43.元幹部のLV7の女
建物の中は、広いエントランスになっていて、中央に直進階段があった。俗に言う鉄砲階段だが、そこを黒い服の上から黒マントを羽織った無帽の人物がゆっくり降りてきた。
服は、幅の広い詰め襟、金色のボタン、袖の手首に近い方には細くて赤い帯がある軍服のようだ。左胸に勲章のようなものをぶら下げている。
モモコは、この異世界にも時代がかった軍服があるのかと驚いたが、もっと驚いたのは、その人物が黒髪のベリーショートの女だったことだ。
鼻筋が通った美男子のような女。男装の麗人というのがふさわしい。
女は階段の途中で立ち止まり、ポケットから箱を取り出す。そして、弾みをつけてそこから器用に白い棒状のものを飛び出させた。タバコだ。
それをヒョイッとくわえた女が指をパチンと鳴らすと、タバコの先にポッと火が付いた。一種の魔法であろう。
その火が赤々と燃え、チリチリと音を立てたかと思うと、口からフーッと長めの煙が吐き出された。
ようやく女が言葉を口にした。
「誰かと思えば――」
低い声がエントランスに響き渡る。
「アルバンか」
女は、鼻でフッと笑った。そして、兵士たちに指で合図を送る。すると、彼らはアルバンたちの周りから離れ、囲むのをやめた。
「いいのか? 余裕だな、グラキリス」
「貴様がこの私に勝てるはずがないからな。その後ろのガキの勇者と束になってかかってきても」
グラキリスが顎で指し示す先は、明らかにアンベールだ。彼を勇者と思っているらしい。
「確かにそうだな。LV7では勝てぬ」
「貴様は――LV6か。いつの間にか腕を上げたな」
「魔王の幹部の合格ラインであるLV7にあと一歩。いずれ、お前と肩を並べる」
「幹部か……」
「どうした? いかにも幹部ではなさそうな言い方だが」
「降格したよ」
「何?」
「天空の城ブラオバルツに貴様たちを近づけた責任を負わされてな」
「それは気の毒に」
「それで、今はこの辺境の地で警備隊の隊長ときた」
「なるほど」
「ところで、貴様は、今度も勇者を連れて無駄骨を折りに来たのか?」
「お前相手では、そうかも知れぬ」
モモコは、弱気な発言をするアルバンの頭にチョップを入れたくなった。
「学習したな」
「あれだけ痛い目に遭ったからな」
「その痛い目に遭った奴が、のこのこと何をしに来た?」
ここで兵士の一人が会話に割り込んできた。
「女を買いに来たそうですぜ」
他の兵士もグラキリスも、プッと吹き出した。
「ませガキが」
このグラキリスの一言には、モモコも心の中で頷く。
「牢屋にぶち込め!」
モモコは思わず「そうなるよなぁ……」と心の声が漏れた。
アルバンたちは、再び兵士らに囲まれ、奥の右側の扉に向かって連れて行かれた。




