40.LV3の女夜盗再び
「おっと、セーブ、セーブっと」
町に入る前に、モモコはステイタス画面を表示させた。
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ステイタス
職業:勇者
LV:2
経験:140 知能:100 攻撃:124 敏捷:108
体力:135 耐久:116 魔力:100
:
ゲルト:1800
:
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「なあ。次のLV3は、経験から敏捷まで199になる必要があるんだよな?」
モモコの独り言のような問いかけに、前を歩いていたアルバンが振り向いて無言で頷いた。それをちらっと見たモモコは、言葉を続ける。
「魔王軍の奴らを八人倒して経験値40アップだから、あと十二人くらいかぁ。
でも、知能が上がってねぇ……。魔力は仕方ないとして、他もそれほど上がってねぇなぁ」
これにはアルバンが、体の正面をモモコの方へ向けて、器用に後ろ歩きをしながら真面目に回答する。
「それは、倒す相手のスキルとか、いろいろな要素に依存するから、何とも言えん。
それに、あの程度の人数で一気に40も経験値が上がっているが、それは、オーバークロック効果だ」
「へ?」
「それがなければ、加算は半分くらい――」
そして、アルバンは「だったはず」と言いながら、再び体の向きを戻した。
「マジでか……。毎回オーバークロックは死ぬわ……。
そうだ! 毎回オーバークロックとゼプトの回復魔法を繰り返せば、行けんじゃね!?」
すかさず、ゼプトがため息をつく。
「それは、こっちが死ぬ」
頭をかくモモコは、視線をゼプトの半眼の顔からアルバンの背中へと移す。
「誰かさんは、パーティに加わっているだけでLV5から6になって、羨ましいよなぁ……。棚ぼただよなぁ……」
確かに、モモコがLV2になった時点でLV5のアルバンは仲間だったので、自動的にLV6になっている。なお、双子――実はLV2――はその後に仲間になっているので、変化はない。
「無視かよ!」
いつまでもアルバンが振り向かないので、ふくれっ面になったモモコは、力強く画面をタップしてセーブした。
と、その時、モモコの心の中に冷たい風が吹いた。
――いきなり町中でトラブルに巻き込まれそうな気がするんだが。
イヤな予感というのは、一種の予知能力なのだろうか。
それを裏付けるかのように、町中に入ると、すれ違う人間も獣人も横目で見てくる。一行は、そんなよそ者を警戒する目よりも、魔王軍の姿を彼らの中に探した。
すると、アルバンが右の横道へ入っていく。彼の姿が消えたので、後ろにいたモモコは、その理由を遅れて把握することになった。
前方に銃を構えてこちらに向かってくる銀色のプレートメイルにアーメット姿の四人が見える。一行は、アルバンにさりげなく従った。
後ろを振り返ると、かえって怪しまれるだろうから、誰も振り向かない。
だが、後ろが気になる。体が硬くなる。耳が後方に向きを変えたような感覚で、ジーンと耳鳴りがする。
「通り過ぎたぜ」
モモコたちの心中を察したエスカが、ナイスなタイミングで報告をしてくれた。一行は、安堵の胸をなで下ろした。
彼らの入り込んだ道は、薄暗い裏通りだった。木造二階建ての、おとぎ話の挿絵にでも出てきそうな家々に挟まれているが、こうも薄暗いと不気味である。しかも、人もまばらで、家の前で座り込んでいる者どもが、ギラギラした目で見ている。
早くこんな道を抜けたいのだが、アルバンの歩みがのろい。モモコは彼に駆け寄り、肩を叩いた。
「おい、早く向こうへ抜けようぜ」
そう言ってモモコが彼を追い越すと、後ろから腕をつかまれた。
「待て。まずいところへ入ったみたいだ。引き返す」
だが、遅かった。
ちょうど近くにあった酒場のような建物から、豊満な体つきの女が五人も出てきて、通せんぼうをしたのだ。いずれもドレスっぽい服を着ているが、生地が薄く、ボディラインがモロわかりだ。
「あら、いい男」「少年も可愛いわねぇ」「寄ってかない?」「安くしておくよ」「そっちの娘さんたちは向こうの男どもが相手するよ」
左端の女が、正面を向いたまま右手の親指を後ろに向けると、反対側の建物の裏口らしいところから、長身の男が五人出てきた。顔は、イケメンと言えなくもないが、癖がありそうだ。
一気に壁が出来たので、モモコが後ろを振り向くと、ちょうど魔王軍の連中が通り過ぎていくのが見えた。向こうに走って逃げるのも、目立って危険かも知れない。
女どもは、体をくねらせ、あるものは衣服からはち切れそうな豊かな双丘をグイッと突き出し、ぷるんと揺らしてアピールをする。妖艶な五人は色目を使うが、目当てはゲルトなのは言うまでもない。
五人はアルバンとアンベールにソッと近づき、体を撫でる。さっさと断れば良いものを、二人とも立ち尽くしていて、蛇に睨まれたカエルの状態だ。
(――術をかけられている!?)
モモコは、直ぐさまアンベールの肩に手をかけた。すると、そばにいた女がもの凄い形相で睨み付けてモモコの手を払いのけ、すぐにニヤニヤと笑った。
「この人たちは、遊んでいくって。あんたのお相手は、向こうで待っているよ」
だが、モモコは毅然として言ってのける。
「俺たちは、急いでるんだ! 道を空けてくれないか!」
「俺たち? 女のくせに、男みたいに立ち振る舞おうったって――」
と、突然、女の丸太みたいな腕が繰り出した石のように固い拳が、モモコのみぞおちにまともに入る。
「そうはいかないよ。出しゃばるな、小娘のくせに」
女の残りの言葉が、薄れる意識の中で聞こえつつ、モモコは腹を抱えて膝を折った。双子が、両側からモモコの肩へ心配そうに手をかける。
「胸だけ一丁前にでかいからって、男を自分のものに出来るとでも思ってるのかい?」
吐きそうになったモモコだが、その言葉に怒りがこみ上げてきて、ヨロヨロと立ち上がった。
「ほう。女のくせに、根性があるね」
「とにかく、ゲホゲホ……道を空けてくれ……」
「うるさいね。寝てな」
女は、恐ろしい速さでモモコにボディブローを連打し、アッパーでフィニッシュを決めた。これには、さすがのモモコも仰向けに倒れ、フェムトもゼプトまでも巻き込んだ。
「愉快愉快! 三人とも大股広げて、のびてるよ!」
女が高笑いをする。だが、その笑いは、ヒステリックな声に遮られた。
「おい! 何の騒ぎだ!? こっちが気分良く飲んでいるときに!」
モモコは、目をしばたかせながら、ゆっくりと頭を上げて声の方を見た。
男女の壁が、サーッと左右に分かれる。その真ん中から登場したのは――、
緑色のドレスを着て、酒瓶をラッパ飲みする女。
モモコの記憶が蘇る。無人の小屋の近くにて、剣圧で自分を瞬殺した、あのLV3の女だ。
(マジ……かよ……。こんなところで……最悪だぁ……)
モモコは、一瞬だが、この場で直近のセーブポイントに戻ろうと考えた。
だが、どのみち、ここで一暴れをして死んでも、直近のセーブポイントに戻れる。
モモコは、腹を決める。そして、立ち上がった。




