73.エスカの捨て身
確かに、この落とし穴は、やり方としては相手にとって卑怯かも知れない。
だが、この女に何度殺されたことか。アンベールも二回殺されている。
そのたびにセーブポイントに戻り、時にはどうしてもうまくいかないので、大きく過去に戻った時もあった。
そんな憎き相手だ。宿敵なのだ。
今、そいつから勝利を得ようとしている。
相手がなんと言おうと、最終的にはこれが正しい攻め方だったはず。
ところが、ぶら下がるモモコの体を支えている右手が痺れてきた。左手には成長する剣があるので、片手でぶら下がっている状態。うっかり右手の力を抜こうものなら、奈落の底へ真っ逆さまだ。
本当なら、とうに女の方が落下しているはず。
ところが、その女は体が軽いのか、不思議なほど耐えている。
今度は自分が危ない。
(どうする? ……かなり、右手がヤバい。……本を抜いて、床を閉じるか?)
黒い本へ左手が伸びる。
すると、女が笑い出した。
「その本が落とし穴の仕掛けかいな! わかったでぇ!
はよ、抜かんかい!」
黒い本の秘密がバレた。これを奪われたら終わりだ。
モモコは大いに焦ると、右腕全体が伸びきった。
(もう限界だあ!)
と、その時、書棚がガタガタと音を立てて動き始めた。その音に振り向いた女が笑い出す。
「隠し部屋が開いたで! ちゅうことは、そこに仲間がおるんやな!」
業を煮やしたアルバンが、よりによって助けに入るため開けたのか。でも、これで女に全てがバレた。
モモコが絶望的になったその時、「覚悟しろ!」と声がして白い何かが宙を飛んだ。
それは、白猫エスカだった。
「ひっ!!」
悲鳴を上げる女に、エスカが飛びついた。すると、「あああ……」と力が抜けるような声を上げて、女の体がダランとなり、そのまま穴へ吸い込まれるように落下した。
同時にエスカは、女が突き刺した剣にぶら下がる。
「早く、床を閉じろ!」
限界寸前のモモコは、成長する剣を左手の中へしまって、その左手で黒い本を抜く。
床が閉まり始めた。
その閉まる速度のもどかしさ。
もう少しで閉まるというときに、力尽きたモモコは落下し、うつ伏せの体勢で斜めの床を滑っていく。
「モモコ!」
エスカの声に、最後の力を振り絞って両手両足で踏ん張るモモコだが、力が出ないので滑るばかりだ。
「モモコー!!」
曲げた右足で踏ん張るも、伸びきった左足が穴から落ちそうになる。
だが、左足をグイッと曲げて持ち上げたちょうどその時、膝頭あたりで床がピシャリと閉じた。




