26.開拓民の現状
ディフェリタ国には、ユマンと呼ばれる人間以外に、いくつかの獣人族がいて、それぞれ地域ごとにコロニーみたいなものを形成している。
モモコのモフモフの返礼としてたっぷりとボディタッチした彼女たちは、ルゥ族と呼ばれる獣人族。顔は人間そっくりだが、狼に似た耳と短めの尻尾を持っている。
彼らは、耳をモフモフされることは好むが、尻尾の方は大いに嫌う。
ところが、この習性は、獣人族の間で共通ではない。
草原地帯に集落を構える、ラパン族と呼ばれるウサギに似た長い耳と長めの尻尾を持つ獣人族がいるが、こちらは、尻尾をモフモフするのが正解。耳の方は、触るのも御法度。
「なあ、これからは、そういうのを先に言ってくれよなぁ」
「お前は、獣人族に会う度に、いちいち耳や尻尾を揉むのか?」
「いや、可愛いから、つい……」
「揉まれる身にもなってみろ」
「揉むってか、モフモフするって言って欲しいが……」
反論するモモコに、アルバンが半眼を向ける。
「そうやってハーレムを作るのが趣味か?」
「ハーレム? 急に何の話だ?」
いつの間にか、モモコは両側からルゥ族の彼女たちに腕を組まれている。
「いやいやいや、ハーレムの中心に、女はいないっしょ!」
「すっかり、懐いてしまったな。
情が移る前に、町へ行くぞ」
「そうだな」
モモコは、優しく両方の腕を女性が絡めている腕から抜いて、二人に別れを告げる。
それからしばらくして、一行は林を抜けて牧草地帯に出た。
なだらかな起伏が所々にある緑のカーペットは、コバルト色の空の下でどこまでも続く。
ブレザーがちょっと暑く感じる日差し。
それを時折遮りながら流れていく雲。
柔らかな牧草の匂いを乗せてくるそよ風。
モモコは、ふと、ここで牧畜でもやってのんびり暮らした方が魔王討伐よりいいような気がしてきた。
周囲をゆっくり見渡しているうちに、モモコは、アンベールどころか、エスカにも抜かれた。彼女は、慌てて足を速める。
「なあ、アルバン」
「何だ?」
「ここは、開拓民の土地か?」
「いいや、ここいらはラパン族の土地だ」
「ああ、あの、耳を触ってはいけない族」
「まあ、そういう言い方も、なきにしもあらず」
「また二重否定ね」
アンベールの突っ込みに、モモコは苦笑する。
「じゃあ、開拓民は、どこにいるんだ?」
「荒れ地だ」
モモコは、歩みを止めた。
「荒れ地?」
アルバンは、振り向かずに先に行く。
「左様。だから、開拓民なのだ」
「だからって、言われても……」
「未開拓の土地を開拓する。だから、開拓民」
「ふーん。
なら、たとえば、さっき、ってか大分前に森を抜けた辺りか?」
アルバンが、つんのめるように足を止めて、振り返った。
「…………左様」
「ああ。なるほどね……。
そういや、森を開拓する、なんて選択肢があったよな」
モモコは、腕を組みながら顎に手を当てる。
「でも、草ボウボウだったぞ。
耕している感じがしない」
「……」
「なあ、開拓民って、俺たちみたいに、無理矢理違う世界から連れてこられたんだよな?」
「……左様」
「十人は軽く超えるんだっけ? 開拓民って。
みんな、今どうしてるか、知ってるか?」
「知らぬ」
「おいおい、無責任だな」
「魔王討伐を選ばなかった者など、興味はない」
「ひどくねぇか?」
「……」
「慣れない世界で、土地を捨てて逃げた奴らも多いんじゃないか?
今、目の前にある風景を見ていると、開拓民で町作りもいいかなと思ったけど、俺、そいつらを助けたい。
魔物を退治して、安心して生活できるようにしてあげたい」
「それを言うなら、これから行く町を見てからにしろ。
まずは、そこを先に助けたくなるはず」
言い終わると、アルバンはプイッと前を向いて、ずんずんと先へ歩いて行った。




