64.賞金稼ぎたち
一瞬にして周りの景色が代わって驚くモモコは、冷静に辺りを見回す。
温泉の近くにいる。みんながこちらを見ている。
一つ前のセーブポイントに戻ったのだ。
「なあ、この近くに……」
そう言いかけたモモコだが、続きの「宿はないか?」の言葉を飲み込む。
ガリカは首を傾げた。
「近くに、何?」
「いや、ニブルって村じゃないところへ行きたい」
「ニブルを知っているの!? 行ったことあるの!?」
「あ、ああ……。ひどい目に遭ったから」
「いつ?」
「未来だ」
「未来!? 未来で過去形?」
「なら、ひどい目に遭うから、と言った方が正確か」
アルバンが一歩前に出て言う。
「と言うことは、ここのセーブポイントに戻ったのだな?」
「ああ」
「この先の未来で何が起こる?」
「ニブルってとこで、旗が立っている小屋――」
「旅籠屋」
アンベールに訂正されて、モモコは頭をかく。
「そう、その宿屋みたいなところに泊まると、LV5の賞金稼ぎの女がいる。
そいつが、魔王軍がばらまいた俺たちの指名手配書を持って、首を狙っていやがる。
こいつが、ずる賢いちゅうか、素速いっちゅうか、全然歯が立たない。
なんせ、宿屋で2回も俺たちが死んだからな」
そう言ってモモコは、自分とアンベールを交互に指さす。記憶が残っているアンベールは、大きく頷いた。
「「「指名手配書!?」」」
ガリカとフェムトとゼプトが声を揃えて驚く。
「そうだ。俺たちは今、お尋ね者さ」
皆は口をつぐむ。そして、互いに顔を見合わせた。
「ニブル以外に、なんていう村がある?」
ここでアンベールが「ビット村とかバイト村とか?」と言ったが、ガリカは首を横に振る。
「リトルエンディアン村なら」
「なんだその、ちっこいインディアンみたいな名前?
……まあ、いい。そこで休もう。めっちゃ嵐になるから」
「でも、そこ、旅籠屋はないわよ」
「野宿かよ!?」
「村長の家なら泊めてもらえるかも。確か、かなり大きな家だったから」
「もしかして、お屋敷!?」
「村の中ではお屋敷の部類」
「よし! そこへレッツらゴー!」
モモコは、拳を高く突き上げた。
ところが、リトルエンディアン村の村長の家は、周囲の質素な農家の家を2つくっつけた大きさだった。確かに大きいが、お屋敷と言うからもっと豪華な家を期待したモモコは、大いに落胆する。
しかも、村長に直談判で交渉したにもかかわらず、家には上がらせてもらえず、近くの馬小屋なら貸してもいいと言う。
モモコは、たんまりあるゲルトをちらつかせようとしたが、アルバンに制されて諦めた。
案内された馬小屋は、屋根に穴が開いているほど老朽化していて、雨露をしのぐのは無理だった。かと言って、周囲の農家は馬小屋すらないところが多い。
「なあ、ガリカ。この辺にもっと村はないのかよ?」
アンベールがニヤッと笑って「ビッグエンディアン村とか?」と言葉を挟む。
「あるわよ、そのビッグエンディアン村」
「なにー! だったら、そのおっきそうな村に行こうぜ!」
モモコは腕を振り上げて、歩き始める。
「そこへ行くまでには、朝になるわよ」
立ち止まったモモコは、前屈みになり、膝へ両手をついた。
「仕方ねえ……。藁にまみれて、雨に濡れるしかないかぁ……。
そうだ、アルバン。お前の結界で何とかしろ!」
「魔力が持たぬぞ」
「使えねー」
体を起こしたモモコは、頭をかきながら馬小屋に戻ろうとした。
と、その時、屈強な男を三人連れた老人が、紙を広げながらこちらに向かってくるのが見えた。その老人の視線は、手元の紙とモモコたちとの間を行き来している
「なんだ、あいつ?」
モモコは、紙から指名手配書を連想して青くなった。そして、小声でアルバンたちに指示をする。
「お前ら、中に隠れろ。俺が相手をする」
「単に村人ではないのか?」
「あの紙、指名手配書のはずだ。
さっき、村長がジロジロこっちを見ていただろう?
村人を差し向けたに違いないぜ」
アルバンたちが馬小屋の中に入ったのを確認したモモコは、老人たちに振り返って作り笑いを浮かべつつ、大股で彼らに向かっていった。
「何の御用でしょうか?」
わざと声を一段高くしたモモコは、手まで揉む。
老人は立ち止まり、後ろの三人は老人にぶつかりそうになって止まった。
「お前さんは……もしかして……指名手配中かのう?」
老人はしわがれた声でゆっくりしゃべりながら、また手元の紙とモモコの顔を見比べる。
ギクッとしたモモコだが、落ち着き払って答える。
「何のことでしょう? わたくしによく似た者はごまんとおりますが」
「五万もおらんじゃろうが」
「それは言葉の綾でして……ってか、聞き間違えではないかと」
「なら、他の者の顔もよく見せて欲しいのじゃが」
そう言って足を踏み出す老人の前を、モモコは立ち塞がる。
「彼らに似た者もごまんとおります。何せ、ふつーの人々ですから。でも五万じゃないですよ」
「うーむ、怪しい。この指名手配書に似た者が、こぞってここに集まっておるとは、ますます怪しいぞ」
「怪しくありませんよ。超偶然ですよ。きっと、ラッキーなんです。こんなことはめったにないから、いいことありますよ」
すると、老人の真後ろにいた背が2メートル近い男がニヤッと笑った。
「そりゃそうだぜ」
「そうだぜ?」
「なんせ、目の前に1900万ゲルトが転がってるんだからよ」
「なんのことやらさっぱりですわね。そんな大金なら私もゲットしたいですわね」
「そりゃ無理だ。なにせ、それは――」
男は、背中から太刀を抜いて、切っ先をモモコへ向けた。
「今から俺たちが手に入れるからさ」




