37.温泉で、はしゃいではいけない
モモコが下を向いて気を揉んでいる間に、バシャバシャという音がして水面が激しく揺れ始めた。少し遅れて、楽しそうな笑い声も聞こえてきた。
ふと、モモコが顔を上げる。
すると、双子は温泉の真ん中まで到達し、互いにお湯を掛け合って、はしゃいでいた。
彼女たちの足の付け根辺りが水面らしく、足は隠れているが腰はそっくり上に出ている。
モモコは、「ああ、ちょうどあいつらの足くらいの深さなんだなぁ」と思いつつ、彼女たちの足の付け根や腰や尻をボーッと眺めていた。
すると、急にモモコは、赤面して目をそらす。
(ま、まずい……俺、どこを見ているんだ……)
目のやり場に困るとは、このことだ。下を向けば、揺れる豊穣な胸があるし、前を向けば無防備な双子の隠しもしない裸体が躍る。
モモコは、仕方なく、彼女たちに背中を向けた。
「おーい、モモコも来なよ!」
フェムトの声が肩を叩く。モモコが、生半可な返事をすると、バシャバシャと水を蹴る音が聞こえてきて、右腕をつかまれた。
「ほらほら」
グイグイとフェムトに引っ張られるモモコは、今の体勢では背中合わせなので、体を彼女の方へ向けた。
ちょうどその時、顔にバシャッとお湯を掛けられた。鼻の中にまで入るほどの勢いだ。
フェムトも被害に遭っている。これは、ゼプトの仕業だ。
「「やったなー!」」
モモコは、恥ずかしさなど吹き飛び、胸が大きく揺れることも気にせず、2対1のお湯掛け合戦に参加する。
童心に返ったようで、無性に楽しくなった。心配事も消え失せた。
お湯の掛け合いっこに疲れた三人は、池の真ん中に集まって腰を下ろし、肩まで湯に浸かった。
「あー、面白かった」
「姉さん、はしゃぎすぎ。モモコも」
「ゼプトだって、結構、力入ってたぞ。
……ん? お前らの体から、なんか虹色に光る物が出ているんだけど」
「モモコも出ている」
「俺も? ……ほんとだ!」
見ると、雪の結晶のような形をした虹色の物――ただし半透明で向こう側が見える――が体から無数に出てきて上昇していく。それらは、ある程度上昇すると、空気の中へ溶け込んでいった。
「何だこれ?」
「回復していることを現している。全回復すると消えるから、わかりやすくていいでしょう?」
モモコは、煌めきながら上昇していくそれらを視線で追う。
周囲の木々の葉が揺れている。時々、風に吹かれたとは思えない動きをするので、鳥とかそれ以外の小動物もいるのだろうか。
「ねえ、モモコ」
「なんだ、フェムト」
「どうすれば、そんなに大きくなるの?」
「知るか」
「姉さん。揉むと大きくなると聞いたけど」
「そうなの、モモコ? 毎日揉んだの?」
「都市伝説だと思うが」
「触らせて」
「いやだ」
しかし、否応なしにフェムトに触られるというか揉まれてしまう。
「私も」
ゼプトまで参戦したことで両方から揉まれてしまったモモコは、二人の手を強く握る。
「こら、やめろ!」
「「痛い!」」
「俺だって、そんなに力を入れられると痛いぞ」
「「だって、柔らかいんだもん」」
「まあ、それは俺も――認めるが、痛いものは痛いぞ。加減しろ」
「加減すれば、揉んでいいんだ」
「しまった。確かにそうなるな……」
「「羨ましいなー」」
「他人が見るとそうかもしれんけど、ここまで大きいと重くて肩が凝る。ジロジロ見られるのもイヤになってくるし、何もいいことなんかない」
「「でも、そうなりたい」」
「隣の芝生はよく見えるものだ」
「「芝生じゃなくて山でしょ」」
「こら、露骨に言うな!」
双子は自分の胸に何か劣等感でも持っているのだろう。でも、何もアドバイスが出来ない。今感じていること以外、モモコは情報を持ち合わせていないのだ。
その後も、なかなか胸の話が終わりそうにないので、モモコは話題を変えることにした。
「そういえば、前に勇者と一緒に行動した話をしてたよな?
その時の勇者って、男だったのか?」
「そだよ」
「どんな奴? 名前は?」
「カミトとか言っていた」
それは、日本人的な名前だ。モモコは、色めき立つ。
「何カミトか、覚えているか!? 日本人か!?」
「知らない」
「勇者と行動したってことは、セーブポイントのことも知ってるのか?」
「知っているよ。
死んだら勝手にそこへ戻るんでしょう?」
「セーブポイントに戻ったとき、周りにいた連中はどうなるんだ?」
「その状態に戻るよ」
「記憶は?」
「自分では自覚できないけど、セーブポイントまでの記憶しか残っていないよ。
勇者が、死ぬ間際に周りで起きたことを質問したことがあって、私たちは覚えていなかったから」
モモコは、それを聞いて安心した。
つまり、記憶が残ったままセーブポイントに戻っているのは、スタート時点での勇者の関係者、つまりモモコとアンベールとエスカのみであることがはっきりしたのだ。後からパーティーに参加したメンバーは、記憶がセーブポイントの状態まで戻ってしまうのだ。
これで、アルバンがモモコとアンベールの入れ替わりを覚えていないことがはっきりした。
その後、世間話をしていると、虹色に光る物が体から出てこなくなった。全回復したのだろう。なるほど、わかりやすくて便利である。
「さあ、そろそろ出るか」
モモコが立ち上がる。
ところが、まだ遊び足りなかったのか、双子がモモコにお湯をぶっかけた。
再び三人ではしゃぎ始めたところ、双子が同時に足を滑らせ、仰向けに倒れ込み水中に沈んだ。
「おい、大丈夫か!?」
モモコは二人を助けようと手を伸ばすも、自分も足を滑らせて、二人に覆い被さるように倒れ込んでしまう。
バッシャーン!
派手な水しぶきを上げて、モモコが水中に沈んだ。
泥がかき回されたので、視界ゼロ状態。
(ん? なんだこれ?)
お湯の中で、両手が柔らかいものに触れた。
(この柔らかさは……)
ふにゅっ、むにゅっ。
(……泥? しかも塊?
片方は大きく、もう片方は小さいな……)
もにゅっ、むにゅっ。
(何だろう、もっと力を入れてみるか……)
モモコが大きさと柔らかさを確かめていると、水中に二人の裸体が見えてきて、ビクンと跳ねた。
(ま、まさか!?)
ザッバー!
双子とモモコが浮上する。モモコは、慌てて両手を引っ込めた。
やはり、つかんだ物は泥ではなかったようだ。
「す、すまん! これは、事故だ!」
双子は、両腕を突き出し、揉むような手つきを見せる。
「「仕返しだー!」」
「あーーーれーーー!」
双子は、モモコを押し倒した。
その後どうなったかは、読者のご想像にお任せする。




