38.アルバンののろけ
散々な目に遭ったモモコは、温泉から上がると直ぐさまセーブした。
もちろん、フルパワーになったというのが大きな理由だが、また三人が湯の中であのように絡み合うのを繰り返したくないからでもあった。
フェムトが魔法を使って、大型のバスタオルを用意してくれた。
水の吸い込みがよい生地で、このまま体に巻き付ければバスローブに変化する便利物。
なるべく見えないようにと丸めておいた幼馴染みの下着を広げるモモコは、顔を赤らめる。そして、なるべく見ないようにと慌ただしく着替えを始める。
とは言っても、下の方はいいが、上の方となるとバスタオルを取らないといけないし、目をつぶるわけにもいかない。
仕方なく、バスタオルを取ったモモコは、双子の視線を浴びながらブラを着用し始めた。
「着けてあげよっか?」
後ろが見えなくてホックがかからないでいると、フェムトが声をかけてきた。
触りたいという下心が見え見えだが、モモコは助けを借りることにした。
ようやく着替えが終って、三人がアンベールたちの待つ場所へ戻ると、アルバンが「遅い」と文句を言って、アンベールを連れて行く。
モモコが心配して彼らの背中を見送っていると、途中でアンベールが引き返してきた。
そうして、モモコの耳元で囁く。
「どうすればいい?」
「どうもこうも、裸になるしかないだろう」
「男の場合、隠すの?」
「何? 女の場合、隠さないのか?」
「人によって」
「それは、男も同じ。その場の状況に合わせろ」
「と言うことは?」
「アルバンに合わせろ」
「でも……」
「大丈夫。裸になったら、あら驚いた、体が女よ、なんてことはないから、問題ない」
「そうじゃなくて、アルバンが隠さなかったら」
「大丈夫。負けることはない」
「何が?」
「それ以上は聞くな」
首を傾げながら去って行くアンベールに、モモコは右手の親指をグイッと立てた。
温泉につくと、先にアルバンが服を脱ぎ始めた。
彼は、下には何も着ていなかったので、アンベールがドギマギする。
予想通り、アルバンはタオルも用意せずに全裸のまま、スタスタと温泉の中へ入っていった。
アンベールが着替えに手間取っている――実際は恥ずかしくて躊躇っている――と、アルバンが「早く来い」としきりに手招きをする。
やっと脱いだアンベールは、なぜか大事な部分と胸を隠しながら温泉へ入った。
「おかしな奴だ。なぜ下も上も隠す?」
アルバンが怪訝そうな顔をすると、アンベールは答えに窮した。
「まあよい。
それより、こっちに来て、男同士、腹を割って話そうではないか」
言葉をかけられても、アンベールは腹を割って話そうという気にはなれなかった。
そもそも、このアルバンという男は、正体が不明だ。
聖職者とはいうものの、実際に祈りを捧げるところは見ていないし、かといって派手な戦いをしているわけでもない。
単に、自分たちの冒険を監視しているだけのようだ。
モモコは、なぜこんな男を仲間に入れたのだろう。
「何をボーッとしている?」
考えにふけるアンベールは、アルバンの問いかけにハッとした。
「いいえ……」
「その、前から気になっているのだが、なんでアンベールは女みたいな話し方をするのだ?
そして、逆に、モモコはなんで男みたいなのだ?」
「……それは、人それぞれでしょう?
それより、いい加減、こっち向いて立っていないで、温泉に浸かったら?」
「おお、そうだった」
いつまでも男の全裸の正面を見ていたくないアンベールは、とにかく、アルバンに肩まで湯に浸かって欲しかったのだ。
「人それぞれにしては、なんかおかしい。
まるで、お前たちが入れ替わっているようだが?」
図星なので、アンベールは飛び上がらんばかりに驚いた。
幸い、アンベールは湯の中に浸かっていたので、その動揺は水面下での出来事で済んだ。
「気のせいでしょう」
「うむ……。こちらの世界でも、男みたいな女とか、女みたいな男がいるから、珍しくはないのだが」
そう言って、なめ回すようにアルバンが見るので、アンベールは話題を変えることにした。
「アルバンって、好きな人いるの?」
「いないこともない」
「いるってことね」
「アンベール。お前は、モモコをどう思う?」
「いきなり、どうって言われても」
「あのだな……」
「急にどうしたの?」
「好きなのか?」
「好きと言われても……」
「そうか。好きではないのか。
なら、安心したぞ」
「えっ? どういうこと?」
「あのお、そのお、……どうも、好いてしまってだな」
アンベールは、急にモジモジし始めるアルバンの頭へ、チョップを入れたくなった。
アルバンが、モモコにのろけている。
まさかの展開。
「どうして好きなの?」
「勇者タイプの女というのを初めて見た。
無鉄砲だが、優しさも持っていて、それより何より顔立ちが美しい。
急に心が奪われてしまって……」
こんなガキに自分の元の姿が好かれたくないわ、と思ったアンベール――実際は中のモモコ――だが、魅力を感じてもらったというだけで、ちょっぴり嬉しかった。
「私たち、幼馴染みなの」
「なんと! 昔話でも聞かせてくれないか!?」
興奮して立ち上がったアルバンの姿を見て、アンベールは目を覆った。
「なぜ、顔を隠す?
男同士であろう」
「いいから、その格好はやめて。
ちゃんと、肩まで浸かって」
「……わかった。
おかしな奴よのう」
それから、アンベールは、ポツリポツリと昔の思い出話を語り始めた。
目を輝かせて耳を傾けるアルバンの姿を見ていると、だんだん話も弾んだ。
「そうか。そういう奴なのか、モモコは。
ますます好きになった。
よし、私も力になろう。
奴を必ず勝利へ導くためにも」
この時、アンベールは、つい勢いで質問をしてしまった。
「勝利の暁には、どうなるの?」
「願いを一つ叶えてやる。
ただし、二人いても一つだ」
聞いたことのある台詞に、アンベールはドキッとした。
(もしかして、あの時の話を思い出したのかしら!?
入れ替わりに気づいたのかしら!?
……いいえ、そんなはずはないわ)
しばらく考えたアンベールは、おもむろに口を開いた。
「勝利した後で決める」
「いいだろう」
決めるとは答えたものの、実は決まらないだろう。
アルバンは、きっと言う。
二人が入れ替わってこの世界に留まるか、入れ替わらずに元の世界へ戻るかのどちらかだと。




