25.モフモフが止まらない
アンベールは、手にしていた聖剣を地面と平行になるように両手で持って、軽く頭を下げた。そして、恭しくその剣をモモコへ差し出す。
勇者譲渡の即興の儀式が開始されたので、モモコは慌てて直立不動となり、「謹んで勇者をお受けいたしたく候ゴニョゴニョ」とつぶやきながら、表彰状の受け取り方がわからない生徒のような手つきでそれを受け取る。
すると、聖剣はモモコの手の上でフッと消えた。
代わりにロングソードを返そうと左手を伸ばしたが、プスッとも言わない。
モモコとアンベールは、ほぼ同時にステイタス画面を表示すると、ロングソードはすでにアンベールの方へ移っていることがわかった。
もちろん、他のアイテムも全てが入れ替わっている。
試しに、アンベールが右手を真横に振ると、ロングソードが現れた。これには、モモコだけではなく、獣人族の女性たちも拍手喝采した。
その時、モモコは、女性たちのモフモフの毛に覆われた三角形の耳がピクピクと動くのが気になった。
キツネか狼の耳のように、上に尖っていて、間近で見ると割と大きい。
視線を吸い寄せられたモモコは、拍手をする格好をしながら、二人の背後へソッと近づく。
急に、忘れかけていた欲望が、ムクムクと頭をもたげてきた。
ほぼ条件反射のように、まだ拍手していて隙だらけの二人の耳へ、影絵のキツネの新しいバージョンみたいな手つきになった両手が伸びていく。
ハムッ。
捕まれた二つの耳は、堅さと毛触りを渇望していた指先で激しく揉まれた。
「はうぅん」「あふぅん」
二人のあえぎ声を聞くモモコは、アドレナリンが分泌されたかのように心拍数が高まり、ニヤニヤが止まらず、さらに指先の力を入れて揉んでいく。
「ああぁあん」「ふあぁあん」
身もだえを始める二人の後ろ姿にも興奮してきたモモコは、このモフモフ、時々コリッという感触に天にも昇る気持ちになっていく。
と、突然――、
スパーーーーーン
平手打ちの乾いた音が聞こえたかと思うと、脳天を両手で押さえたモモコがしゃがみ込んだ。
「つつつつっ……。何しやがる!」
振り返って見上げるモモコの視界には、いつの間にか背後に回っていて冷たい視線で見下ろすアンベールが映っていた。
「このロングソードでスイカ割りされなかっただけましだと思え」
「乱暴で物騒な勇者、もとい、魔法使いだなぁ」
「二人が困っているだろうに!」
「喜んでいたようにも……」
ここでアルバンが、ちょっと恥ずかしそうな顔をして、会話に割り込んできた。
「あー、なんだな。
そのー、モモコが男ではなくて良かったな。
そちらの獣人族――ルゥ族に対するその行為は、男なら求愛かプロポーズに近いぞ。
ただし、最終的に決めるのは、そっちの女性だが」
「女なら?」
アルバンの耳が赤みを増す。
「まあ、その、あれだな」
「はあ?」
「そっちの気がある、ということだ」
「はいぃ!?」
「ほれ。もう遅いぞ。向こうもその気になったようだ」
上気した顔を二人に向けたモモコは、どことなく彼女たちがトロンとした目をしていることに気づいた。
「わりぃ、わりぃ! 柔らかそうだったから、つい!」
両手を顔の前で振りながら、眉をハの字にしたモモコが立ち上がると、これまた上気した彼女たちに飛びかかられた。
「わわわわわっ! たちけてくれえええええぇ!」
モモコは、二人に押し倒され、ベタベタといろいろなところを触りまくられる。
「天罰ね」「だな」
アンベールもアルバンも、腕を組んで冷ややかに三人を見つめていた。




