48.暫しの休息
表通りへと急ぐアルバンの背中に、モモコが声をかけた。
「なあ。俺の服、目立たないか?」
アルバンが立ち止まった。みんなも、それに従う。
彼は、モモコの頭の先からつま先まで眺めた。
「確かにそうだな」
「だろ? この町に来たときから、みんな振り返るんだよな。
そこでだ。提案がある」
モモコはアルバンに1800ゲルトを渡して、アンベールの分も入れて二人分の服を買ってきてもらうことにした。中途半端な数字なのは、単に401800ゲルトの端数をなくしたいからだ。
「今着ている服を珍しい古着として売って、金にする方がよかろうに」
「馬鹿言え! 元の世界に戻ったら、制服がなくて困るだろう?
それに、この服を売ったら、何と交換したかで足が付くしな」
「戻るのか? というか、戻りたいのか?」
「当たり――」
と言いかけたモモコは、アルバンが「体を入れ替えてここに留まるか、今のままで元の世界に戻るか、どちらかを選べ」と言ったことを思いだした。
(当たり前だろうが!)
だが、この言葉は迂闊に口に出来ない。なぜなら、選んだことになるからだ。
「当たり? なのか?」
「当たり前田のクランベリーパイ」
「何だ、それは?」
「俺のいた世界の食い物で、急に食いたくなっただけだ。気にするな」
「うまいのか?」
「ああ、たぶん。売っていたらな」
「私も……モモコと一緒に食べてみたい」
モモコは、ニヤッと笑ってアルバンの言い方を真似た。
「来るのか? というか、来たいのか?」
すると、彼はポッと頬を赤らめた。
「当たり前だ。……服を買いに行く」
アンベールは、モモコを見ていたが、急にプッと吹き出した。
15分ほどして、アルバンは折りたたんだ民族衣装を二着抱えて戻ってきた。
広げてみると無難なデザインで、通行人の波に溶け込むには十分だ。
アルバンが釣り銭として100ゲルト金貨を2枚渡そうとしたので、モモコは手のひらを彼に向けた
「いいから、駄賃として取っておけ」
「かたじけない。大事に取っておく」
モモコたちは、いったん裏通りの奥へ戻った。幸い、他には誰もいない。
まず、アルバンとモモコと双子が人垣の輪を作る中、アンベールが素速く着替えを行う。次に、モモコがアンベールと交代して着替える。
今着ている服は、インベントリにアイテムを格納するように、しまって見えなくすることができる。これは、いつでも取り出せるから困ることはない。
準備が整った一行は、表通りを堂々と歩いた。通行人は、誰一人として振り向かない。こうして、彼らは大手を振って町の外へ出た。
町から500メートルほど離れたところに林があったので、彼らはその中で腰を下ろしてガリカを待つ。
程なくして、ガリカがぎゅうぎゅう詰めの大きな袋を二つも持ってやってきた。
袋の中は、丸パン、チーズの塊、鶏のもも肉のロースト、羊のリブステーキ、山羊の乳、ジャガイモをふかしたもの、生野菜を切ったサラダみたいなもの。それ以外に、カエルの串焼き、ヤモリの燻製、蛇の甘辛煮などゲテモノがあった。
もちろん、モモコとアンベールは、ゲテモノ以外を抱え込み、むさぼるように食べた。特にがっついたモモコは、喉に詰まらせたり、むせたりで、アンベールやアルバンに介抱されていた。
「あーーーーっ! 食った、食ったあぁ!」
膨れた腹をポンポンと叩くモモコは、アルバンの方へ顔を向けた。
「で、次はどこへ行く? フロムか?」
「いや、その先にレベル上げにちょうどいい場所がある。手頃な魔獣が徘徊する場所だ」
「おお、いいねぇ! いつまでもLV2じゃ、あの緑のドレスの女に――」
そう言いかけたモモコは、なぜか、心の中に冷たい風が吹いた。
(いいや、気のせいだろう……)
「ドレスの女に勝てないしな。なっ、そうだろ!?」
「それもそうだ」
「しかも、俺のレベルが上がれば、全員が上がる!
言うことなしだぜ!」
そう言ってモモコは、アルバンの肩をバンバンと叩く。
叩かれた彼は、弾みでずれた帽子をかぶり直しつつ、嬉しそうな表情を見せた。




