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勇者モモコと魔法少女アンベールのぼうけん  作者: s_stein
第二章 レベルアップの旅

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58.目に見えない速さの剣捌き

「ほう。素晴らしいプロポーション。惚れ惚れするねぇ」


 女は、モモコの全身をなめ回すように見つめる。特に、腰と胸に何度も視線を往復させる。


「腰のくびれがなんとも言えないねぇ。それに、その胸。体の大きさに比べて実に見事。ただし――」


 女は自分の胸をポンポンと叩いた。


「こっちも同じ大きさだよ。このくらい身長があると目立たないけどね」


 モモコは、相手に調子を崩されないよう怒りの状態を保つ。そうしないと、オーバークロックが作動しないからだ。


「体の自慢なんかどうでもいい! エスカを離せ!」


「いやだね。だって――」


 短剣の切っ先がモモコの方を向いた。


「後ろに隠した剣で攻撃してくるだろ? 無駄だよ。こっちは、何でもお見通し。

 それに、そこからここまで距離がある。この猫の胴体が首から離れる前に、ここまでたどり着けるのかい?」


 女はカラカラと笑う。


 確かに、モモコの立つ位置から女までの距離は、7メートルはある。水の抵抗で足を取られることを計算に入れると、その通りかも知れない。


 だが、モモコは賭に出る。自分の能力を信じて、奇跡を信じて。


「うおおおおおおおおおおっ!!」


 猛獣のように咆哮するモモコは、全身が炎に包まれた。


 湯に濡れて垂れ下がるツインテールが、上昇する熱気で宙に浮き上がる。


 目が赤く燃え、みるみる鬼の形相になった。


 勇者だけが持つ隠しコマンド――オーバークロックだ。


 モモコの変貌ぶりに仰天した女は、たじろいだ。


 炎に包まれた赤鬼は、そのチャンスを見逃さない。水の抵抗をものともせず、疾走する機関車のように足を動かし、一呼吸の時間で女の目の前に到達した。


 アッと声を上げた女は、モモコの首辺りを狙って短剣を振るう。


 キイイイン!


 短剣が銀閃に弾かれた。


 すかさず、左上から袈裟懸けに振り下ろす。


 キイイイン!


 またも銀閃に弾かれる。モモコの剣の振りが早すぎて、刀身が見えない。腕の動きも目で追えない。


 再度袈裟懸けに振り下ろすも、見えない剣に弾かれる。


 何度やっても弾かれる。


 今度は、女の頬に剣がかすめる。


「――っ!」


 攻撃を諦めた女は、銀閃を頼りに短剣を動かす。防戦に回ったのだ。


 キイン! キイン! キイン! キイン!


 続く剣戟。


 女は歯を食いしばる。柄を握る手が痺れてくる。力に負け、押されに押され、後ずさりをする。


 いつの間にか、エスカを手放してしまったが、それにかまっている暇はない。


 ここで息が切れた方が負け。


 剣の動きが鈍った方が負け。


 女は青ざめた。幹を背負ったのだ。もう後には引けない。


 さらに青ざめる。体力がかなり減ってきた。モモコの体力の方が上回っている。


 女の頭に「敗北」の文字が浮かび、大いに焦る。格下に負けるのだ。


 奮起して、最後の力を振り絞り、本能的に短剣を動かす。しかし――、


 キイン! キイン! キイン! キイイイイイン!


 女の短剣が、宙を飛んだ。


 モモコは、短剣を拾おうと横を向いた女の腹を思いっきり蹴る。


 それでひるんだ隙に、女へパンチを雨のように浴びせた。


 体力がなくなってきた女は、反撃できず、モモコの拳に打たれるがままになる。


 ついに、女はうつ伏せに倒れた。


 そこへ、エスカが蹌踉めきながらやってきた。


「任せろ……」


「エスカ!」


「どけ……。こいつのスキルを……根こそぎ奪ってやる……」


 こうして女からスキルを奪ったエスカは、頭をクラクラと揺らして地面に倒れた。


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