とかが気になるんですが」
「お前も階級が欲しいか? なら、二等兵を命ずる」
「やだ。大佐がいい」
「新兵が何を言う! さあ、行くぞ、フェムト二等兵!」
「ケチ!」
その後、ゼプトの回復魔法で体力を240まで回復したモモコは、250まで達しなかったことを謝るゼプトに「気にするな」と声を掛けて、いったんセーブをした。
そして、前進を再開。
一行が歩みを開始すると、周囲の岩陰に隠れていた魔獣たちも動き始めた。




