63.繰り返す悲劇を回避するための英断
意識が戻ったモモコは、部屋の中でみんなの注目を集めていた。
「さっ……」
モモコは、続く「今日はお開き」の言葉を慌てて飲み込む。モモコの声にフェムトとゼプトが立ち上がるからだ。
いや、立ち上がらなくても、ゼプトはトイレに行くと言い出すだろう。それを阻止しないといけない。阻止できなければ、またあの女によって自分かアンベールが殺されることを繰り返す。そして、否応なしに、このセーブポイントへ戻ってしまうのだ。
モモコは急にゼプトの方へ顔を向けて、小声で話す。
「ゼプト。お前、トイレ行くなよ」
自分の生理現象を見抜かれたゼプトは、モジモジして、みるみる赤面する。
「……いや、ゼプトだけじゃない。
みんな、この部屋から一歩も出るな」
突拍子もないことを言ってみんなを見渡すモモコに対して、首を傾げないのはアンベールのみだった。
アルバンが立ち上がる。
「俺はトイレに行くぞ」
「お前もかよ」
「お前もかよとは何だ」
「いや、お前なら――大丈夫かも」
これにはゼプトが「ずるーい!」と声を上げる。そして、フェムトが挙手をした。
「なんでアルバンがよくって、ゼプトが駄目なの?」
「レベルが低いから」
「それは差別よ」
「なら、アルバンと一緒に行け。できれば、同じ個室に入れ」
アンベールを除いたみんながザワザワし始める。
「みんな聞いてくれ」
アンベールが立ち上がった。
「これには理由があるんだ。実は――」
「アンベール、お前はいい。俺から話す」
モモコはアンベールを制してコホンと咳払いをすると、両手で手招きをした。
「もうちょっとみんな、近くに寄ってくれ」
モモコが床に腰を下ろすと、全員が体をくっつけるほど集まって円陣を組む。
「いいか、よく聞いてくれ。俺たちは、実は、このセーブポイントに2回戻ってきた」
アンベール以外は、驚きのあまり目を見開く。
それからモモコの体験談が始まった。残虐な場面は省略したが、自分の次にアンベールが殺される段になると、フェムトとゼプトは眉をひそめた。
「……というわけだ。間違いなく、フェムトたちの隣の部屋に、その賞金稼ぎの女がいる。
もしかしたら、あのドアの向こうで聞き耳を立てているかも知れない」
モモコが親指でドアの方を指し示すと、フェムトとゼプトは怖いものでも見るかのようにゆっくりと首をその方向へ回す。
「だから、今トイレに行きたければ、アルバンと行け。LV5相手では、さすがの俺も今すぐには太刀打ちできない」
すると、ガリカが手を上げた。
「だったら、全員で行けばいいわよね? トイレ行きたいひとー!」
手を上げたままのガリカが辺りを見渡すと、ゼプト、アルバン、遅れてフェムト、そしてアンベールまで手を上げた。
「何だよ。俺一人、留守番かよ……」
「じゃあ、モモコも来る?」
「うーん……、まあそうなるよな」
こうして、全員がトイレに行くことになった。
ところが、トイレの個室は一つしかなかった。
モモコは、念のためトイレの中を点検する。
「人一人通れる大きさの窓がある。今は閉まっているけど、何か異変が起きたら叫べ。
そうそう、鍵はするなよ。
……いや、ここのドアを開けたまま、しろ」
みんなは「「「えーっ!」」」と一斉に声を上げる。
「心配しすぎ。鍵はしないから、閉めさせて」
そう言いながら、ゼプトが先に入っていく。
無事に用を足して、次はアルバン。そして、アンベール。
ところが、アンベールが入った辺りから、猛烈な嵐となった。
雨風が強くて、トイレの中の音が聞こえない。
「おい、アンベールがなかなか出てこないぞ。どう思う?」
アルバンがモモコの方へ顔を向けて意見を求める。
「でかい方とか?」
「ならいいが」
と、その時、モモコは、めまいに襲われた。
トイレの中で何が起きたかを直感的に悟ったモモコだが、瞬く間に意識を失った。
◇◇◆◆◇◇
意識が戻ったモモコは、部屋の中でみんなの注目を集めていた。
まただ。
これでセーブポイントに戻るのは3回目。
「…………」
いつまでも黙っているモモコの顔を覗きながらアルバンが言う。
「セーブは終わったはずだが、何をしている」
「まあそうだが……、ホント、悪い、みんな……」
「どうした? ……なんか、気分が悪そうだな。顔が青いぞ」
「ホント、すまん!」
モモコは深々と頭を下げる。
「何を謝っている?」
「俺にはこの先、どうすることも出来ない!
だから、今セーブしたときよりも前の状態に戻す!」
「どこでセーブした?」
「温泉のところだ」
すると、エスカが「ああ、こいつが素っ裸でいて、慌てて服を着たときだ」と茶々を入れる。
アルバンは、腕を組んで難しい顔をする。
「ということは、この先、私がいてもどうにもならないということだな?」
「悪いが、そうなる。
得策が思いつかない。
……何せ、今ここにいるのが3回目だからな」
アルバンとアンベールを除いて、全員が互いに顔を見合わせる。
「相手は魔王軍のグラキリスか? 奴なら、今の私と対等に戦えるが」
「いや、違う。LV5の賞金稼ぎだ」
「大したことないではないか」
「LV4の俺には、難敵だ!
非常にすばしっこく、しかもずる賢く、太刀打ちできない」
「…………」
「アルバン。だからといって、俺はお前の力を借りない。俺にやらせてくれ。頼む!」
「…………」
「頼む!!」
「……いいだろう」
モモコは、まだ表示中だったステイタス画面から、1つ前のセーブポイントをタップした。
◇◇◆◆◇◇




