22.獣人族
意識が戻ったモモコとアンベールは、森の中にいた。
ここは、少々手こずったものの二人がかりで魔獣を倒した後で、アンベールがセーブした場所だ。
「森の出口は近い。行くぞ」
そう言いながらスタスタと去って行くアルバンの背中を追いながら、モモコとアンベールは顔を見合わせ、無言で頷く。
緑のドレスの女によってモモコが殺されたので、ここに戻ってきたのだ。
森を抜けると、目の前に広がる既知の光景に二人は安堵する。
腰までの高さの草が、風に撫でられて揺れる様は、海辺で穏やかな波を見ているようだ。
所々に群生する木々は、波に洗われる岩にも見える。
「フー。やっと抜けたぁ」
「汗をかいたわ」
「お前たちも、序盤とは言いながら、あの戦いぶりは上出来だ。
経験値もかなりアップしたのではないか?」
そう言いながら振り返るアルバンに、モモコたちは微笑みかける。
「どうした? ステイタス画面を確認しないのか?」
そのアルバンの問いかけに、モモコは心臓が跳ね上がった。
(ま、まさか、ここに来るのが二度目だって知ってて言ったのか!?)
動揺を隠しながら、モモコは言葉を返す。
「い、いや。どーせ、LVがアップしたら、ピロローンってメッセージがポップアップするんだろ?」
「ま、それはそうだが……」
モモコは、納得しない顔のアルバンから視線を切って、例の獣道を見やった。
気のせいか、もう耳鳴りがする。開拓民の廃屋の前に立ったときに襲われた、あのジーンという耳鳴りだ。
「さあ、町に行くぞ」
背後から声をかけるアルバンに、モモコは振り向かずに「おお」と返事をする。
この先へ行くと、大きな酒瓶をラッパ飲みする例の女がいる。
そいつは、緑のドレスを着ていて、幅広のフォルシオンの一振りで、遠方から肉体を切り裂く。
あれでLV3。
なら、LV5のアルバンは、どれほどのスキルの持ち主だ?
自分たちが目指すLV10とは、いったい、どれだけチートなスキルなのだ?
「おい、モモコ。聞こえないのか?」
意識が獣道の先に引き寄せられていたモモコは、アルバンのさらなる呼びかけにハッとして振り返った。
「わりぃ、わりぃ」
モモコは、足早にその場を立ち去った。そして、アンベールとエスカとアルバンまで抜き去って、先頭に立って歩き始めた。
すると、モモコは、また例のことが気になり始めた。
たわわな胸が、足を運ぶ度に、ぷるんぷるんと揺れるのである。
顔を赤らめたモモコは、歩幅を狭くする。
次に気になったのは、ミニスカート。
歩く度に足が当たるのだが、生地が厚くて柔らかくない。
なんかこう、アニメで見るように、フワッと風をはらんでプリーツが広がり、柔らかく翻らないものか。
モモコが苦戦していると、後ろからアンベールに脳天をチョップされた。
「何、腰を振っている?」
「痛つつつつっ……。
いや、これが、ふわふわにならないかと」
「なるか、馬鹿。
見ててキモいから、やめろ」
「へーい」
今彼らが歩いている道は、先ほどの獣道より倍の広さがある。
これがくねくねと続き、徐々に道幅が広がっていく。
ついには、人が二人並んで歩ける広さになった。
さらにその道に沿って突き進むと、林の中に入った。
これまた、くねくねしていて先が見えず、どこまでも木々が続くので、歩きながら不安になっていく。
「おいおい、これ、本当に町へ行くんだよな?」
「そうだ」
「あと、どんくらい?」
「半日だ。日が沈む頃には着くであろう」
モモコは、急にしゃがみ込んだ。
「はううぅ……。お日様より前に、俺の腰が沈みましたー」
「ここは、魔獣がうようよいるからな。置いていくイコール死につながる」
「それは開拓民でしょ? 俺は勇者だよ」
「勇者は、アンベールであろう?」
「おっと、そうだった……。俺、魔法使いだったな」
と、その時、前方から「助けてー!」という女性の声が聞こえてきた。
見ると、道の向こうから、二人が駆けてくる。
アルバンが、ボソッと言う。
「あれは、獣人族だ」
モモコが目をこらすと、その二人は、頭の上に耳が付いていた。
それは、なんとなく、モフモフの耳に見える。
触ると柔らかそうだなぁ……。触らせてくれるかな?
そんなモモコの欲望は、彼女たちの後ろから追いかけてくる、巨体で黒い熊のような魔獣の姿によって、霧散した。
「アンベール! 行くぜ!」
「わかった!」
二人は、女性たちの救出に向かった。




