18.気になる幼馴染みの体
「あのさあ、アンベール」
「何?」
「人前では、すっげー言いにくいことなんだが……」
「だから……何?」
「この女にだな。
そのー、魔法『ズレーブラー』をかけられたらしいんだ。
――うわっ! 痛っっってえ!!
思いっきり頭を叩くなよ!」
「派手に戦って、下着がずれたんでしょ!
脱ぎなさい!」
「でもぉ……」
「いいから!」
「はい!」
「それに、アルバン! エスカ! 向こうを向いてて!」
「承知した」「へーい」
モモコは草原の上で正座をし、上半身裸になって、顔中を赤らめていた。
草花を撫でる微風が、火照った肌をも優しく撫でていく。
こうして、大人しくアンベールに下着を再装着させられているのだが、第三者から見た角度で今のこの状態がどう見えているか。
それを想像しただけでも、全身の脈という脈が同期し、血管が波打つ感覚に襲われる。ドキドキどころか、バクバクなのだ。
元はと言えば、モモコがアンベールの姿をしているのだから、自分が自分の下着を直しているので違和感はない。
だが、どう見ても、男が女の下着を直しているとしか思えないのだ。
その映像――想像図は、目を固く閉じても頭を振っても、脳細胞にしっかりと刻まれる。
豊穣な胸に、アンベールの指が押してくる。弾力のある肌が、その指を生意気に押し返す。
ドーム型の厚めの布との格闘は、簡単には終わりそうにない。
「ちょっと、紐を調整するわね。
これ、買ったばかりだから――」
独り言を耳元で囁くアンベールに、モモコはクラクラした。
どうも調整に時間が掛かっているらしいので、その間、ちらっと目だけを下に向けてみる。
双丘の深い谷間が影を作る。その両側は、淡いピンクの布に包まれ、揺れている。
柔らかな肌から、体温の温かみを伴って、良い匂いが漂ってくる。
これで、頭のてっぺんから湯気が噴き出す気分になり、モモコは反射的に目をそらした。
いつも一緒に遊んでいた幼馴染み。
いつも冗談を言い合ったり、馬鹿なこともやったり、一緒にご飯やおやつを食べたり。
男友達と、あまり、変わらない接し方。
でも、だんだん気になり始めたことがあった。
太っているわけでもないのに、たっぷりとした、モモコの胸の膨らみが。
それは躍動的、揺動的、肉感的、時には……官能的。
いつも、目は、どうしても磁石に抗えない鉄のように、そこへ吸い寄せられた。
今は、それが自分の体にある。間近に、目から15センチメートルくらいのところにある。
しかも、重量感がある。現に、肩が凝る。
歩いただけで、上下に振動する。
こんなことを考えれば考えるほど、頭の血管がもう限界と叫ぶほど、血が逆流してくるのだ。
「はい。少し、紐を調整したわよ」
モモコは、背中から声をかけられ、ポンと叩かれた。
「お……おお……」
「早く、服を着て」
「え? どうして?
アルバンたち、まだ、こっち見てないぞ」
「あのさ」
「どした?」
「早く着てくれないと――」
「うん」
「今、下の方が固くなってて――」
「わかった、わかった!
はい、深呼吸、しんこきゅー。
落ち着け、おちつけー」
「ちっとも収まらないけど。ますます固く――」
「大丈夫だ。
時を統べる精霊が、全てを解決する。
大船に乗った気持ちでいろ。
問題ない」
「もしかしてだけど」
「ん?」
「いつもこうなの?」
「お願いだ。そこんとこは、深く追求せんでくれ……」
モモコは、二回目だが、まだ慣れない手つきでシャツを着てからブレザーを羽織った。
そして立ち上がり、服やスカートをポンポンと叩いた。
「後ろを向いて」
その言葉にモモコは、手が届かないところを叩いてくれるのかと思い、アンベールに背を向ける。
すると、いきなり、後ろから抱きつかれた。
息が止まり、声が出ない。
背中に体が密着され、体温まで感じる。
さらに、後頭部に額や鼻を押しつけたようだ。
首筋に吐息がかかるので、ひどくくすぐったい。
「……ど、ど、どした!?」
「よかった……。時間が戻って」
「あ、ああ。…………だな」
「あの時、自分が刺されたかのように感じて、凄いショックだった」
「俺もショックだったぜ。モモコ自身の体を傷つけちゃったから。
ゴメンな。
でもさ。あんときの敵は討ったから」
「時間が戻ったから、敵じゃないわよね」
「それが、この世界の不思議なところさ。
体は入れ替わるわ、時間は戻るわで」
「そうね」
「魔王を討伐したら、その先――どうする?」
モモコの後頭部から、額と鼻が離れていく。
「そうねぇ…………」
「俺、アンベールの願いなら、何でもいいぜ」
「なら、よく考えておく」
「ああ、よろしくな」
と、その時、足下から待ちかねたような低い声が聞こえてきた。
「お楽しみ中、悪いが、そろそろ旅立つぞ」
「おっと、待たせたな、エスカ」
「おい、私もずいぶん待たされたぞ」
アルバンが、ケーンで地面をドンと叩いた。
「わりぃ、すっかり忘れてた。
アルバン、お前、この森の抜け方を知ってるよな?」
「もちろんだ。付いてこい」
アルバンは、大股で歩き始めた。




