39.敵が溢れる町
温泉から上がったアルバンとアンベールが、モモコたちが待つ場所に戻ってくると、今度はモモコが「遅い」と文句を言う。
お互い様なのだが、こういうときは待たされた方が立場が強い。
無視するアルバンに腹を立てたモモコだが、彼の肩越しから真っ赤な顔をしたアンベールが見えたので心配して声をかける。
「どした?」
「別に……」
それから、五人と一匹は同時に出発したが、モモコとアンベールはわざと三人より歩みを遅らせて距離を開ける。そして、モモコから小声で話しかけた。
「別にって感じじゃないぞ。何があった?」
「…………」
「まさか、長さ比べとか――」
「何のことかわからないけど、アルバンの方が背が低いわよ」
「背丈には比例せんぞ」
「言って怒らない?」
「お、おお。負けるはずないし、負けたとて覚悟は出来ている」
「勝ち負けじゃなくて」
「はあ?」
「ちょっと話が面倒なんだけれど……今のあんたが入れ替わったモモコに、一目惚れだって」
「なんですとー!」
「そう。男みたいなモモコがいいんですって」
「大佐殿」
「何だ、上等兵」
「あやつは、罵倒されるのを好むタイプではないかと思われます。被虐趣味の性格、いわゆるマゾヒストではないか、これから調べるでありま――、痛っっっ! いきなり頭にチョップは禁止であります!」
「やめておけ、上等兵。格下げするぞ」
「ちょっとアルバンを縄で結わいて、鞭で叩いて、ヒールで踏みつけて――」
「今度から、新兵な」
と、その時、振り返ったアルバンが手招きをするので、二人は彼の下へ駆け寄った。
「町は、ほれ、そこだ」
そう言って、アルバンが斜め下の方を指さす。
見ると、自分たちが立っているのは丘の上だったようで、眼下に中規模の町が開けていた。ざっと、建物の数は百くらいだ。
モモコは、眉をひそめた。なぜなら、その建物の作りが先ほどの町とよく似ていたからだ。
また魔王軍の侵略によって、無人の町になっていないだろうか。そんな心配を抱えながら、モモコは坂を降りていった。
しかし、その不安は杞憂に終わった。
近づくにつれて、喧噪が聞こえてくる。建物から人が獣人が顔を覗かせている。
だが、彼らの安堵も、エスカの一言で吹き飛んだ。
「おい、魔王軍の奴らがいるぞ」
モモコたちは辺りを見回すが、姿が見えない。
だが、千里眼のエスカのことだ。間違いないだろう。
「エスカ。お前、たまにしか出てこないなぁ」
「何を言う。いつもお前たちと行動をともにしているぞ」
「この作家が忘れているのかなぁ……」
「単にお前たちが下を見ないからだ!
……いずれにしても、相当数の魔王軍の連中に遭遇するぞ」
「どのくらい見える?」
「百は下らない」
「ゲゲゲ……」
アルバンが振り返って立ち止まり、一人一人に顔を向けて忠告した。
「おそらく、魔石で利益を得ている住民もいるはず。
大抵、そいつらは金持ちで、手下も多いだろう。
そうなると、敵は魔王軍だけではないから、騒ぎを起こさないことだな」
「だ、大丈夫だ……。LV2では、オーバークロック攻撃でも、百人以上相手は無理だと思う」
「自覚していれば良い。
……そうだ。もし、騒ぎが起きても、敵側に付いた住民まで斬るな」
「斬らなきゃいいんだろ? 気絶させれば」
「やれるならな」
「やれるぜ! 峰打ちぐらい!」
「聖剣は、両方に刃がある。峰打ちは出来ぬ」
「めんどくせえぇぇぇぇ」
モモコは、頭をかきながらアルバンの後ろを付いていった。




