20.開拓者の廃屋
獣道は、近くの群生した木々を迂回するように出来ていた。
そのまま、まっすぐ突っ切れば近道だろうに、そうしなかったのは、獣なりに何らかの理由でもあったのだろうか。
そう考えながら道を大股で歩くモモコは、それまで間断なく襲いかかる魔獣との戦いに夢中だったので気づかなかったあることに、今更ながら気づいてしまった。
豊かに成熟した胸が、足を踏み出す度に揺れるのだ。
気持ちがそちらに向いてしまうと、とことん気になってしまう。
ヤバい、ヤバい、とモモコは、歩幅を狭める。
さらに今更ながら、ミニスカート――と言っても元のモモコが単に折り返して短くしていたスカート――の生地が意外に厚いことに気づいた。
絹のように柔らかく、フワッと風に揺れるなんて、漫画で見るような可愛らしい動きはとても出来ない。
いくら、プリーツが付いていても、絵に描いたように翻らないのだ。
「どした?」
横を通り過ぎていくアンベールが、モモコへ振り返る。
「い、いや……別に」
アンベールの目線が、モモコの肩の下辺りに移動した。
「気になる?」
何を言う、お前の視線の方が気になるぜ、とモモコは言い返したくなった。
体が入れ替わっているとは言え、膨らみに視線を向けられると、刺されるくらい強く感じてしまうのだ。
だが、口をついて出てきたのは、思っていることとは反対の言葉だった。
「そうでもない……」
アンベールは、フーンと鼻で返事をして半眼になる。
「腰、振ってたけど」
確かに、スカートをフワッと優雅に揺らそうとしていたような気がする。
カーッと赤くなるモモコへの視線を切ったアンベールは、「慣れろ」と一言言って、先を歩いて行った。
モモコは、ソッとため息をつく。
「あっ……、そうだ」
突然、アンベールが首だけ振り返る。
「お腹痛くなったら、言って」
今度は、アンベールが頬を赤らめて、プイッと目をそらした。
そして、大股で去って行く。
首を傾げるモモコは、その背中を追った。
2分ほど歩いて行くと、木々の陰から小さな小屋が現れた。
アンベールが、ギョッとして立ち止まった。
その小屋は、生活感が全く感じられないものだった。
屋根にまで草が生えて、壁には穴がいくつもあり、柱も傾いている廃屋。
その周囲は、家を占拠しようと押し寄せる雑草が、枯れた作物らしいものをも隠している。
と、突然、モモコはジーンと耳鳴りがしてきた。それは、近づいてはいけないとの予知のようにも感じた。
アンベールも同じだったのだろう。両耳を押さえて立ち尽くしている。
その二人を追い越して、アルバンが小屋へ近づいていった。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「任せろ。お前たちは、近づくな」
「ちょっと待て! 俺も行く」
「来なくてよい」
「駄目だ。
疑って悪いとは思うが、何か隠している気がする」
「隠してなどいない」
「なら、一緒に行ってもいいだろう!?」
「……まあ、よい」
モモコは、アルバンと肩を並べて廃屋へと向かった。
ドアを開けるまでもなく、壁の無数の穴から廃屋の中の様子がうかがえた。
床から生える雑草。朽ちた机。壊れた椅子。
木材は、雨風にさらされて木の色を失い、白骨のように白くなっていた。
「なあ、聞いていいか?」
「何だ?」
「ここは開拓民の家だろ?」
「そうだ」
「いつから、こうなっている?」
「1年前からだ」
「住民は?」
「1年前から見ていない」
「と言うことは、やっぱり知っていたな?
なぜ、ここに近づけなかった?」
「こういう廃屋は、夜盗どものねぐらになっていることが多いからだ」
モモコは、夜盗という言葉にドキッとし、同時に、アルバンの心遣いも感じた。
「悪かった。そういうことか」
「うむ。
ん? ……ちょっと待て」
「どうした?」
「誰か来る。隠れろ!」
急に、アルバンが近くの木々の中へ走って行く。
モモコもアンベールもエスカも、彼に従った。そして、手頃な太さの木の裏に隠れた。
顔を半分出してしばらく様子を窺っていると、金髪で緑のドレスの女が廃屋に向かってフラフラと歩いて来るのが見えた。
こんな昼間から酒を飲んでいるらしく、大瓶をラッパ飲みしながら千鳥足だ。
と、その時、女が持ち上げる大瓶がピタリと宙に止まった。
目だけがこちらを見ているように思える。
モモコが緊張のあまり唾を飲み込むと、それが聞こえたわけではないだろうが、女がこちらを向いた。
「おい! そこにいるのは、わかっているよ! 出てきやがれ!」
女のヒステリックな声が、辺りにこだました。




