56.囮作戦
モモコは、毎回殺されるフェムトとゼプトとアンベールの背中を見ながら心に誓う。
(絶対に、あの女の魔の手から守ってみせるからな!)
そして、そのために何が出来るかを真剣に考え始めた。
まず、あの女がなぜ自分の前に姿を現すのかを考える。ゲイムの中ボスみたいな役割で出てくると考えれば魔王討伐の妨害だろうが、どうもそうとは思えない。
(まあ、ゲルト目当て、剣目当て、スキル目当てといったところだろう。
となれば、狙いは確実に俺一人。フェムトたちを殺すのは、言う通りにしないとこうなる、という見せしめでしかないはず)
守るべき者が多ければ多いほど、戦いが不利になる。そうなると、執る手段は一つだ。
(それしかないよな。……うん、それしかない)
一行が林から出て草原の道を歩き始めた頃、ようやく林を出たモモコは、セーブをしてアルバンへ駆け寄った。
「なあ、アルバン」
アルバンは、モモコを振り返らずに歩き続ける。
「何だ?」
「俺とエスカであの女を倒す」
アルバンが、やっと立ち止まってモモコの方へ振り返る。
「急にどうした?」
「俺がみんなといると、女にしてみれば、交渉に使える材料が多いご一行様に見えているはず」
「そう言う見方もあるな」
「今のままでは、また誰かが殺される」
「まあ、LV4の後半というまともに戦えるレベルの相手ではないから、LV3などひとたまりもないだろう」
「だから、ここでいったん、別行動を取らせてもらう」
「…………」
「俺が女をみんなから引き離す。アルバンとガリカは、みんなを守ってくれ」
「つまり、先に行くのだな?」
「そうだ」
「引き離せるのか?」
「女の狙いは俺だから、必ず、俺の後を付いてくるはず」
「……よかろう。今から結界でみなを守る」
「頼む」
そう言ってモモコは、エスカを連れて列から離れ、ずんずんと先を歩いて行った。
徐々に天気は下り坂になる。生暖かい風が吹いてきた。緑のカーペットのような草原の上で、風が波を作る。
一雨来そうに思えた頃、モモコの行く手に林が見えてきた。そこから風に乗って、温泉の匂いが漂ってくる。
モモコは、しゃがんでエスカに耳打ちをすると、エスカは林の中へ消えていった。
それから、モモコは温泉に近づいていき、衣服を脱いで中へ入って行く。
何を呑気に温泉へ浸かるのだろう。
確かに、体力全回復には持って来いの場所だ。でも、全裸では、あまりに無防備ではないか。
そんな心配はどこ吹く風のモモコは、温泉を湛えた池の真ん中まで移動して腰を下ろした。
豊穣な双丘が半分隠れるくらいまで浸かると、周囲に波が立ち、広がっていく。
そうして、伸ばした腕に湯をかけたり、肩に湯をかけたり。しかし、顔は真剣そのもの。鼻歌一つ聞こえない。
軽く深呼吸したモモコは、聞き耳を立てた。と、その時――、
ピキッ……、
枝を踏む音が聞こえてきた。




