69.書斎は漫画本だらけ
「まず何から聞こうか……」
アルバンがずっこけた。
「聞きたいことが決まったら声を掛けろ――」
すると、モモコはアルバンに向かって左手を振った。
「あっ、じゃあ、まずはさっきの質問に戻る。あのなんたら村――」
すかさずアンベールが、本に目を落としながら「リトルエンディアン村」と突っ込みを入れる。
「そうそう。そのインディアンみたいな村に行ったら、騒ぎが起きてこの洞窟に逃げ込むのは、どの勇者にも共通のシナリオか?」
「否定も肯定もしないと言ったではないか」
「なんか、全てがお前の思い通りに動いているような気がする。ニブルでの悲劇を見せられたのもそうじゃないのか? 俺、あれですっげーショックを受けたぜ」
「…………」
「まあいい。これで勇者が成長すんなら、俺もそのシナリオ通りに動いてやるよ」
「そうではない。勇者は常に、自ら道を開く」
「はいはい。シナリオが複数本あって、右に行くか左に行くか、はてまた後戻りするかを決めるんだろ? それを、道を開くなんて格好いいこと言ってんだろ?」
「では、何をしたいのだ?」
「どうしてもゲイムという言葉が引っかかる」
「なぜ?」
「この魔王討伐のゲイムを作った奴――神様かもしんないけど――そいつの体の周りを回っていて、抜けられねえってのが嫌なんだ!」
と、その時、アンベールが「たぶん、お釈迦様の手のひらのことをいいたいのでは」とぽつりと言う。
「まあ、なんでもいい! とにかくだな。俺はそのシナリオに逆らってやる!」
「どういうことだ?」
「どうせ、ここに魔王軍が突入して洞窟の中で戦うのがシナリオだろ? ならば、外に出て迎え撃つ!」
「でも、それもシナリオとして用意されているのでは?」
アンベールが顔を上げてモモコの方を向いた。
「何だって!? お前、それ知ってんのか? もしかして、今見ている本ってそのシナリオ……って、おいおい何だよ、その本」
モモコが本を覗き込もうとすると、アンベールは急いでパタンと本を閉じ、背中に手を回してそれを隠した。
「あららぁ……、なんか漫画見たいのが見えたが、何でしょうねぇ……」
「な、何でもない!」
「なんか、イケメン同士が迫っていたような絵が……」
「気のせいだ」
「さっきから夢中になって読んでいたのは何でしょうねぇ……」
みるみるうちにアンベールが赤面する。それが面白いモモコは、ニヤニヤしながらアンベールの背中へ手を伸ばす。すると、アンベールは、本を取られまいと後ずさりをした。
「えっ? 何々?」「私にも見せて」
フェムトとゼプトが、アンベールの本を奪って二人で開いた。みるみるうちに二人も赤面する。
二人の後ろに回ったモモコは、目を丸くして本に顔を近づけた。
「へー、こういうのに興味があるんだぁ。なんて言うんだっけ、こういう漫画?」
すると、ガリカも覗き込む。
「ああ、これ、BL本」
「BL本がなんでここにあるのかねぇ。アルバンの趣味とか?」
「いや、これは私の趣味」
ガリカが平然と言ってのけるので、モモコたち四人が一斉にガリカの顔を見た。
「おい、アルバン」
モモコは、ツカツカとアルバンのところに歩み寄って耳打ちをする。
「エッチな漫画はないのかよ」
「なっ! モモコはそういう趣味があるのか!?」
「ん? ってことは本はあるんだな?」
アルバンはちょっと困惑気味に「ある」と答え、左側の棚の方へ向かった。
「この辺りが全部そうだ」
「すっげー。もしかして、ここの部屋の本って」
「ほぼ漫画だ」
「うっひょー!」
「ところで、モモコは女性であろうが」
「うっ……、まあ、堅いこと言うな。俺は、アルバンが読んでいる本と同じ本を読みたいんだ? いいだろう?」
「ううむ……」
「俺、お前のこと、嫌いになろっかなー」
「わ、わかった……」
手渡された本を開いたモモコはニヤニヤする。そして、ページをパラパラとめくる。
「で、洞窟の外へ打って出る話はどうなった?」
アルバンは首を傾げるが、モモコは右手を振った。
「あっ、どうでもいい。今は読書の時間。
それよりこの漫画、どっから手に入れた?」
「それは口が裂けても言えぬ」
「お前、実はコミケに出没して同人誌をあさっている口?」
「否定も肯定もしない」
「聞きたいなぁ……」
こうして、モモコとアルバンがエッチな本を読みふけり、アンベール以下がBL本に夢中になっている時、洞窟の外が騒がしくなってきた。
モモコは、大きな音を立てて本を閉じた。
「来やがったか」
「そのようだな」
「読書の時間を邪魔しやがって!」
モモコ以外は全員、「怒るところはそこか」とずっこけた。




