29.魔王軍の暴挙
銀色の集団は、四人。いずれも背が高く、鎧の中はがたいが良さそうだ。
「おい、アルバン。あれが魔王軍か?」
「いかにも」
モモコは、緊張のあまり口内に唾液が溜まる。
(何やってんだ、あいつら?
まだ銃口をこちらに向けない。
まさか、援軍待ち!?)
彼女は、溜まった唾をゴクリと飲み込む。
と、その時、四人の後ろからジャラジャラという金属音とともに駆けつける足音がして、倍の八人になった。
「やっぱ、きたーーーーー!
やっべぇー、マジで、やっべーっす」
思わず、心の声が口から漏れる。
そして、振り向かずに、後ろにいるアンベールへ問いかける。
「アンベール、いつセーブした?」
「さっきの坂を下るとき」
「じょーてきっ! 冴えまくりだぜ、アンベール!
みんな、下がってろ!」
「ありがとう」
アンベールとアルバンとエスカは、後退した。
「そっかー、どーりで、撃ってこないわけだ。
やっぱ、仲間を待ってたんかい」
ニヤッと笑ったモモコは、魔王軍の兵士八人に体の正面を向け、足を大きく開いて胸を反らした。
「大の大人のくせに、4対3+一匹がよっぽど怖いんだぁ」
彼女は腕をしならせ、ビシッと銀の集団に向けて指を差す。
「数で勝負たぁ、卑怯だぜぃ。
でもよ――」
心の中で『聖剣』を念じる。
「燃えてくんだよなぁ――」
目映い光とともに、聖剣が空中に現れた。
「俺ってさ」
宙に浮く聖剣を、ガシッとつかむ。
「セーブ機能がある限りいぃ――」
聖剣の切っ先が八人の兵士の方へ向けられる。
兵士が一斉に光線銃を構える。
「俺たちは、不死身だぜ!」
聖剣は、天を突き刺すがごとく、高く振り上げられた。
「覚悟しやがれ!!」
モモコが啖呵を切ったちょうどその時、モモコの近くで燃えさかる建物から、ウサギの耳をした女性が、乳飲み子を抱えて飛び出した。
その後ろから、スカートをつかみながら付いてくる同じウサギ耳の小さな男の子もいる。
おそらく、ラパン族の獣人の母子だ。
毛皮の茶色を基調として素朴な感じの民族衣装はすっかり煤けていて、顔も薄汚れている。
「おい! 危険だ! こっちに来い!」
モモコがその母子に呼びかけると、彼らは足を止めて、モモコたちと兵士たちへ交互に顔を向ける。
と、突然、兵士の一人が、光線銃の銃口をモモコから母子へ向けた。
ビイィユン!!
銃口から発射された赤くて芯が黄色い棒のような光線が、放電のような唸り声を上げながら、母親を直撃した。
続けて、2発。
それらは、無慈悲にも的確に、小さな男の子と乳飲み子を襲った。
彼らは一瞬にして光に包まれ、人型の光の粒となり、それは空中へ四散して消えた。
モモコは、四肢の血が音を立てて引いていく。
目の前の惨劇に衝撃を受け、危うく聖剣を手放しそうになった。
だが、引いた血液が一気にマグマのように沸騰し、全身を駆け巡る。
体が小刻みに震え、首筋、こめかみの血管が盛り上がる。
「てめーらあああああっ!!!
絶っっっっっ対に、許さんんんんん!!!」
この時、逆上するモモコの全身が、炎に包まれた。
垂れ下がるツインテールまで、上昇する熱気で宙に浮き上がる。
目が赤く燃え、鬼の形相になった。
突然のモモコの変貌振りに、兵士たちは後ずさりを始める。
「な、何が起きたの!?」
アンベールは、狼狽えながらアルバンに問いかけた。
「勇者だけが持っている、隠しコマンド。
オーバークロックだ。
あいつ、無意識で使ったようだな」
「オーバークロックって!?」
「見ればわかる」
炎に包まれる赤鬼のようになったモモコは、動揺する兵士たちに向かって、目にもとまらぬ速さで突進した。




