62.賞金稼ぎの女
モモコは呆然として張り紙に目を落としていたが、ようやく我に返ってガリカを呼ぼうとする。
(いや、ここはアルバンだな。ガリカにこの現場を見せるのは酷だ)
そう思って体をドアの方へ向けたモモコは、息を飲んだ。
黒いコートを着たショートヘアの女が通せん坊をしていたのだ。コートの下から茶色のドレスの裾が見えている。
ドレスを着た女……。この世界に着てから、ことごとくモモコたちの行く手を阻む中ボスは、全員ドレスを着た女だ。ただし、軍服を着たLV7のグラキリスだけは別だ。
モモコは女のスキルを読み取る。そして、「マジかよ……」とため息交じりに漏らした。
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ステイタス
職業:賞金稼ぎ
LV:5
経験:450 知能:480 攻撃:485 敏捷:430
体力:465 耐久:495 魔力:470
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敏捷がやや低いものの、攻撃と耐久が高く、知能もある。しかも、また一つ上のレベルで上位の方だ。
「どうして、こうも次から次と、俺の前に中ボスが現れるんだ!? てめーら、結託してるんかよ!」
半分泣きそうなモモコの声に、女は首を傾げる。
「それがあんさんの最後の言葉かいな?」
「しかも、今度は変ちくりんな関西弁しゃべる異世界人だし」
「そこんとこ置いといたで。あんさんら、ご一行様の指名手配書」
「見ろって意思表示してたから、見てやったぜ」
「なら、覚悟はできとるんちゅうことやな」
「だから、そのへんちくりんな関西弁、やめときー。……あっ、俺も移った」
「ほな、行くで」
次の瞬間、女はモモコの目の前に瞬間移動して、短剣をモモコの左胸に深く突き刺した。
「う……そ……だろ……。敏捷……低いのに」
女は、仰向けに倒れたモモコへ馬乗りになり、短剣を引き抜いて首に突きつける。
「あんさんが鈍いんや。この村のニブルちゅう名前みたいに。
ほな、首、いただいていくで」
そんな女の言葉を最後まで聞き終わらないうちに、モモコは意識を失った。
◇◇◆◆◇◇
意識が戻ったモモコは、部屋の中でみんなの注目を集めていた。
「さっ、今日はお開き……」
モモコの声にフェムトとゼプトが立ち上がった。
「ちょっと待って!」
部屋へ向かおうとしたフェムトは、駆け寄ったモモコに肩をつかまれた。
「どうした?」
アンベールが不思議そうな顔をして立ち上がる。アルバンも立ち上がった。
「みんな、ここにいてくれ!」
アンベールがモモコに詰め寄る。
「だから、なぜ?」
そこへエスカが「まだ話し足りないんじゃないか?」と茶々を入れた。
「そうそう。話足りない」
フェムトは、そう言うモモコの手を振り切ってかぶりを振る。
「明日は早く出かけるから、もう寝ないと」
「だから行くなって!」
「そんなに話がしたいなら、ゼプトを貸してあげる」
すると、ゼプトも首を振ってフェムトに寄り添う。
「もう疲れた。一緒に寝る」
モモコは、ゼプトの「一緒に寝る」の言葉に、首のない二人がベッドで横たわっている光景を思い出す。
「お願いだから、ここにいてくれ!」
「寝させて! お願い!」
モモコはフェムトの肩をつかむ。絶叫したいが、あの女に聞こえる可能性があるから、みんなに辛うじて聞こえる程度の小声で伝えた。
「部屋に行くと、殺される。だから、行くな」
そう言って、モモコは全員を見渡す。
辺りは、激しく屋根を叩く雨音だけになった。
全員がモモコを見つめ、地面に打たれた杭のように動かない。
ようやく、アルバンがため息をついて一歩前に出る。
「……なるほど。未来からさっきのセーブポイントへ戻ったのだな?」
モモコは唇を噛み、強く頷く。
「フェムト、ゼプト。モモコの言うことは、おそらく嘘ではない。言う通りにしろ。
……で、誰がこの建物の中にいて我々を狙っている?」
モモコは、自分の近くに集まるよう全員に手招きをし、小声で話し始めた。
「俺たちは、魔王軍に懸賞金をかけられた。指名手配書が出回っている。
首を持っていけば、50万ゲルトとか100万ゲルトとか。俺なんか――」
アルバンはモモコの言葉を手で遮って、いらつくように言う。
「そんなことはどうでもよい。誰がこの宿にいると聞いている」
「女だ。黒いコートを着ている。コートの下は、茶色のドレス。LV5の賞金稼ぎだ」
部屋の中に緊張が走った。
モモコはアンベールに向かって「しかも関西弁をしゃべる」と言ってちょっと微笑む。だが、アンベールは真剣な態度を崩さない。
「ふむ。……そやつが、我々を狙っていると」
アルバンが腕組みをした。
「そうだ。しかも、この中にいる」
「そういえば、空き室が一つあったな」
「そっか。たぶん、そこに後から泊まりに来て、我々の隙を狙っているんだ。
どうする? ここにいる方が安全だと思うが、みんなの意見は?」
モモコが全員を見渡すと、ゼプトが手を上げた。
「はい、ゼプト。どうぞ」
「あのー、……トイレに行きたい」
ゼプトから妙案でも出るのかと思って期待したモモコは、想定外の言葉にがっくりとうなだれる。
「我慢しろ」
「出来ない」
「出来なくても、しろ」
「無理」
「無理でも、しろ」
ついにゼプトが泣き出した。
「わかったわかった。俺がトイレまで付いていくから」
すると、アンベールが「なら私も」と言って手を上げた。
「お前もトイレかよ!?」
「いや、付いていく」
「女子トイレに!?」
「お前だって人のことは言えないだろ?」
これには、モモコも、ぐうの音も出ない。
結局、モモコを先頭に、ゼプト、アンベールの順に、薄暗い廊下を歩いてトイレへ向かうことになった。
「たしか、こっちの方角だよな?」
ランプの心許ない明かりを頼りに歩くので、トイレの位置がよくわからない。
「アンベール、お前知ってるか?」
そう言って、モモコは後ろを振り返った。
すると、ゼプトは真後ろにいるものの、アンベールの姿がない。
「おーい」
モモコは、アンベールがいるであろう方角へ声をかける。
と、その時、急に目の前が霞んできて、めまいに襲われた。
(ちく……しょう……、アンベール……、やられた……な……)
崩れ落ちるように倒れたモモコは、徐々に遠のく意識の中で激しく悔しがった。
◇◇◆◆◇◇




