28.燃える町
早足で歩くこと数分。
ようやく、遙か向こうの雲の壁に、灰黒色の煙の筋が立ち上っているのが見えてきた。
半信半疑だった三人は、ようやく事態を視認できたので、エスカに感謝の意を述べて駆け足となった。
「俺って、損な役回りだな」
「言うな。エスカの能力が、ぶっ飛んでるだけだ」
「お前らだって、俺から見れば十分ぶっ飛んでるぞ」
「まあな。お互い協力して、うまくやろうぜ」
「おう。
なら、赤い球の件は水に流して――」
「やんねーよ」
しかし、走っても走っても、三人の目には町が見えてこない。
「なあ、ハアハア、そのぉ、なんていうかぁ、ハアハア、アルバンのLV5の魔法で全員ひとっ飛びとか、ないのかよぉ?」
「ない」
「俺ならLV4くらいで、どこでもゲート、なんて魔法を習得してやる」
「ない」
「お前、ハアハア、返事がみじけーなぁ。ハアハア、言葉に体力回さねえからだろ?」
「……」
「今度は、無視かよ!」
そうこうしているうちに、噴き上がる黒煙の下から白と茶色を基調とした建物群がせり上がってきた。
耳朶を叩く風に乗って、爆発音や悲鳴のようなものも混じってくる。
「急げ!」
「おうよ!」「はい!」
ちょうど、町までの道が下り坂になったところにさしかかった。
ちょっと呼吸を整え、全員が足を機関車のようにして駆け下りる。
濃い茶色の木枠に白い壁の建物群が迫ってくる。
窓という窓には、様々な色の花が咲き乱れる。
西洋の中世を連想させる、この古風な建物。
モモコとアンベールを、既視感が襲う。
「これ、ロマンチック街道かどこかで見る町じゃね!?」
「そうかも。どこかの町を、そっくりコピーしたみたい」
そんな貴重な文化財的な町が燃えている。
モモコは怒りに震え、雄叫びを上げながら町に突入した。
「こらあああああぁ! 悪いことをしている奴らは、どこのどいつだあぁ!」
だが、無人の石畳はモモコの声を跳ね返すだけで答えない。
窓からも扉からも、顔を出す者はいない。
聞こえてくるのは、声をかき消すほどの熱風の音と、パチパチと爆ぜる音。
モモコは、自分の放水魔法で火事を消そうとし、両手を突き出す。
「あっ……、俺、今、勇者じゃん……。
アンベール、放水で火事を消せ!」
「でも、こんなに多いと――」
「全部とは言ってねえ! 延焼を食い止めるだけ!
まだ燃えていない建物の隣で燃えているのだけでいいから、消せ!」
「わかった!」
すでに、いくつかの建物はガラガラと崩れていった。
「くそっ! 俺が水系の魔法を使えれば――」
と、その時、街路の向こうで無数の足音が聞こえてきた。
「まだ生きている奴がいるぞ!」「奴らを殺せ!」「人質なら奪還せよ!」
口々に叫ぶ集団が、立ちこめる白煙の中から現れた。四人いる。
モモコとアンベール、そして、二人に追いついたアルバンとエスカは目を見開いた。
そいつらは、全員が銀色のプレートメイルにアーメット。
そして、剣ではなく光線銃のような物を持っている。
「なあ、アンベール。聞いていいか?」
「何?」
「ここって、時代設定は中世だよな」
「たぶん、このゲイム、じゃなくって、ミッションは」
「なんであいつら、星間戦争の帝国軍みたいな光線銃っぽいのを持ってるんだ?」
「さあ……」
「ちっっっっっくしょおおおおおぉ!!
どうなってんだよぉ!!
何でもありかよ、この異世界わあああああぁ!!」
激昂するモモコの叫び声が街路にこだまし、銀色の集団の足は石畳に張り付いた。




