65.スキルの偽装
モモコは、老人も含めた男全員のレベルとスキルを瞬時に把握した。全員LV1である。スキルの数値も低い。
これでは、LV4のモモコからすれば肩慣らしにもならない。
「そんな物をか弱き乙女相手に振り回すとは、なんという人々でしょう」
あくまで芝居を続けるモモコは、自分でも吹き出しそうになる。
「ええい、小賢しい奴め! いつまでも隠し通せると思うなよ!」
老人以外の三人は抜刀してモモコに迫る。だが、威勢がいいのはそこまでで、体力消費が20と一番低い武器である鎖を取りだしたモモコの前に、三人が同時に白目を剥いて倒れた。
これで体力は290から270になった。なお、温泉で300だった体力が290になったのは、徒歩で移動したからである。
「ご老人。これは誰の差し金ですか?」
モモコは、まだ芝居を続けている。この言葉遣いで女だと思い込んでいる老人が、拳法の構えを取った。
「わしは、これでも達人でのう」
「あらまあ。LV1で達人とはお見逸れいたしました。
そんなことより、誰の差し金で――」
モモコが言い切らないうちに、老人の体がフッと消える。
次の瞬間、モモコはただならぬ殺気を背後に感じたので、体を後ろに回した途端、側頭部を強打された。
蹌踉めくも踏みとどまり、蹴りの方向から老人の位置を推測したが、姿はない。
また背後に殺気を感じると、今度は後頭部を強打された。
地面へうつ伏せに倒れたモモコは、苦い土を舐める。
「ほーほっほ。だから達人と申したではないか」
(嘘だろ!? LV1のじじいだぜ! LV4の俺がなんでこんな奴に!?)
背筋に悪寒が走り、血の気が引く。あり得ないことが起きているのだ。
上半身を起こしたモモコは、老人のスキルをもう一度確認する。
――――――――――
ステイタス
職業:モンク僧
LV:1
経験:50 知能:80 攻撃:85 敏捷:80
体力:5 耐久:35 魔力:20
:
――――――――――
7が1に見えているかとも思ったが、見間違いではない。明らかにLV1だ。
だが、体力が異様に低いのが気になる。あの数字なら、ヘロヘロになっているはずだ。
なのに、ピンピンしていて、拳法の構えを取りながら足で前後に跳んでリズムを取っている。
「おいおい。本当に、てめーはLV1かよ!?」
唇を拭きながら、モモコは地声に戻った。
「いよいよ正体を現しおったか。LV4の勇者殿。すでに体力が210になっておるが、大丈夫かのう?」
「ちょっと待て! なんでLV1の奴が俺のステイタス画面を覗き見できんだよ!?」
「おっと、口が滑ったわい」
(こいつ、もしかして……)
モモコは、もう一度老人のステイタスを確認する。LVの真下のスキルを飛ばし、その下にある「特殊」に目を向ける。
すると、そこに「偽装(+60)」という文字が見えた。
次の瞬間、モモコの顎に老人の蹴りが入る。目から火花が出るほどの激痛が走った。
「ひよっこの勇者は、まだまだ尻が青いのう」
それから、老人の正拳突きが腹に何発も入れられた。地面に転がったサンドバッグが連打されているみたいに。
これでモモコがぶち切れた。老人が腹に目をやっている隙に、こめかみへ左右のワンツーパンチを食らわす。
これで老人がひっくり返った。
「ステイタス画面を偽装するたあ、卑劣極まりない奴め! 絶対に許さん!!」
老人相手に本気を出すのは本意ではないが、この姿も偽装しているかも知れない。
そう思ったモモコは、老人に馬乗りになって、顔に拳を雨のように降らせた。
「剥がれろ! 化けの皮め!」
拳の勢いで左右に大きく揺れる老人の頭。モモコの拳が容赦なく降り注ぐ。
頬が、瞼が、みるみる腫れていく。口から出血し、歯も折れた。
と、突然、老人の顔が、いかつい青年の顔に変化した。
「やっと正体を現したな!」
モモコは、偽装が解けた男がLV4であることを確認し、ニヤッと笑った。
そして、締めのつもりで、鼻をへし折るほどの正拳突きを食らわせる。男の後頭部は地面にめり込んだ。
「エスカ! こいつのスキルを奪え!」
馬小屋から矢のごとく飛んできたエスカは、ぐったりと動かない男のスキルを全て奪った。
「そっちの雑魚のも、口直しにくれ!」
三人のスキルも奪ってもらい、モモコは自分のステイタス画面を確認する。
――――――――――
ステイタス
職業:勇者
LV:4
経験:330 知能:399 攻撃:399 敏捷:399
体力:285 耐久:399 魔力:350
:
――――――――――
「やっぱな。ことごとくLV4の数値を偽装してやがった。油断させるためだ。
エスカ、見て見ろ。奪ったら、軒並みMAXだぜ」
「なぜ、気づいた?」
「こいつが、体力の偽装をミスっていてな。
ヘロヘロの数値のくせに、ピンピンしてやがって」
「なるほど。
LV1の三人は、ホント、口直し程度しかスキルを持っていなかったぞ」
「いいって。パンチの嵐でかなり減った体力の回復に役立っている。
……経験は30アップか。魔力は、こいつら、あまり持っていなかったな」
「でも、偽装を奪ったから、これは使えるぞ」
「おおっ! 棚ぼたでラッキーだったな」
「これで経験さえアップすれば、LV5の賞金稼ぎとやり合えるよな?」
モモコは、女のスキルを思い出す。確か、LV5の後半だった。
「今は、たぶんとしか言えない」
「弱気になるなよ」
「わかってるって」
モモコは、拳をエスカの前足と突き合わせた。




