52.LV3成り立ての大勝負
(神様、仏様、アルバン様! どうか――)
だが、そんな祈りをしている暇はなかった。女が、素速くフォルシオンを持ち上げて振り下ろしたのだ。
モモコは一か八かで、左に飛ぶ。自分の立っていた位置に、凄まじい音を立てて風が通り過ぎるのを感じつつ、地面に転がった。
「おやぁ? 敏捷200の奴に交わされるとは、酔いが回ったかな?
でも、これで終わりさ」
女がブツブツ言ってフォルシオンを振りかぶった隙に、モモコは素速く体を起こして、今度は右へ飛ぶ。すんでの所で、寝転がっていた位置に剣圧の風が通り過ぎ、地面を抉った。
と、その時、モモコは女のステイタスで体力が132になっていることに気づいた。
(二回振り回して130消費。
――ってことは、まだ来る!)
右に転がったモモコは、跳ね起きて左へ飛ぼうとした。その刹那――、
「甘いわ!」
フォルシオンを振り上げた女がそう叫んで、自分の体を右へ少し移動させた。これは、左に飛ぼうとするモモコと動きを合わせた結果となった。しかし、モモコは体の動きを止められない。
「死ねぇ! 小娘!」
勝利を確信した女は、ニヤッと不気味に笑いながらフォルシオンを握り直し、力一杯振り下ろす。
ところが、女が頭で描いたように剣圧による風がモモコの体の中心を通らなかった。風は、右足の膝下の一部をザックリと斬っただけだった。もし、女が無言で表情を変えずに素速く攻撃していたら、思惑通り、体が真っ二つになっていただろう。
深手を負って転がったモモコは、激痛に耐えながら上半身を起こし、鮮血が吹き出す右足に右手をかざす。
実は、勇者が使える魔法に回復魔法があり、これで右足の治療を行うのだ。だが、初めて使うので加減がわからず、傷口を見ても簡単に回復しそうにない。
女が、剣の切っ先を向けて、ゆっくり近づいてくる。接近戦に備えて剣を左手に持ち替えたが、果たしてこの状態で戦えるのか。第一、出血がひどくて、意識がもうろうとなってくる。
モモコは、女の体力を確認する。残り67。一回の攻撃で65減る計算だから、もう一度出来るはず。だが、残り2になってしまう。この状態では、フラフラだ。
――果たして、女は大勝負に出るのだろうか。
モモコは、逆にここで勝負に出る。
「おい。もう一度その攻撃をしてみろ。すぐ近くに仲間がいるから、逆にお前がやられるぞ」
女の足が止まった。
「あのLV6のチビが、か?」
「あいつはLV7になっている」
急に、女の顔に焦りの色が見えた。
「なら、ここで首を刎ねてやる」
「この成長する剣に勝てるとでも思っているのか?」
モモコは、女の前に剣をちらつかせる。成長する剣と言っておきながら、自分がLV3にアップしたのに、トルンの武器店でもらったときと形が変わらないのは解せなかったが、今はそれどころではない。
すると、女は目をまん丸にして、二歩下がった。
「その剣を勇者から継承したのか!?」
「ああ、そうだ。お前にとっては因縁の剣かも知れないがな」
因縁の剣かどうかは、もちろん、はったりである。女の素振りから、知っていそうな感じがしたので、モモコが咄嗟に思いついたのだ。
だが、当たりだったようだ。女は、憤怒の形相になり、酒瓶を投げ捨てた。
「その剣を持った勇者と何度か渡り合ったが、一度も勝てなかった。だが――」
フォルシオンが、怒りで上気する女の頭上に振り上げられた。
「今度こそ勝利をつかむときが来た!
死ねえええええぇ!!」
突進する女。足を伸ばして座ったまま迎え撃つモモコ。
振り下ろされるフォルシオン。振り上げられる短剣。
モモコの頭上で、その二つが激突した。
キイイイイイイイイイイイイイイイン!!
固い金属音が林の中に響き渡る。同時に、フォルシオンが宙を飛び、木の幹の高いところに突き刺さった。
「おのれえええええっ!!」
女は、モモコの首を絞めようと、両手を伸ばす。
絶体絶命と思われたその時、
「雷撃!!!」
背後からアンベールの短くて鋭い詠唱が聞こえ、女の体が一瞬だけ輝いたかと思うと、全身から無数の放電が起こった。
「ギャッ!!」
発作が起きたようにビクンビクンと震えた女は、後ろ向きに倒れて動かなくなった。
「エスカ! 奴のスキルを奪え!」
「あいよ!」
後ろから聞こえてくるアルバンの頼もしい声と複数の足音にモモコは安堵するも、貧血によるめまいに襲われて意識を失った。




