70.違うルートの選択
ガヤガヤと聞こえる声が大きくなってきた。おそらく、魔王軍が洞窟の中へ入ってきたのだろう。
すると、急に風を切るような音が聞こえて、複数の男の悲鳴が洞窟内に響いた。
「最初の扉を開けたな」
アルバンがぽつりと言う。モモコが、急いで本を棚に返して心配そうな顔を向ける。
「おい、開けるとどうなる?」
「矢が飛んでくる」
「他に扉が2つあったよな? そこを開けると?」
「2番目は炎が、3番目は氷の矢が襲う仕掛けだ」
「そんなもんで全滅はしないだろう?」
「全滅とまではいかないが、さすがにここの隠し部屋は気づくまい。開け方も一通りしかないからな」
「ふーん」
モモコが手を顎に当ててニヤニヤとし始めた。
「そういうシナリオなら、ちょっと変えてやる。その前にセーブっと」
「おい、変えるとはどういうことだ?」
「ん? シナリオ通りなら、ここを守り切れるとでも言いたいのか?」
「むう……」
「ほれ見ろ。おそらく、ジッとして魔王軍が引き返すのを待つってーのが、他の勇者が経験したシナリオだ。そうだろう?」
「否定も肯定もしない」
「そう言うなら間違いねえ。ジッとするのが正解だろうな。
でも、それじゃ相手を全滅できんだろ?
俺は、それをやるのさ。全滅をな」
「おい、やめろ!」
「いいんだよ、セーブしたから。
どうしても出来ないとわかったら、このセーブポイントに引き換えして、ジッと我慢の子を演じてやる。
でも、今の俺は――」
モモコは拳を振り上げる。
「お前の手の上で焼かれたくないんだよ!」
すると、アンベールがガクッとうなだれて「お釈迦様は、手の上で焼かないが」とボソッとつぶやいた。
「アルバン、この部屋から出る方法を教えろ」
「……仕方あるまい。無理はするな」
「無理ってインポッシブルだろ? インポッシブルなミッションだって、出来る奴はいる」
「まあ……気概だけは受け取ろう。
この部屋から出るには、その出入り口の右棚にある赤い背表紙の本を抜いてすぐに入れろ」
「よし!」
と、その時、アンベールが「待って」と言ってモモコに迫った。
「私も行く」
「アンベールは駄目だ」
「足手まといにはならない」
「いや、そうじゃなくて、マジでスパイごっこやるから。危ないから」
「スパイごっこ?」
「インポッシブルなミッションだよ」
「はあ?」
「大丈夫、セーブしたから。最悪の事態が起きたら、ここへ戻ってくる」
モモコは、アンベールの両肩を叩いてから出入り口へと向かった。




