46.成長する剣
アルバンが向かった先は、ミーナの店からそれほど離れたところではなかった。こちらも、二階建ての建物に挟まれた古びた平屋で、肩身の狭い思いをして商売をしているような雰囲気だった。
中に入ると、三方向の壁中に槍やら剣やらの武器がかかっている。
3メートルほどの高さの天井に近いほど、立派で高そうな武器だ。でも、手を伸ばせば届きそうな高さにいくつかの短剣があるので、簡単に盗まれやしないかと、こちらが心配になる。
「トルンねえさん、いるか?」
店の中に入ったアルバンは、奥の正面にある扉に向かって声をかける。すると、こちらはすぐに扉が開いた。
現れたのは、背が高く、体格がマッチョみたいな若い女性。やや面長で鼻が高く、相当な美人。そんな彼女が、ベリーショートの金髪に指を突っ込んでゴシゴシやりながら、鋭い灼眼をアルバンに向ける。
「なるほど。ご一行様ご来店、ってことは、ついに始まるのかい」
トルンもミーナと同じことを言う。アルバンが来ると言うことは、魔王討伐の日が来たことを意味するらしい。
「左様」
「預かっていた剣は、そこだ」
彼女の太い腕が斜め上に持ち上がり、右側の壁の一番上を指さす。
「なるほど、あそこか」
「勇者に取らせな。何せ、人を選ぶ剣だからな」
天井付近に、刃渡り30センチメートルほどの黒光りする剣が横向きになっている。よく見ると、壁に埋め込まれた2箇所のフックにちょこんと置かれているだけなので、手が届けば、スッと持ち上げて取れるはずだ。
ただ、いかんせん、高すぎる。飛びつくわけにはいかない。モモコは、頭をかきながら前に歩み出た。
「何!? お前が勇者!?」
トルンが目を丸くし、すぐにニヤニヤと笑った。
「女の勇者かい。これは面白い。
さて、梯子なんかないよ。さあ、どうする?」
モモコは、腕組みをして壁の前に立ち、剣を見上げる。垂直跳びしても不可能だ。下から息を吹きかけても、フワッと浮いて落ちてくるなんてこともあり得ない。
(人を選ぶ剣って言ったよな?
なら、心の中で剣に語りかければ、何らかの意思表示をするかも知れない)
モモコは目を閉じ、息を止めて精神統一する。
(――剣よ。我は勇者なり。我の手に収まれ)
すると、周りでオーッという感嘆の声がする。しかし、それはすぐ、アーッという落胆の声に代わった。
目を開けて振り向いたモモコに、アンベールが声をかけた。
「ちょっと浮いたけれど、すぐに元に戻った」
なるほど、何か足りないのだな、とモモコは考えた。
人を選ぶと言うことは、剣も自尊心みたいのがあるのではないか?
剣とはいえ、相手を敬う気持ちが必要なのではないか?
モモコは、もう一度、剣を見上げ、神前にて拝礼するような行動を取ってみる。
二礼二拝し、目を閉じ、心の中で唱える。
(――いと高貴なる剣よ。我は魔王討伐の使命に燃える勇者なり。
我とともに魔王に挑み、ともに戦おうではないか。
そなたの絶大なる力を我に示せ)
そして一礼。
再び、周りでオーッという感嘆の声がする。今度は、それが長く続いている。
モモコは、目を開けて見上げた。
剣が光り輝きながら、横向きのまま、ゆっくりと降りてくる。
そして、モモコが上に向かって差し出した両手に、ソッと収まった。
全員が拍手喝采した。
「どうやら、選ばれたようだな」
トルンがウインクをして、右手の親指を立てた。
まだ光る剣を、切っ先から鞘までじっくりと見るモモコ。すると、剣はひとりでに手の中へ入っていった。
それを見ていたアルバンが、モモコを指さし、次はトルンを指さす。
「さあ、聖剣を取り出して、トルンへ渡せ」
言われるままに、モモコは聖剣を手から取りだしてトルンへ渡す。
「渡したけど、聖剣を鍛えてくれるとか?」
「いや、買い取ってもらう」
「買い取る!?」
「今の剣があれば、聖剣なぞ無用の長物。何せ、今手に入れた剣は、体力を消費しない優れものだぞ。
しかも、勇者の成長に応じて剣も成長する。
体力を消費し、成長もしない聖剣は、今すぐ手放せ」
「まあ、そう言うなら……。
ところで、この剣も、前の勇者が持っていて、魔王討伐が出来ず、ここに預けておいたのか?」
「前? ああ、さっきの賢者の石を持っていた勇者か?
いいや、違う。
私が一緒にパーティを組んで、魔王と直接やり合った別の勇者だ」
「なんと! その勇者は、賢者の石を持っていたのか!?」
「残念ながら持っていなかった。
その剣と賢者の石の両方を持ったのは、モモコが初めてだ」
その言葉に、モモコは武者震いした。




